一歩先の経済展望

国内と世界の経済動向の一歩先を展望します

サービスの緩慢な上昇続く日本のCPI、日銀の「時間的余裕」は円安進展次第か

2024-10-25 11:35:53 | 経済

 全国の消費者物価指数(CPI)の先行指標的な性格をもつ東京都区部CPIは25日に10月分が発表され、賃上げの波及効果が注目されていたサービスは、前年同月比プラス0.8%と9月の同0.6%から緩やかに上昇幅が拡大した。日銀の植田和男総裁が24日に政策判断を行う上で「時間的余裕がある」と述べたが、CPIの動向は植田総裁の発言と平そくが合っていると言える。

 ただ、足元では複数の要因が重なってドル/円が150円を超えるドル高・円安水準で推移しており、この円安傾向が長期化するなら輸入物価を起点にしたCPI上昇率の押し上げ効果を無視できなくなる局面が、いずれ到来する可能性が高まる。日銀は緩慢な動きのサービス価格上昇に対しては後手を踏むリスクが小さくなっているものの、米大統領選など対外要因で急激に動く為替の動向次第では「時間的余裕」が狭まる可能性があると予想する。

 

 <10月東京都区部CPI、サービスは前年比プラス0.8%>

 10月東京都区部CPI(生鮮食品を除く、コアCPI)は前年同月比プラス1.8%と、今年4月以来の低い伸びだった。政府の実施している支援策の効果でエネルギー価格の伸び率が大幅に縮小したことなどが影響した。

 日銀は賃金の上昇がサービス価格に波及する点に注目し、価格改定が多く実施される10月にどのような動きを示すのか関心を高めていた。結果は9月の同プラス0.6%から同0.8%へと小幅の上昇にとどまった。今後も緩やかな上昇が続くのかどうか、日銀は引き続き丹念にサービス価格の動向を点検していくとみられる。

 ここから導き出されるのは、今年の春闘で大幅な賃上げが実現したものの、サービス価格などへの波及が急速かつ大幅に行われるリスクは小さいということだろう。日銀が利上げの判断に時間をかけたとしても、CPIの面から後手に回る危険性は低いと言える。

 

 <「時間的な余裕ある」と植田総裁、平そく合う日本のCPIの動き>

 植田総裁は24日、20カ国・地域(G20)財務相・中銀総裁会議の終了後にワシントンで開かれた会見で、今後の金融政策の判断について「円安だけではなく、背後にあるアメリカ経済や大統領選挙の動向など全体を見た上で日本の物価にどういう影響を及ぼすのか、丹念に分析して見極めていきたい」と述べるとともに「時間的な余裕はあると思っている」とも語った。足元の日本のCPIの動向をみれば、「時間的な余裕」への言及は合理的な見解と言えるだろう。

 

 <155円まで円安進展なら、輸入物価経由のCPI上昇率加速へ>

 だが、円安がこれから急速に進展した場合は、国内における輸入物価の急上昇を伴ってCPI全体を不連続に押し上げるリスクを高めることになる。実際、日銀が利上げを決断した今年7月の輸入物価(円ベース)は前年比プラス10.7%と上昇率が跳ね上がっていた。

 今後、ドル/円が足元における151-152円台から155円を突破するような円安に傾けば、再び、輸入物価経由でのCPI上昇率の高まりが意識される展開になるだろう。

 その意味で、国内のCPI動向などは日銀にとって安心してみていられるものの、急速な円安の進展があった場合のCPI上昇の行方は、その先の個人消費への影響なども考え合わせると、日銀にとって油断のならない現象だと筆者は指摘したい。

 

 <注目される米大統領選後のドル/円>

 特に11月5日に投票される米大統領選は、民主党のハリス副大統領と共和党のトランプ前大統領の支持がきっ抗しているため、結果次第ではドル/円が急速に一方向へと動く可能性が高まっているという。もし、ドル高・円安方向に急進展した場合には、日本政府と日銀も緊張感を持って対応する場面が到来するかもしれない。

