衆院選は15日に公示され、27日に投開票という短期決戦だが、野党側が「裏金問題」に批判を集中させているため、公示前の段階では経済問題に関する議論が希薄になっているのが特徴だ。筆者は与野党がともに問題点として提起していない「非正規雇用者」の増加が、日本国内における消費の力不足の大きな原因になっていると指摘したい。2023年の非正規雇用者は雇用者数全体の37%を占め、年収も正規雇用者の38%の202万円にとどまっている。
この状況を政府の支援も含めて改善していかなければ、春闘で5%の賃上げを獲得してもかつてのように消費が回復しないという現象が継続してしまうだろう。また、足元で加速する少子化も、非正規雇用者の増加と年収格差が埋まらない実態が影響している可能性がある。「分厚い中間層の復活」というお題目を唱えても、非正規雇用者の経済状況を改善させなければ、何も変わらない。「非正規雇用者」の増加をどうするつもりなのか──。筆者は正面からこの問題に取り組む政党が出てこなければ、日本の経済・社会を包む閉塞感を打破できないと指摘したい。
<23年の非正規の年間給与は202万円・正規の38%、就業者の37%に>
国税庁が9月25日に発表した2023年の民間給与実態調査によると、正社員の平均年間給与は前年比1.3%増の530万円だったのに対し、非正規雇用者などの正社員以外は同0.7%増の202万円だった。
一方、2023年の総務省の労働力調査によると、非正規雇用者は前年の2101万人から2124万人に増加し、雇用者全体の37%を占めている。非正規雇用者は2005年の1634万人から1.3倍に増えた。
正規雇用者と非正規雇用者の年収が100対38という格差を持ったまま、非正規雇用者の割合が増加していけば、雇用者全体の平均賃金は伸び率がどんどん鈍化することになる。
また、連合が集計している春闘での賃上げ率とのかい離も大きくなっていく。連合によると、2023年の賃上げ率は3.58%で29年ぶりの高い賃上げ率と報道されたが、正社員の民間給与の伸びとはギャップが生じた。
まして全体の4割弱を占める非正規雇用者を含めた賃上げ率は大幅に抑えられ、日本国内の消費が3%の賃上げに見合った力強さを伴わなかったことと整合性が取れる結果になっていたと筆者は考える。
<政府は非正規賃金引き上げへロードマップ作成するべき>
政府は「同一労働同一賃金」を目指すとしているが、非正規雇用者の年間収入が正規雇用者の38%にとどまっているのでは、目標と現実との差があまりにも大きいと言わざるを得ない。
筆者は、非正規雇用者の年収を毎年着実に引き上げ、数年後には80%、10年後には100%にするなるなどの具体的な工程表を政府が早急に作るべきだと指摘したい。
そのために非正規社員の年収引き上げや正規社員化を計画する企業に対し、政府が何らかの公的支援を実施することも選択肢の1つになると考える。
<重なる非正規増加と少子化加速の足取り>
日本が直面している課題である少子化のペースが加速していることと、非正規雇用者の増加が関連しているのかどうか、政府はきちんと分析して対応策を示すべきだろう。
まず、婚姻数が2000年の約80万組から2023年は47.7万組に減少。出生数は119万人から72.7万人に急降下した。年収で格差をつけられた非正規雇用者が結婚を断念したり、出産をあきらめたりしたケースがどの程度あるのか、きちんとした追跡調査をする必要があるほど、日本の少子化と所得のギャップ拡大は深刻である。
実際、国税庁の調査によると、2023年の非正規雇用者の年収のうち、最も人数の多かった階層(ボリュームゾーン)は140万円だった。この年収で夫婦がともに働いても、出産やその後の教育費、その他のコスト増を考えると、出産すれば生活が破綻するのではないか、と危機感を持ったとしても自然の成り行きではないか、と筆者は考える。
これから始まる衆院選で与野党はともに、大きな賃金ギャップが存在している非正規雇用者の生活を守るという視点で、何が必要な政策なのか具体的なプランを提示する義務があると考える。
与野党ともに非正規雇用者の増大と格差の問題に目を向け、選挙戦の中で何らかの見解を示してほしい。