忍之閻魔帳

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【日本アカデミー作品賞&主演男優賞】映画「ミッドナイトスワン」縁を探す旅の果てに

2021年03月20日 | 作品紹介(映画・ドラマ)

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▼「ミッドナイトスワン」日本アカデミー作品賞&主演男優賞を獲得

二宮和也が同時にノミネートされていて、まさかこちらが最優秀主演男優賞を獲るとは
日テレとジャニーズの蜜月関係を知っている人ほど信じられないという思いだったのではないか。
単純に芝居だけで言えば今年の顔ぶれでは草彅剛がぶっちぎりでトップだった。
それでも、ノミネート止まりだろうと誰もが予想していたはず。
しかし結果は「ミッドナイトスワン」が最優秀主演男優賞と最優秀作品賞のW受賞。
昨年の「新聞記者」に続き、またしても日本アカデミーが脱・忖度路線を明確に打ち出した。
バラエティや音楽番組は無理でも、映画だけはなびかないという強い姿勢は高く評価したい。
北野武から「しょせんは大手事務所の俳優と大手配給会社の持ち回りで決まる」と言われ
樹木希林には「もっと立派な賞になって」と言われた日本アカデミーは大きく変わろうとしている。

もちろん、今年の賞レースにおいても、毎日・報知・キネ旬報などを席巻した
水川あさみや森山未來がノミネートすらされないなど、まだ大手の顔色をうかがっているフシはある。
(水川・森山は二人とも個人事務所)
来年・再来年とさらにこの路線を推し進め、信頼度の高い賞になっていって欲しい。
そのためにまずは来年、坂上忍を司会から降ろしてくれ。

以下、受賞記念に過去ログを再掲。



▼映画「ミッドナイトスワン」縁を探す旅の果てに


公開中■映画:ミッドナイトスワン

草なぎ剛が初のトランスジェンダー役に挑んだ本作の監督は
Netflixで配信された「全裸監督」が大きな話題を巻き起こした内田英治。
育児放棄により行き場を失ったヒロインには、オーディションで選ばれた新人・服部樹咲。
共演には水川あさみ、田口トモロヲ、真飛聖など。
トランスジェンダーの生き様を描き、オスカーの外国映画賞を受賞した「ナチュラル・ウーマン」や
ゲイカップルが子供を養育する厳しさを描いた「チョコレート・ドーナツ」など
こういった題材はやはり洋画が先進国であり、邦画はどうしてもBL中心になっているが
本作はそういったファンタジーBLばかりが溢れている日本の映画・ドラマ業界に一石を投じるシビアな作品。

スパンコールと羽根飾りをつけて
今夜もあたしの出番が来る
ありえないような お伽の駅から
今夜も 男たち 旅立ってゆく

二文字 砕けた 呼び込みのネオンは
おかげで 故郷のつづりと似てしまった
霧の深い夜は 大好きよ
5m先に あの日の夢たちが 映画みたいに映る

夢は57セント 1度足を上げる値段
夢から夢へ綱渡り
SUGAR SUGAR 砂糖菓子  中島みゆき『シュガー』


幼い頃からアイデンティティに悩んできた凪沙は、夜の街で酒を振る舞いながら
白鳥のコスプレをしてステージに上がり、ニワカ仕込みのバレエを踊っている。
陽の差す時間帯には居場所がない彼女たちは、夜の帳が降りてから活動を始める夜光虫。
世間話と男の愚痴を酒で流し込んでは朝日の昇る頃に家へと戻って眠りに就く。
そんな凪沙のもとへある日やってきた一果は、バレエダンサーを夢見る寡黙な少女。
母親の育児放棄ですっかり心を閉ざしてしまった少女にも同情を見せない凪沙のドライさが
頑なだった一果の心を少しずつ解きほぐしてゆく。