 10月27日の日本の衆院選投開票日から、密度の濃い激動の「時間帯」が始まりそうだ。

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自民大敗から過半数維持まで衆院選に4つのシナリオ、日本株・円は天地の差に

2024-10-24 15:04:56 | 経済

 27日投開票の衆院選の結果を見ないと、マーケットの方向性が見えてこないという声が広がっている。そこで、衆院選の結果を4つのパターンに分けて28日の東京市場の動向を予想してみた。国内メディアの情勢分析報道は日に日に自民党、公明党の与党にとって厳しくなっているが、市場は次第に与党苦戦を織り込み始めているとも言える。もし、事前の予想とは異なって自民党、公明党が検討した場合は、日経平均株価の急騰という展開もありえる。

 以下に4つのパターンを想定して、株価とドル/円の動きを予想してみた。

 

 <自民200議席未満も、与党過半数微妙と毎日報道>

 24日付毎日新聞朝刊は、衆院選の終盤情勢を分析した記事を掲載した。自民党と公明党は序盤の情勢から失速し、自民党は200議席を下回る可能性があると予想。自民党、公明党の過半数維持は微妙という認識を示した。

 推定当選者数は、自民党が171-225議席、立憲民主党が126-177議席、日本維新の会が29-40議席、公明党が23-29議席、日本共産党が7-9議席、国民民主党が23-29議席、れいわ新選組が6-7議席などとなっている。

 ここで注目すべきは、自民党の下限議席が171議席となっていて、立民の上限議席の177議席を下回っていることだ。可能性は低いものの、立民が第1党になる可能性を示している。

 

 <自民200議席未満なら、日経平均は1000円超の下落>

 筆者は他社の情勢分析も参考に4つのパターンに分けて、衆院選の結果と市場動向の関連性について予想してみた。

 パターンAは、自民党が公示前の247議席(非公認を除く)から200議席まで減少し、公明党も32議席から25議席に後退し、与党で225議席と過半数の233議席を割り込んだ場合だ。

 このケースでは、非公認の候補者が当選した場合に追加公認することが予想され、その他の保守系無所属の当選者を自民党に加える動きもありそうだ。その結果、233議席に接近もしくは上回ることも予想されるが、28日朝の段階では、自公の過半数割れという見出しが躍っているだろう。

 日経平均株価は前週末比で1000円を超す下落となりそうだが、この結果は事前にマーケットに織り込まれていた部分がかなりあり、1000円前後の下げた水準で買い戻しが入り、その後は売り買いが交錯すると予想する。ドル/円はドル高・円安方向に動くものの、155円手前では円買いも出ていったんはこう着するのではないか。

 

 <新連立へ合意難航なら、株価は一段安>

 その際に注目されるのは、新たな連立相手が決まり、その政策合意に何が入るかだ。今のところ、特別国会の召集日は11月7日が有力視されているが、新たな連立対象になった政党との話し合いが難航し、特別国会の召集がどんどんと先送りされた場合は、政局の不透明感を反映していったん下げ止まった日経平均株価が再度、下げ圧力に直面することも予想される。

 また、その後に想定されている総合経済対策のとりまとめと2024年度補正予算案の編成作業が大幅に遅延することになれば、一段と不透明感が増して日経平均株価の売り材料として意識され、円売りも再開するだろう。

 このケースでは、衆院での新たな多数派の形成が短時間でできるのか、それともかつてのイタリアを彷彿とさせるような時間をかけた調整になるのかどうかが大きなポイントになると指摘したい。

 

 <自民180議席・石破首相退陣表明のケース、日経平均は2000円超す下落か>

 パターンBは、自民党の獲得議席が180議席前後まで大幅に減少し、27日夜の段階で石破茂首相が敗北宣言ともに首相辞任を表明し、後任の自民党総裁と首相選びが焦点になるケースだ。マーケットの衝撃は大きく、28日の日経平均株価は2000円を超える下落となっても下げ止まらず、下値が見えない展開になりそうだ。

