29日付読売新聞朝刊は、石破茂首相(自民党総裁)が国民民主党の玉木雄一郎代表に政策ごとに連携する「部分連合」を提案する方針を固めたと報じた。部分連合が決まれば11月の特別国会における首相指名選挙で石破氏が1回目の投票で首相に指名される可能性が高まるだけでなく、2024年度補正予算案の成立にも大きく前進することになる。
玉木氏は28日の民放の番組で、103万円の基礎控除と所得税控除の合算額の引き上げの実現が最優先の課題と指摘しており、この点が自民と国民民主における協議の最初の関門になりそうだ。自民・公明両党は衆院の過半数である233議席を18議席下回る215議席しかなく、このままでは少数与党として補正予算案の可決もままならない状況であり、筆者は自民党が大幅に譲歩することで国民民主党と合意する道筋を想定している。29日の東京市場で日経平均株価が続伸しているのも、部分連合への期待感が広がっていることが背景にあるとみられる。
<国民民主意識した石破首相のアプローチ>
石破首相が国民民主党を強く意識していることは、28日午後に自民党本部で行われた党総裁としての会見の冒頭部分に顕著に表れていた。
石破首相は政治とカネについてさらに抜本的な改革を行っていくとし、具体策として1)政策活動費の廃止、2)調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の使途公開と残金返納、3)改正政治資金規正法に基づく早期の第三者機関の設置──について党派を超えた議論を行い速やかに実現を図っていく必要があり、自民党に対して指示を行うと述べた。
この3つは国民民主党が主張している内容とほぼ同じで、異なっているのは3つ目の第三者機関の設置時期について、国民民主党が2024年度内としているところを「速やかに」と表現しているところだけだ。
28日のBS日テレの番組に出演した玉木氏は、この石破首相の発言内容に関し「(国民民主党の主張を)よく研究されている」と述べ、石破首相が国民民主党の主張の取り入れに積極姿勢を示していることを暗に認めた。
<国民民主との接触、自民が立憲民主を大幅リードか>
また、玉木氏は同じ番組の中で政策協議に関連して「幹事長レベルで一定の接触をしていると報告を受けている」と明らかにし、その先の石破首相との党首会談について「もし、そうした段取りができるのであれば、石破首相であれ野田(佳彦)立憲民主党代表であれ、党首間の会談はしっかりやりたい」と述べていた。
さらに29日の会見で、自民党や立憲民主党との党首会談について「求められれば断るものではない」と改めて表明した。
立憲民主党側も国民民主党へのアプローチを強めているとみられるが、玉木氏は28日の同じ番組の中で立憲民主党との関係では、泉健太前代表の時と比べてコミュニケーションの量が「格段に落ちている」と指摘。国民民主党をめぐる自民党と立憲民主党のアプローチ競争は、自民党が現段階では相当にリードしていると筆者は考える。
<自民・国民の党首会談実現なら、首相指名や補正予算にメド>
特別国会の召集は当初想定されていた11月7日から11月11日に4日間、先送りされることが固まったと報道されている。この期間を利用して自民党と国民民主党の協議が進められると思われるが、やはり党首会談の設定が最も重要なピースになる。
自民・国民民主の両党党首会談が設定され、重要な政策での一致ができれば、首相指名選挙や補正予算案をめぐっても合意が形成され、首相指名選挙での石破首相の指名と2024年度補正予算案の成立のメドが立ち、石破首相は最初の関門を通過できるということになるだろう。
<103万円の壁の引き上げ、自民が受け入れも>
その際は、玉木氏が最も注力している103万円の基礎控除と所得税控除の合算額の引き上げで何らかの合意ができると筆者は予想する。
玉木氏は178万円への引き上げにかかるコストは4-5兆円になるとの試算を明らかにしており、筆者は両党間の協議の結果として178万円への引き上げを複数年に分けて実施するという妥協が図られる可能性もあると予想する。
<25年度予算案成立が最大の課題、否決は内閣不信任に匹敵>
いずれにしても一定の政策合意が特別国会召集前に形成できれば、石破首相にとって次の課題は2025年度予算案の成立をどのように図るか、ということになる。
もし、予算案の衆院通過が見込めないということになれば、石破政権は最大の危機に直面して、総辞職が衆院解散かという苦渋の選択を迫られることになる。
実際、終戦直後の混乱期とはいえ、1948年2月に当時の片山哲内閣は補正予算案が衆院予算委で否決され、間もなく総辞職に追い込まれた。予算案の否決は、政治上は内閣不信任案の可決に等しく、このことは石破首相にとっても全く同じ重みを持つ。
したがって2025年度予算案の成立が石破首相にとって最重要な政治課題となっている以上、国民民主党の賛成は政権維持のためには不可欠となる。
<ガソリン税の旧暫定税率、大きな焦点になる可能性>
そこで浮上するのが、ガソリン税をめぐる国民民主党の主張を飲むのかどうかという問題である。国民民主党は、ガソリン税に上乗せさて来た旧暫定税率(2010年からは期限を設定しない特例税率に改正)の廃止を求めている。
ただ、税収が兆円単位の規模となるため、自民党税調や財務省は強く抵抗することが予想され、実際にガソリン価格が1リットル160円を超えた場合に旧暫定税率の適用を止める「トリガー条項」を凍結している現状を変更する国民民主党の主張は、岸田文雄政権の下で協議が行われたものの実現しなかった経緯がある。
だが、少数与党に転落した自民党と公明党にとって、政権維持のためには国民民主の主張を飲まざるを得ないだろうと筆者は予想する。
この25年度予算案をめぐる政策協議の行方が、25年度の政治情勢を占う上でも最大のポイントになると指摘したい。
<国民民主の狙う高圧経済、円安加速と物価高容認の懸念>
これをマーケットから見れば、財政拡張の政策が大展開されるということであり、短期的には株価の上昇を期待できるものの、中長期的には日本の財政の持続性に疑問符が付きかねないという大きな副作用も覚悟しなければならない問題が浮上するということだ。
米大統領選でトランプ前大統領が当選すれば、株価が上昇するだけでなく長期金利が大幅に上がるのではないか、と予想されていることと相似形の事が起きるかもしれない。
最も異なるのは、米国ではドル高になるが、日本では日銀の利上げは抑制されるとの予想と関連して円安が進みやすくなることだ。もし、160円台の円安が到来すれば、食料品などを中心に消費者物価指数(CPI)は上昇圧力を強めるだろう。
その時に国民民主党の主張する「手取りの増加」は、物価の上昇で打ち消されてマイナスになるかもしれない。こうした状況の下で自民党や国民民主党は、日銀に利上げを求めて物価高を止めるのか。それともCPI上昇を容認するのか──。
国民民主党が掲げる「積極財政等と金融緩和による高圧経済」の先には、内外経済からの大きな試練が待ち受けているかもしれない。