凪沙が手に入れたいものは、どれだけ求めても手に入らない。
喉をかきむしるほどに渇望しても、決して手に入らない。
フェイクで十分じゃないかとどれだけ自分に言い聞かせても
諦めきれない想いは時折間欠泉のように表面に吹き上げて、凪沙の心を掻き乱す。
一果は、今は何もかもに投げやりではあるが、手に入れられる可能性がある。
諦めることを強いられてきた凪沙が、一果の夢に賭けてみたくなるのは当然だろう。
捨て鉢だった一果を抱き締めて「大丈夫」と繰り返す凪沙から発せられるのは紛れもない母性だ。
同時に、一果を助けることが、自らの身を陽のあたる場所へ連れ出す
唯一の希望としてすがっていた部分もあるのだろう。
人生とは、「この子のために生きる」「この人となら生きていける」との確信を得られる
相手を探し続けることなのかも知れない。
縁(よすが)を探す旅で出会った二人は、紙(戸籍)で認められた親子関係以上に母娘だった。

一果が年齢からすると少し早い「白鳥の湖」に固執しているのは
呪いから解放されるためにもがくオデットに自身を投影しているからであろう。
一果を救い出そうとする凪沙が「白鳥の湖」のジークフリート王子の化身とするならば、
本作は変形のラブストーリーと言えるのかも知れない。

ずっと胸が詰まる展開ばかりで、もう少し息抜きになる場面が欲しかった。
凪沙はずっと世の中に悪態をついた毎日ばかりでは無かったはず。
それでは彼女の人生が佗し過ぎる。
同じクラブで働く仲間と、楽しい話に花を咲かせることも多々あったろう。
人は誰しも、陽の面があるからこそ、陰の面を歯を食いしばって耐えることができる。
夜の街で何年も生き抜くには絶対的にタフネスが必要で
世を儚むシチュエーションが続けば
「もう少しだけ生きてみようか」と思える関係が必ず構築されるように出来ている。
私が新地でシェーカーを振っていた頃、そんな場面をいくつも見てきた。
夜の街に生きるダークサイドばかりにスポットが当てられていて、
やり過ぎ感のせいでちょっと大映ドラマっぽくなってしまったのが残念。
水川あさみ演じる母親の心変わりの部分にもう少し踏み込んで
後半の展開をもう少しリアリティを重視していれば、
洋画のLGBT系作品と比較しても遜色ないクオリティまで到達できたはず。

この映画が素晴らしいのは、飯島女子がエグゼクティブプロデューサーを務め、
カレンが制作をし、草なぎ剛が主演でありながら、一果(服部樹咲)の物語になっていること。
夜の街で偽物の白鳥を演じていた凪沙が、一果を本当の白鳥にするための物語であり
一果を演じた服部樹咲は、「誰も知らない」の柳楽優弥や
「ラストレター」の森七菜を上回るほどの鮮烈さをスクリーンに焼き付けている。
バレエの技量でこの役を勝ち取ったと何かで読んだが、どうしてどうして芝居も良い。
今はまだ監督の指導により良い表情を引き出されているに留まっているが
今後彼女自身が芝居をする楽しさに目覚めれば、一気に人気女優の道が拓けるはず。
カンヌ映画祭あたりに出品すればかなり話題を集めそうな気がする。

そして草なぎは、己の立ち位置を「陰の主役」まで一段階落として
服部樹咲を全力でサポートしている。
その姿が、一果を本物の白鳥にするために奮闘する凪沙と被る。
本来ならば大御所俳優が担うべきポジションをさらっと演じた本作は彼の代表作になるであろうし
この作品がジャニーズ事務所への忖度で不当な扱いを受けないことを切に祈る。
特に昨年「新聞記者」に作品賞を選んだ日本アカデミーが、
二年連続で脱・忖度路線を見せて賞の信頼性を取り戻すことが出来るのか注目したい。
(2021年3月20日追記:ちゃんと最優秀主演男優賞を与えて着実に信頼を取り戻しつつある)

最後にひとつだけ。
エンドロールが終わった後の最後のシーンがとても美しい。
ラストシーンのネタ明かしとしても意味を持っているので
途中で席を立たず、最後まで見届けていただきたい。

映画「ミッドナイトスワン」は現在公開中。


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配信中■Kindle:ミッドナイトスワンSPECIAL CINEMA BOOK
配信中■Amazonビデオ: 草彅剛 関連作品一覧

