自転車で悪質な違反をした人に安全講習を義務づける新制度が始まった先月1カ月間に、警察が「危険行為」として摘発し名前などを登録したのは549件(6月30日時点の暫定値)だった。警察庁が6日まとめた。3年間で2回摘発されると受講対象になるが、2回摘発された人はいなかった。

 警察庁によると、行為別では、信号無視が231件で最も多く、遮断機を無視した踏切への立ち入り(195件)安全運転義務違反(35件)一時不停止(32件)、ブレーキ不良(16件)が続いた。都道府県警別では、多い順に警視庁(189件)、大阪(121件)、愛知(51件)、兵庫(49件)、神奈川・京都(37件)だった。

 警察は違反行為を見つけるとまず指導・警告をする。危険行為として摘発するのは指導を無視するなどの悪質な場合だ。警察庁幹部は「ルール順守を徹底してほしい」と話している。

自転車マナー上向く?有料講習義務化 大阪の実態は
田渕紫織、荻原千明
朝日新聞 2015年6月30日06時55分

 今月施行された改正道路交通法で、自転車で危険運転を繰り返す14歳以上の人に5700円の有料講習が義務づけられた。新制度は違反を防ぐ特効薬になるのか。自転車が絡む人身事故数が全国最多の大阪で実態をみた。

■記者は見た「堺筋の逆走、47%」

 「都心部でも有数の自転車の通行量」。そう捜査関係者に教えられ、大阪・日本橋の堺筋に向かった。

 両側に電器店やフィギュア専門店が並ぶ。歩道は自転車の通行が許可されているが、買い物袋を持った歩行者でごった返している。

 ほとんどの自転車は車道を走っている。南下する自転車が多い。

 しかし、これは逆走だ。

 大阪万博が開かれた1970年以降、堺筋は車も自転車も北向きの一方通行になった。車道での逆走は、講習の対象となる危険行為の一つ「通行禁止違反」に当たる。逆走で斜めに横断し、乗用車とぶつかりそうになる人もいた。

 午後6~7時の1時間、日本橋3南交差点(大阪市浪速区)に立ち、車道を走る自転車を数えた。通過した418台のうち逆走は47%の198台にのぼった。

 「違反2回で講習っていうのは厳しすぎる」と同区の女性会社員(48)はぼやいた。商品の配達で自転車を多く使う。「車やったら一方通行を守るけど。自転車でも守らなあかんとなると、小回りが利かず仕事に支障が出る」

 帰宅途中だった同市阿倍野区の会社員男性(30)は「一方通行の標識を意識したことはない。交通整理の警察官がいればもっと気をつけるのに」と話した。

 平らな道が多い大阪では通勤や通学に自転車がよく利用されていると言われる。御堂筋など一方通行の幹線道路も多い。大阪府警は逆走の自転車が車と衝突する危険性が高いとして、信号無視や一時不停止などとともに警戒している。

 府内で昨年に起きた自転車が絡む人身事故は全国最悪の1万3228件(自転車側の死者34人)。特に歩行者との事故(300件)がこの10年で2倍自転車同士(520件)は1・6倍に増えている。府警は4月に全国初の専従部署「自転車対策室」(11人)を発足し、取り締まりや安全教育の方法を検討している。

 新制度で事故を減らせるか。府警が期待するのは、講習の中の「討議」だ。昨年11月、交通切符(赤切符)を切った10~70代の男女31人に協力してもらい、討議を試行した。

 「なぜ信号無視をしたのですか?」「急いでいたので」「どうしたら直せますか?」「余裕を持って行動します」……

 警察官と違反者が話し合い、危険な運転をした理由を考えてもらう。アンケートでは「今後運転がかなり変わる」と回答した人が25人、「多少変わる」が5人、「まったく変わらない」が1人だった。府警の担当者は「乗り方を改善しようと思う人が予想より多かった。自ら考えてもらうことが必要だと感じた」と話す。

■事故被害者「まだ不十分」

 神戸市北区の中石鐘美(かねみ)さん(67)は新制度について「改善だが、不十分。13歳以下は講習の対象外だし、命に直結するスピードの規制もない」と話す。

 妻の喜美子さん(70)が2008年9月、自宅近くの坂道を時速20~30キロで下ってきたマウンテンバイクにはねられ、脳に重い障害を負った。今も歩けず、話すこともできない。自転車に乗っていたのは当時11歳の小5男児だった。

 鐘美さんは毎夕、車いすに喜美子さんを乗せて近所を散歩する。現場と別の坂道を猛スピードで下りてくる自転車を見かける。多くが小学生だ。「子どもは危険を察知する力が未熟だからこそ、被害者にも加害者にもならないような対策が必要ではないか」

 喜美子さん側は、男児の母親に損害賠償を求めて提訴。計約9500万円を支払うよう母親に命じる判決が大阪高裁で確定したが、母親は昨年春に自己破産し、賠償金は支払われていない。兵庫県はこの事故をきっかけに、10月から自転車利用者に保険加入を義務づける条例を施行した。

 交通問題に詳しい高山俊吉弁護士(東京弁護士会)はここ数年、高額の賠償金を求められる自転車事故が多発して取り締まりが強化される一方、安全教育が十分に広がらなかったと指摘。「新制度は交通ルールの意識づけにつながり、一定の効果は期待できる。だが、なぜ自転車事故の高止まりが続いているのかを分析しきれておらず、罰則だけが突出した感がある。罰則と安全教育をバランスよく進めるべきだ」と話す。(田渕紫織、荻原千明)

■傘スタンド「使用控えて」

 「ハンドルに取り付ける傘スタンドはだめなのか」。新制度の施行後、府警にそんな問い合わせが相次いでいる。府警は使用を控えるよう呼びかけるチラシを警察署で配布し始めた。

 自転車対策室によると、スタンドの使用だけでは危険行為に当たらない。ただ、傘がハンドルの両端から計30センチを超えてはみ出ると、府道路交通規則違反(2万円以下の罰金または科料)になり、人身事故を起こせば危険行為の「安全運転義務違反」とみなされる可能性がある。

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 〈自転車運転者講習〉 14類型の危険行為で3年以内に2回摘発された人に有料講習を義務づける。講習は約3時間。危険運転の原因を警察官や他の違反者と話し合い、多額の損害賠償を支払った訴訟についても学ぶ。交通ルールに関する筆記テストを受け、最後に感想文をまとめて発表する。受講を拒むと、5万円以下の罰金が科せられる。

 警察庁のまとめでは、自転車が絡む昨年の事故は約10万9千件。同庁は11年10月に取り締まりの強化を指示。昨年の摘発は8070件で、統計を取り始めた06年の13・8倍となった。

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自転車は、車両であるという基本認識を持っていない人が多く、平気で歩道を我が物顔でベルを鳴らしながら走る人も絶えません。こういう無神経な人たちが、信号無視や一方通行無視を起こすのでしょう。残念なことです。

自転車マナーの改善は、喫緊の課題です。