 ドル/円は、日本の政治情勢が混とんとしたことによる日本売りが意識され、155円を短期間に突破する可能性がある。

 

 <次期総裁・首相選びや連立政権合意が難航なら、年初来安値も視野>

 石破氏が辞任を表明しても、その後の経済対策や補正予算編成、年末の2025年度予算案編成と重要な案件が控えているため、自民党総裁選は党員投票を省略して両院議員総会で新総裁を選出することになる可能性が高まると筆者は予想する。

 その場合、自公での過半数割れの規模が大きいため、どの政党と連立協議に入るのか、3党連立か4党連立かなどで与党内の意見が割れ、かつてない政局の混乱が生じる展開も想定でき、日経平均株価は8月5日に記録した3万1458円42銭の年初来安値を意識することもあるだろう。

 

 <自公過半数、株価は1000円超の上昇>

 パターンCは、自民党単独で過半数は維持できないが、225議席程度を獲得して自公で233議席を上回る議席を確保するパターン。

 事前に自民党200議席というイメージがマーケットに浸透していたため、日経平均株価は前週末比500円を超す上昇になると予想する。前週末NY市場で米株が上昇しているようであれば、1000円を超す上げを記録する可能性もあるだろう。

 ドル/円は円が買い戻され、150円近辺までドル安・円高が進むということも十分にあるとみている。多くの市場関係者にとっては、このケースが最も居心地のよい値動きになるとみられるが、直近の情勢報道を見ている参加者にとっては、それほど大きな可能性にはならないとの受け止めが多いかもしれない。

 

 <低投票率、与党に有利の声>

 ただ、今回の衆院選では期日前投票の出足が鈍く20日までのデータでは、前回比17.56%減の467万人にとどまっている。また、27日の天気も西日本を中心に雨模様の予報が多いため、投票率の低下が懸念されている。

 衆院選の投票率は2009年の民主党大勝時に69.28%に上昇したものの、その後の4回は50%台で推移。前回は55.93%だった。選挙分析の専門家は、55%を下回って50%に接近するようなら組織政党の公明党に有利に働き、自公合算の議席数が底上げされる可能性が相応にあると予想しているようだ。

 したがって50%前半からさらに低い投票率なら、このパターンCの可能性が高まると筆者はみている。

 

 <自民が単独過半数、日経平均は4万円回復へ>

 自民党が単独で過半数の233議席を上回り、自公合わせて261議席の絶対安定多数を獲得した場合をパターンDとすると、マーケットの想定を大幅に超えた与党の勝利となるため、日経平均株価は一気に4万円の大台を回復し、ドル/円は140円台後半まで円高が進むと予想する。

 今のところ、実現可能性は低いように見えるが、与党過半数割れの事前報道で中間層が危機感を持ち、与党の獲得議席が持ち直すということも可能性としてはゼロではないだろう。

 ただ、このケースでは日銀の利上げの可能性が高まるとマーケットが時間差で判断し、どこかの段階で日経平均株価の上値を抑えることになると筆者は予想する。

 

 <注目される27日午後8時の獲得予想議席の報道>

 このように今回の衆院選は、結果の振れが大きくなるとみられ、マーケットの反応も「天と地」ほどの開きが出てくることになる。

 27日午後8時にテレビ各社が報道する出口調査に基づいた獲得議席予想が、過去数回の衆院選と比べて格段に注目されることになるだろう。

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東証社員インサイダー容疑、海外勢の日本株売りに 円安連動の裏に衆院選情勢

