一歩先の経済展望

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円安進める米長期金利上昇、継続ならドル155円も視野 注目される政府・日銀の判断

2024-10-22 12:24:47 | 経済

 米長期金利の上昇を受けたドル上昇によって、対円でも22日に一時151円台に乗せた。背景には、予想を上回る米経済の堅調さを受けた米利下げペースの緩慢化の予想と、米大統領選におけるトランプ前大統領の優勢観測という2つの大きな流れが存在する。

 ドル/円をめぐっては最近になって円買いポジションを構築した短期筋の動きが市場で指摘されており、この円買いポジションが巻き戻されれば、ドル高・円安の動きが加速するとの声も出始めている。米長期金利が節目の4.25%を突破すれば、4.50%に向けて上昇する展開も想定でき、そのケースではドル/円が155円を目指すことになりそうだ。円安の再加速は輸入物価の上昇を起点にした消費者物価指数(CPI)の上昇圧力を強めることになり、政府・日銀がどの程度警戒感を強めるのか、内外市場関係者の注目を集めそうだ。

 

 <22日に151円台まで進んだ円安>

 21日のNY市場でドル/円は150.83円と9週間ぶりの高値を更新。22日の東京市場では一時、151.10円までドル高・円安が進んだ。

 ドル高・円安の原動力は、米長期金利(10年米国債利回り)の上昇だ。21日のNY市場では、7月30日以来となる4.1956%まで上昇し、22日のアジア時間に4.2215%まで上がった。

 

 <利下げテンポで軌道修正のFRB幹部>

 米長期金利の上昇を促している要因は、大きく分けて2つ存在する。1つは米経済の想定を超える堅調さで、米アトランタ地区連銀が試算する今年第3四半期の米国内総生産(GDP)はプラス3.4%。直近の経済指標も市場予想を上回る結果が多く、FEDウォッチャーの一部には9月米連邦公開市場委員会(FOMC)での50ベーシスポイント(bp)の利下げは間違いだったとする声も出ている。

 米連邦準備理事会(FRB)幹部からも修正意見が相次いでいる。ウォラーFRB理事は14日に行われたカリフォルニア州スタンフォードのフーバー研究所での講演で「データを総合的に判断したところ、利下げペースに対しては9月会合で必要とされた以上の慎重さを持って進めていくべきだとみている」と語った。

 また、アトランタ地区連銀のボスティック総裁は18日、中立水準まで政策金利を引き下げることについて、急いではいないと表明した。さらにミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は21日、これからの数四半期において緩やかなペースでの利下げを支持するとし、大幅な利下げは必要ないとの立場をにじませた。

 このような大幅利下げ路線からの転換を示唆するFRB幹部の声を受け、市場にける年内のフェデラルファンドレート(FF金利)の引き下げ幅予想は41bpまで圧縮され、年内2回のFOMCでそれぞれ25bpずつ利下げする幅(50bp)を下回った。

 

 <接戦7州でリードするトランプ氏、米長期金利を押し上げ>

 もう1つの大きな流れは、11月5日投開票の米大統領選におけるトランプ氏の優勢が次第に明らかになっていることだ。リアル・クリア・ポリティクスによると、10月21日の時点で全国レベルでの支持率はハリス副大統領がトランプ氏に対して49.2%対48.3%とリードしているものの、大統領選の帰すうを決める接戦7州では、いずれも僅差ながらトランプ氏がリードしている。

 トランプ氏の政策は、2つのルートから米長期金利を押し上げるとみられている。1つは財政拡張型の政策による米財政赤字の拡大だ。超党派の米シンクタンク「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」は今月7日に、トランプ氏が公約に掲げる税制・支出計画は、ハリス副大統領の計画の2倍以上の新規債務を生み出す可能性があると公表した。

 また、トランプ氏の政策の大きな柱を構成している中国などを含めた海外からの輸入品への関税の大幅な引き上げは、米国の輸入品の価格上昇を伴って米CPIを強く押し上げることになり、インフレ再燃への懸念が米長期金利を押し上げる構図を作り上げることになる。

 2つ目のトランプ氏をめぐる思惑は、11月5日にハリス氏が勝利すれば消滅することになるが、大統領選の結果が出るまでは、米長期金利の押し上げ要因として機能するだろう。

 1つ目の米景気ソフトランディングへの期待感は、この先に米経済への予期せぬ大きなショックが発生しない限り大きな変化は生じないだろう。

 

 <米長期金利は4.50%も視野、155円の可能性>

 米長期金利の次の節目は4.25%だが、突破すればその先は4.50%が視野に入る。複数の市場関係者によると、上記の2つの大きな流れが継続すれば、いったんは4.50%まで上昇する可能性が相応にあるという。

 そのケースでは、ドル/円が151円だからドル高・円安方向へのテンポを加速させ、ロスカットを巻き込みながら155円付近まで駆け上がる展開もあると筆者は予想する。

 155円台の円安が定着するかどうか現段階では即断できないが、仮にトランプ氏当選という展開になれば、その実現可能性は高まるだろう。

 

 <155-160円の円安再来なら、どうする政府・日銀>

 155円台から160円手前のドル高・円安圏での推移が長期化するなら、輸入物価の上昇を起点にしたCPI上昇率の再加速が予想されるだけでなく、内需関連企業の原材料高を招き、日本経済にとってその水準での為替のあり方について、各方面からの見解の応酬があると予想される。

 政府・日銀がどのように判断するのか──。円安による輸出企業の業績好転と株価の上昇を歓迎するのか、それともCPI上昇率の加速と消費下押しや、中小・零細企業の収益悪化を懸念して円安のけん制や日銀の利上げ検討をにおわせる発言で円安を抑え込む決断をするのかは、必ずしも明確ではない。

 当然のことながら、そこには27日投開票の衆院選での結果も影響を与えるだろう。米長期金利の上昇を起点にした円安に対し、政府・日銀がどのような構えを取るのか、今年末に向けた大きなテーマに浮上しそうだ。

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