全国の消費者物価指数(CPI)の先行指標的な性格をもつ東京都区部CPIは25日に10月分が発表され、賃上げの波及効果が注目されていたサービスは、前年同月比プラス0.8%と9月の同0.6%から緩やかに上昇幅が拡大した。日銀の植田和男総裁が24日に政策判断を行う上で「時間的余裕がある」と述べたが、CPIの動向は植田総裁の発言と平そくが合っていると言える。
ただ、足元では複数の要因が重なってドル/円が150円を超えるドル高・円安水準で推移しており、この円安傾向が長期化するなら輸入物価を起点にしたCPI上昇率の押し上げ効果を無視できなくなる局面が、いずれ到来する可能性が高まる。日銀は緩慢な動きのサービス価格上昇に対しては後手を踏むリスクが小さくなっているものの、米大統領選など対外要因で急激に動く為替の動向次第では「時間的余裕」が狭まる可能性があると予想する。
<10月東京都区部CPI、サービスは前年比プラス0.8%>
10月東京都区部CPI(生鮮食品を除く、コアCPI)は前年同月比プラス1.8%と、今年4月以来の低い伸びだった。政府の実施している支援策の効果でエネルギー価格の伸び率が大幅に縮小したことなどが影響した。
日銀は賃金の上昇がサービス価格に波及する点に注目し、価格改定が多く実施される10月にどのような動きを示すのか関心を高めていた。結果は9月の同プラス0.6%から同0.8%へと小幅の上昇にとどまった。今後も緩やかな上昇が続くのかどうか、日銀は引き続き丹念にサービス価格の動向を点検していくとみられる。
ここから導き出されるのは、今年の春闘で大幅な賃上げが実現したものの、サービス価格などへの波及が急速かつ大幅に行われるリスクは小さいということだろう。日銀が利上げの判断に時間をかけたとしても、CPIの面から後手に回る危険性は低いと言える。
<「時間的な余裕ある」と植田総裁、平そく合う日本のCPIの動き>
植田総裁は24日、20カ国・地域(G20)財務相・中銀総裁会議の終了後にワシントンで開かれた会見で、今後の金融政策の判断について「円安だけではなく、背後にあるアメリカ経済や大統領選挙の動向など全体を見た上で日本の物価にどういう影響を及ぼすのか、丹念に分析して見極めていきたい」と述べるとともに「時間的な余裕はあると思っている」とも語った。足元の日本のCPIの動向をみれば、「時間的な余裕」への言及は合理的な見解と言えるだろう。
<155円まで円安進展なら、輸入物価経由のCPI上昇率加速へ>
だが、円安がこれから急速に進展した場合は、国内における輸入物価の急上昇を伴ってCPI全体を不連続に押し上げるリスクを高めることになる。実際、日銀が利上げを決断した今年7月の輸入物価(円ベース)は前年比プラス10.7%と上昇率が跳ね上がっていた。
今後、ドル/円が足元における151-152円台から155円を突破するような円安に傾けば、再び、輸入物価経由でのCPI上昇率の高まりが意識される展開になるだろう。
その意味で、国内のCPI動向などは日銀にとって安心してみていられるものの、急速な円安の進展があった場合のCPI上昇の行方は、その先の個人消費への影響なども考え合わせると、日銀にとって油断のならない現象だと筆者は指摘したい。
<注目される米大統領選後のドル/円>
特に11月5日に投票される米大統領選は、民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領の支持がきっ抗しているため、結果次第ではドル/円が急速に一方向へと動く可能性が高まっているという。もし、ドル高・円安方向に急進展した場合には、日本政府と日銀も緊張感を持って対応する場面が到来するかもしれない。
10月27日の日本の衆院選投開票日から、密度の濃い激動の「時間帯」が始まりそうだ。