2024-10-23 14:37:51 | 経済

 東京証券取引所の男性社員が企業の未公開情報を親族に漏らし、インサイダー取引関与の容疑で証券取引等監視委員会が強制調査していたとのニュースが、東京メトロの新規上場(IPO)でお祭りムードを盛り上げようとしていた東京株式市場に冷水を浴びせた格好だ。企業に適正なガバナンスを求める立場の東証から社員の不祥事が発覚したことで、東京市場や日本全体に対する海外勢の厳しい目が日本株や円の売り材料として意識されそうだ。

 加えて衆院選での与党苦戦の情報が東京市場の不透明感を一段と高めており、日本株と円にとっては一段の下落を招くのかどうかの大きな分岐点をいきなり迎えることになった。

 

 <東証社員、TOB情報を親族に漏らした疑い>

 国内メディアの情報を総合すると、東証の男性社員は株式公開買い付け(TOB)などの情報を職務上の行為で知り、公表前に親族に伝達し、その親族が複数回にわたって不正な株取引を行い、少なくとも数十万円の利益を上げていた疑いが浮上している。

 監視委は今年9月、男性社員自宅などへの強制調査を実施し、東京地検特捜部への告発も視野に入れて調査を進めているという。

 東証などを運営する日本取引所グループは23日に「引き続き、調査に全面的に協力していく。上場会社をはじめ、関係者の皆さまに多大なご迷惑とご心配をおかけし深くおわびする」とのコメントを公表した。

 東証は国内最大の証券取引所であり、上場企業の審査や重要情報の「適時開示」の確認など市場運営の公平性や透明性に目を光らせる機能を担っており、その社員が自ら違法行為を行った疑いで強制調査を受けたことは、内外の市場関係者から「日本の市場は本当に公正なのか」という強い疑惑を生み出した。

 

 <インサイダー容疑、海外勢が敏感に反応>

 複数の市場関係者によると、23日午後になって日経平均株価の下げ幅が大きくなったのは、欧州勢などの一部海外勢がこのインサイダー取引容疑の件を材料にまとまった売り注文を出したことがきっかけとなったという。

 結局、日経平均株価は3日続落となり、前日比307円10銭(0.80%)安の3万8104円86銭で取引を終えた。

 この日、東証プライム市場に新規上場した東京メトロの同市場における売買代金ランキングが首位となり、既存の上場銘柄に換金売りが出た、との見方もあったが、株価の下落幅が大きくなったのは午後の取引であり、海外勢の売り注文に押された可能性が高いと筆者は考える。

 

 <円売りにも連動、日本売りの色彩も>

 また、ドル/円が7月31日以来、約3カ月ぶりに152円台までドル高・円安が進み、日経平均株価は自動車などの輸出関連株の買い戻しでこの日の安値から切り返したものの、この円安にも海外勢が絡み「日本売り」の色彩が濃かったという指摘も市場関係者の一部から出ている。

 日本株売りと円売りの背景には、日本を取り巻く不透明感を嫌気した海外勢の行動があるとみられている。1つ目は、冒頭で言及しした東証社員のインサイダー容疑に関する監視委の調査というニュースだ。日本企業のガバナンスは近年、東証を傘下に持つ日本取引所グループの強い指導力によって着々と強化されてきた、との受け止め方が海外勢に広がっていた。

 

 <石破首相、再発防止へ強いメッセージ必要>

 ところが、よりにもよってその取り締まる側の東証からインサイダー取引の疑惑が浮上して「途上国並みのダーティーさだ」という声が欧米勢から噴出しているという。

 これはかなり深刻だ。一片のおわびのコメントで内外市場関係者の疑惑を払拭することはできない。もし、余罪が次々と浮上するようなら、東京市場だけでなく、日本の市場機能全体に深刻な疑惑を生じさせかねない重大問題が秘めらている。

 衆院選の最中で、石破茂首相には十分な報告が上がっていないかもしれないが、石破首相が早い段階で何らかのコメントを出し、再発防止に全力を尽くす姿勢を早急に示すことが必要だ。

 

