一歩先の経済展望

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日銀利上げ検討の「時間的余裕」、米大統領選情勢などで150円突破なら状況変化も

2024-10-18 13:30:07 | 経済

  18日に発表された9月全国消費者物価指数(除く生鮮食品、コアCPI)は5カ月ぶりに前年比上昇率が縮小したが、輸入物価を起点とした物価上昇圧力に影響を与えるドル/円は150円近辺までドル高・円安が進展している。金融緩和の度合いを調整する目的で利上げを志向している日銀にとって、現在の経済・金融状況はどのように映っているのであろうか──。

 筆者は、CPIを構成するサービス価格の上昇率が横ばいを続けている点では具体的な利上げ検討までに「時間的な余裕がある」とのスタンスを変えていないものの、ドル/円が150円台に乗せて155円を目指す動きになれば、円安ー輸入物価上昇という経路でCPI全体を押し上げる圧力が再燃するリスクに日銀が注意を傾ける可能性があると考える。足元での米経済のソフトランディング期待の高まりだけでなく、米大統領選でトランプ前大統領の当選可能性が高まってきた場合には155円前後への円安進展の可能性が高まり、日銀が利上げの是非を検討する局面に入る可能性が高まると予想する。

 

 <サービス価格の伸び横ばい、「時間的な余裕」に変化なし>

 9月のコアCPIは前年同月比2.4%上昇と前月の2.8%上昇から伸び率が低下した。政府の電気・ガス価格の抑制策の影響が反映された。

 日銀が賃金上昇との関連で注目しているサービス価格は前年同月比1.3%上昇と、前月の同1.4%上昇から伸び率が小幅鈍化した。賃金の上昇を反映していずれサービス価格が緩やかに上がっていくとみられているが、今のところは伸び率は横ばい圏での推移となっている。

 その意味で、日銀が利上げを急がなければビハインド・ザ・カーブに陥るリスクは小さく、政策判断にあたって「時間的な余裕はある」と植田和男・日銀総裁が9月24日に大阪市で発言した際と状況は変わっていないと言えるだろう。

 

 <米経済の楽観論、円安要因に>

 一方、日銀の判断に影響を与える可能性がある存在として注意するべきなのが、足元におけるドル/円のドル高・円安方向への動きだ。

 17日に発表された9月米小売売上高は前月比0.4%増と、市場予想の0.3%増を上回り、市場参加者に米経済の底堅さを印象付けた。発表後に市場のフェデラルファンドレート(FF金利)予想は、年内の50bp利下げの織り込みから43bpへと織り込み幅が縮小。NY市場では、10年米国債利回りが7.9bp上昇して4.095%で取引を終えた。

 その結果、ドル/円は8月1日以来初めて150円を上抜け、0.4%高の150.24円までドル高・円安が進んだ。

 

 <円安再燃なら物価に上昇圧力>

 円安の進展は、輸入物価の上昇を起点にした食料品価格の上昇を引き起こし、コアCPIの上昇を加速させる要因になるリスクを秘める。9月の輸入物価指数(円ベース)は前月比2・0%の円高になったことを反映し、前年比2.6%の下落となった。

 植田総裁は9月24日に8月以降の円高に関連し、輸入物価上昇に伴う物価上振れリスクは「相応に減少」しているとの見解を示していた。

 これが円高から円安への転換になれば、日銀は物価上昇圧力が輸入物価を通じて再上昇していくのか注視する必要性に迫られることになると考える。

 仮にドル/円が足元からさらに円安方向に振れ、155円付近で推移するようになれば、その滞空時間が長期化するなら上記で指摘したリスクが高まることになる。

 その場合は、政策判断に当たって内外の市場動向や、その背後にある海外経済の状況を丁寧に確認していく「時間的な余裕はある」という日銀のスタンスに影響を与えるだろうと筆者は指摘したい。

 

 <トランプ氏当選の思惑、155円方向への圧力に>

 ドル/円がドル高・円安方向に進展する要因は、米経済のソフトランディング期待の高まりによる米金利の上昇という経路だけでなく、11月5日に投票される米大統領選でトランプ氏が優勢になるという予想が広がることも大きな要因になる。

 超党派の米シンクタンク「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」は7日、トランプ氏が公約に掲げる税制・支出計画は、ハリス副大統領の計画の2倍以上の新規債務を生み出す可能性があるとの試算を公表した。

 また、トランプ氏が主張している対中などの輸入関税の大幅な引き上げは輸入物価の上昇を伴ってCPIを押し上げ、それが米長期金利の上昇要因として意識されるとの見方も広がっている。

 つまり、トランプ政権誕生の可能性が高まれば、株高への期待が膨らむだけでなく、米金利上昇とドル高の現象をマーケットにもたらす可能性が高まるということだ。

 市場関係者の一部では、すでにトランプ氏の当選確率が高まることになればドル高・円安が進み、当選の公算が大きいという段階になれば、ドル/円が155円台に達する可能性もあるとの見通しも語られている。

 

 <円安再燃と長期化のケース、日銀はどう判断するのか>

 今の段階で日銀の利上げパスを正確に予測することは難しいが、もしも米大統領選への思惑でドル高・円安が進み、トランプ氏の当選が決まった場合には150円台の水準がある程度の期間、維持されることもあると予想する。

 その際に日銀がどのような判断をすることになるのか。米大統領選の結果は、ドル高・円安というルートで日本の金融政策に影響を与える可能性があるということを今から意識しておくべきだろう。

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