Kindleストアでは電子パンフレットも販売中。
草彅剛の特別インタビューや、キャラクター相関図、著名人による映画評、
写真家・渞忠之が撮り下ろした凪沙のポートレートや
小説版『ミッドナイトスワン』の冒頭部分の収録など、トータル50ページ以上。
そうか、パンフを電子で売るというのは今後ありかもしれない。



▼「ミッドナイトスワン」を観た人はこちらも


配信中■Amazonプライムビデオ:リリーのすべて

世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・エルベの人生を
「英国王のスピーチ」「レ・ミゼラブル」のトム・フーパーが映画化。
「博士と彼女のセオリー」でオスカーの主演男優賞を獲得した
エディ・レッドメインが主演を務め、妻役のアリシア・ヴィカンダーは
本作でアカデミーの助演女優賞を受賞した。

この作品は、マイノリティの差別など断固けしからんと言っているわけでも
マイノリティの権利を認めようと言っているわけでもない。
男性として女性と結婚しながら、自らの内に秘めた本当の性に突き動かされ
「ありのままに生きる」選択をとったことを綺麗事なしに描いている。
妻からすれば愛する夫が女性になっていくのを手放しで応援はできなかったはず。
世界で初めて性転換手術をすると決めるまでには、さぞかし勇気が要ったろう。
しかし、その決断を後押ししたのは妻である。
彼女の払った多大な犠牲と、夫の苦悩を理解するまでの葛藤は
主人公の悩みと同等か、それ以上ではなかったか。
アリシア・ヴィカンダーがオスカーで助演賞を獲得したのも
この映画の真の主人公が妻だからだろう。

エディ・レッドメインは「博士と彼女のセオリー」に続いて
「理解ある妻のおかげで好きに生きられた主人公」を好演。
ちょっとした仕草から振る舞いまで、
歌舞伎の女形のように、見た目も心も女性になりきっていて本当に凄い。
私的には「博士と彼女のセオリー」に続いて彼が2年連続で主演男優賞でも良かったと思う。

好きに生きることは、少なからず誰かを不幸にする。
そのことを自覚した上で、なおも前に進みたいのか、
協力を惜しまない心の底から信頼できる相手はいるかと問い掛ける傑作。


配信中■Amazonプライムビデオ:ナチュラルウーマン

【紹介記事】映画「ナチュラル・ウーマン」”自分”で生きることの難しさより抜粋。

数々の偏見や差別にさらされながら生きるトランスジェンダーの姿を描いた話題作。
2018年度のアカデミー賞で最優秀外国映画賞を受賞した。
主演はトランスジェンダーの歌手として活動しているダニエラ・ベガ。
共演にフランシスコ・レジェス、ルイス・ニェッコ。
監督は「グロリアの青春」のセバスティアン・レリオ。

ウェイトレスで日銭を稼ぐ傍ら、ナイトクラブではシンガーとしても
活動しているひとりのトランスジェンダー・マリーナの生活を切り取ったドラマ。
間もなく還暦を迎える歳の離れた恋人・オルランドと幸せに暮らしていたが
ある日の夜、オルランドが体調不良を訴えたため
慌てて病院に搬送するもそのまま帰らぬ人となってしまう。
呆然とするマリーナだが、彼女に故人を悼む余裕も資格は与えられなかった。

「差別はいけません」を建前として理解はしていても
いざ自分の前に現れると劇中の登場人物達のように
振る舞ってしまうことは多々あろうし、それを不寛容と断罪するのは難しい。
行政がシステム面から彼(彼女)らの権利を護ったとしても
街に住む人々の生理的な嫌悪感までを打ち消すことは出来ないからだ。
そしてそのことを、マリーナは誰よりも理解している。

「自分らしく生きる」とは何だろう。
「自分」は何者なのか。
マリーナが歌う「オンブラ・マイ・フ」は
愛しいオルランドへの鎮魂歌であると同時に、
劇中何度も登場する鏡が否応無しに突きつける
「お前は何者だ」「お前はどう生きたいのだ」に対しての
決意表明のようにも聴こえた。