 <加わる衆院選での与党過半数割れの懸念、強まる不透明感>

 23日に進行した円安には、複数の要因が絡み合っていると思われるが、東証社員のインサイダー取引容疑に絡む日経平均株価の下落という現象を見て、円売りを仕掛けた海外勢もいたようだ。そこには、もやもやとした「円売り」のムードが潜んでいるように筆者には映る。

 さらに2009年の衆院選以来となる与党の過半数割れの可能性を指摘する報道が多くなるにつれ、自民、公明両党による政権運営の前途に大きな暗雲が垂れ込め、不透明感が強まっていることも円売りを促したようだ。ドル/円は151円後半にあった200日移動平均線を突破すると152円台まで駆け上がった。

 22日の当欄で指摘したように、米国をめぐる経済・政治情勢は米長期金利上昇ードル高を促す材料が多くなっており、そこに日本国内の不透明要因が加わると、ドル高・円安を加速させるエネルギーを充満させることになる。

 27日の衆院選投開票日を前に、東京市場には怪しげな「日本売り」の影が大きくなっている。

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円安進める米長期金利上昇、継続ならドル155円も視野 注目される政府・日銀の判断

2024-10-22 12:24:47 | 経済

 米長期金利の上昇を受けたドル上昇によって、対円でも22日に一時151円台に乗せた。背景には、予想を上回る米経済の堅調さを受けた米利下げペースの緩慢化の予想と、米大統領選におけるトランプ前大統領の優勢観測という2つの大きな流れが存在する。

 ドル/円をめぐっては最近になって円買いポジションを構築した短期筋の動きが市場で指摘されており、この円買いポジションが巻き戻されれば、ドル高・円安の動きが加速するとの声も出始めている。米長期金利が節目の4.25%を突破すれば、4.50%に向けて上昇する展開も想定でき、そのケースではドル/円が155円を目指すことになりそうだ。円安の再加速は輸入物価の上昇を起点にした消費者物価指数(CPI)の上昇圧力を強めることになり、政府・日銀がどの程度警戒感を強めるのか、内外市場関係者の注目を集めそうだ。

 

 <22日に151円台まで進んだ円安>

 21日のNY市場でドル/円は150.83円と9週間ぶりの高値を更新。22日の東京市場では一時、151.10円までドル高・円安が進んだ。

 ドル高・円安の原動力は、米長期金利(10年米国債利回り)の上昇だ。21日のNY市場では、7月30日以来となる4.1956%まで上昇し、22日のアジア時間に4.2215%まで上がった。

 

 <利下げテンポで軌道修正のFRB幹部>

 米長期金利の上昇を促している要因は、大きく分けて2つ存在する。1つは米経済の想定を超える堅調さで、米アトランタ地区連銀が試算する今年第3四半期の米国内総生産(GDP)はプラス3.4%。直近の経済指標も市場予想を上回る結果が多く、FEDウォッチャーの一部には9月米連邦公開市場委員会(FOMC)での50ベーシスポイント(bp)の利下げは間違いだったとする声も出ている。

 米連邦準備理事会(FRB)幹部からも修正意見が相次いでいる。ウォラーFRB理事は14日に行われたカリフォルニア州スタンフォードのフーバー研究所での講演で「データを総合的に判断したところ、利下げペースに対しては9月会合で必要とされた以上の慎重さを持って進めていくべきだとみている」と語った。

 また、アトランタ地区連銀のボスティック総裁は18日、中立水準まで政策金利を引き下げることについて、急いではいないと表明した。さらにミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁は21日、これからの数四半期において緩やかなペースでの利下げを支持するとし、大幅な利下げは必要ないとの立場をにじませた。

 このような大幅利下げ路線からの転換を示唆するFRB幹部の声を受け、市場にける年内のフェデラルファンドレート(FF金利)の引き下げ幅予想は41bpまで圧縮され、年内2回のFOMCでそれぞれ25bpずつ利下げする幅(50bp)を下回った。

 

 <接戦7州でリードするトランプ氏、米長期金利を押し上げ>

 もう1つの大きな流れは、11月5日投開票の米大統領選におけるトランプ氏の優勢が次第に明らかになっていることだ。リアル・クリア・ポリティクスによると、10月21日の時点で全国レベルでの支持率はハリス副大統領がトランプ氏に対して49.2%対48.3%とリードしているものの、大統領選の帰すうを決める接戦7州では、いずれも僅差ながらトランプ氏がリードしている。

 トランプ氏の政策は、2つのルートから米長期金利を押し上げるとみられている。1つは財政拡張型の政策による米財政赤字の拡大だ。超党派の米シンクタンク「責任ある連邦予算委員会(CRFB)」は今月7日に、トランプ氏が公約に掲げる税制・支出計画は、ハリス副大統領の計画の2倍以上の新規債務を生み出す可能性があると公表した。

 また、トランプ氏の政策の大きな柱を構成している中国などを含めた海外からの輸入品への関税の大幅な引き上げは、米国の輸入品の価格上昇を伴って米CPIを強く押し上げることになり、インフレ再燃への懸念が米長期金利を押し上げる構図を作り上げることになる。

 2つ目のトランプ氏をめぐる思惑は、11月5日にハリス氏が勝利すれば消滅することになるが、大統領選の結果が出るまでは、米長期金利の押し上げ要因として機能するだろう。

 1つ目の米景気ソフトランディングへの期待感は、この先に米経済への予期せぬ大きなショックが発生しない限り大きな変化は生じないだろう。

 

 <米長期金利は4.50%も視野、155円の可能性>

 米長期金利の次の節目は4.25%だが、突破すればその先は4.50%が視野に入る。複数の市場関係者によると、上記の2つの大きな流れが継続すれば、いったんは4.50%まで上昇する可能性が相応にあるという。

 そのケースでは、ドル/円が151円だからドル高・円安方向へのテンポを加速させ、ロスカットを巻き込みながら155円付近まで駆け上がる展開もあると筆者は予想する。

 155円台の円安が定着するかどうか現段階では即断できないが、仮にトランプ氏当選という展開になれば、その実現可能性は高まるだろう。

 

 <155-160円の円安再来なら、どうする政府・日銀>

 155円台から160円手前のドル高・円安圏での推移が長期化するなら、輸入物価の上昇を起点にしたCPI上昇率の再加速が予想されるだけでなく、内需関連企業の原材料高を招き、日本経済にとってその水準での為替のあり方について、各方面からの見解の応酬があると予想される。

 政府・日銀がどのように判断するのか──。円安による輸出企業の業績好転と株価の上昇を歓迎するのか、それともCPI上昇率の加速と消費下押しや、中小・零細企業の収益悪化を懸念して円安のけん制や日銀の利上げ検討をにおわせる発言で円安を抑え込む決断をするのかは、必ずしも明確ではない。

 当然のことながら、そこには27日投開票の衆院選での結果も影響を与えるだろう。米長期金利の上昇を起点にした円安に対し、政府・日銀がどのような構えを取るのか、今年末に向けた大きなテーマに浮上しそうだ。

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再送:自公過半数は微妙か、朝日報道で上値重くなる日本株 結果次第で新連立模索か

2024-10-21 16:09:23 | 経済

 自民、公明両党が過半数維持できるか微妙──という朝日新聞の衆院選情勢をめぐる報道がマーケットにも波紋を広げている。前週末NY市場でダウとS&P500種が史上最高値を更新したにもかかわらず、21日の日経平均株価が小幅安となったのは、与党の勝利が見通せない不透明感の強まりが背景にあるとの声が市場で浮上している。