配信中■Amazonプライムビデオ:チョコレート・ドーナツ

【紹介記事】愛する人と生きる。映画「チョコレート・ドーナツ」より抜粋。

一組みのゲイ・カップルがダウン症の子を引き取り正式な養育権を得る為に法廷で闘う物語。
原題は「any day now」(今すぐにでも)。
監督は俳優出身のトラヴィス・ファイン。
主演はトニー賞も受賞した経歴を持つアラン・カミング。
共演は「LOOPER」のギャレット・ディラハント、
ダウン症に生まれながら役者を目指して頑張っているところが監督の目に留り
本作でスクリーンデビューとなったアイザック・レイヴァ。

本作は1970年代のアメリカを舞台にした実話がベースになっている。
女装しながら歌うショーダンサーのルディ(アラン・カミング)と
将来を嘱望された弁護士のポール(ギャレット・ディラハント)が
ひとりのダウン症児マルコと共に本当の家族を作る為に奮闘する物語。
どこにカテゴライズされるのかは観た人それぞれなのだろうが
私にとって本作は、断然「家族ドラマ」だった。
「血の繋がった家族の中で起こるドラマ」ではなく「家族とは何かを問うドラマ」である。

傍から見れば、子を引き取る理由が衝動的にも見えるしその手段も荒っぽい。
ポールがどれだけ法律を盾に権利を主張しても
「ここは知識を披露する場ではない」と一蹴されてしまうのも仕方ない面もある。
しかし、ルディとポールは同性愛者への憎悪にも近い差別意識が渦巻く
1970年代の社会において、自分達が晒しものになる覚悟でマルコの親権を主張し続ける。
養護施設への送り迎えを欠かさず、眠る前にはハッピーエンドの物語を聴かせるうちに
マルコの表情の変化が二人の愛情を何よりも雄弁に映し出す。

唯一引っ掛かるとすれば、これはあくまでもレアケースであるということ。
マルコを引き取るに足るだけの人間性と経済力を兼ね備えた二人がいて、
マルコとの信頼関係も築かれているからこそ、結果はどうあれ多くの賛同を得られたのであり
巷のゲイ・カップルが安易に子供を養子縁組することについては
子の負うリスクが大き過ぎるため私は賛成できかねる。
(ただし、「キッズ・オールライト」のようなケースならまだ理解はできる)



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2 コメント

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Unknown (Ni.O)
2020-11-19 19:21:59
コメント失礼します。
気になってた映画だったので
機会があれば見てみたいです。

話は少し変わってしまいますが
新しい地図とジャニーズとの関係って
ジャニー喜多川さんが亡くなったとはいえ
未だに忖度や圧力が根強く続いてる状態
なのをみて、辟易してしまいます。

ここ数年ジャニーズから退所が相次いでるのも
含めて、この調子では今後もどんどん
凋落していくのは避けられないのかなと 
個人的にら想像してしまいます。
返信する
Ni.Oさん ()
2020-11-19 19:51:13
こんばんは。

とてもいい映画でしたよ。
私の体調のこともあるので、公開してすぐは
混雑していそうで避けていたんです。
劇場で見て損はないと思います。

新しい地図は、今週も稲垣主演の「ばるぼら」が公開されますし
Amazonで「なぎスケ!」のシーズン2も配信になりますからね。
地上波の番組からは依然として露出を絞られている印象を受けますが
飯島氏はその縛りを逆手にとって、映画や配信でしかできない
新しい顔を引き出すことに成功しているように思います。
稲垣の「半世界」もそうですし、香取と三谷さんの「誰かが、見ている」も地上波ではチャレンジング過ぎて
忖度抜きでも企画が通ったかは怪しいところですし(笑)

NHKは朝ドラにも大河にも出していますから
そろそろ新しい地図をSONGSなり紅白なりに
呼んで来そうな気がします。
郷ひろみだって元ジャニーズですが
バーニングの後ろ盾を得て今でも紅白の重鎮っぽいポジションで出ていますし
案外実現するかもしれませんね。
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