 もし、27日の投開票日に朝日の報道通りの結果となれば、28日の東京市場で日経平均株価は前週末比1000円を超す下落となる可能性もある。与党の議席数次第では、与党の枠組みを拡大する動きも予想され、そのケースでは新連立の枠組みが決まるまで、日経平均株価の上値が重くなると筆者は予想する。ただ、新連立における首相は石破茂氏が続投するとみられ、市場の一部で期待される「石破降ろし」の動きは表面化しないだろう。

 

 <自公で225議席の予測、立民・国民・れいわは大幅増か>

 21日付朝日新聞朝刊によると、衆院選での獲得議席予想(中央値)は、自民党が200議席(公示前247議席)と47議席減、公明党は25議席(同32議席)と7議席減になり、計225議席と過半数の233議席を下回る。

 ただ、自民系非公認12人のうち5人の当選が見込まれ、追加公認されると自民は205議席となる。さらに無所属で9人の当選が予想され、3人以上が自民に加わると過半数の233議席を獲得することになる。

 一方、野党は候補者乱立の不利を指摘されながら、立憲民主党が138議席(同98議席)と40議席増となるが、日本維新の会は38議席(同44議席)と6議席減。共産党は12議席(同10議席)と2議席増となり、国民民主党は21議席(同7議席)と3倍増、れいわは11議席(同3議席)と3倍を超える躍進が予想されている。

 

 <前回衆院選で自民議席的中させた朝日、注目される森山幹事長の発言>

 前回の2021年衆院選では、朝日の予測が結果に最も近かったと言われ、特に自民党と立憲民主党の議席はほぼ的中させた。その点を記憶している一部の市場参加者は、読売や毎日などの予想に比べて与党の獲得議席が少なない点に注目。過半数割れによる新たな政党の与党入りを石破首相と自民党執行部は模索するだろうとの見方が急速に盛り上がりを見せている。

 実際、自民党の森山幹事長は18日夜のBSフジ「プライムニュース」の中で、選挙結果によっては自民・公明両党による連立政権の枠組みに関し、他党も加えて広げる可能性について質問され「政策的に一致することができれば、会派を同じくして日本の発展のために一緒に頑張るということも大事なことだ。拒むことはあってはならない」と述べている。

 

 <自公過半数割れなら、28日の日経平均株価は1000円超の下落も>

 連立与党の過半数割れという結果になった場合、投開票日翌日の28日の東京市場は政権基盤が不安定になった石破内閣の前途に暗雲が垂れ込めたと判断し、大幅な株安で反応するだろう。前週末と比べて1000円を超す下落となる場面が取引時間中にあっても驚くにはあたらないと考える。

 ただ、先に紹介した森山幹事長の発言にもあるように、自民党は連立与党での過半数割れを想定し、1)非公認で当選した候補者の追加公認、2)それ以外の無所属での当選者への自民党会派への招き入れ、3)野党の一角にある政党への連立政権入りの働きかけ──という多数派維持への工作のカードを温め、どのような状況にも対応できる準備をしているだろう。

 

 <新連立模索なら政策合意までに時間、その間の日本株は上値重く>

 3番目の新たな政党の連立入りというカードを石破首相と与党幹部が決断した場合、新たな連立内閣の成立に向けた政策合意に到達するには、少なくとも数日間、長くなれば週単位の時間が必要になる。

 その間は、マーケットに政権の先行きを懸念する声が広がり、国内の材料としては日本株を買い上げる機運に欠ける展開が継続すると予想する。

 株安の結果として円高に振れるのか、ドル/円は横ばいとなるのか、それとも円安になるのかは、米市場など海外の動向に左右されるだろう。

 

 <新連立は石破首相が前提>

 だが、これまで言及してきたような連立与党による多数派工作は、石破氏が首相になることを前提にして進められる公算が大きい。自民党の獲得議席が朝日の予想の下限である184議席を下回れば石破首相の責任を問う声が党内に高まりそうだが、そうでなければ直ちに「石破退陣」とはならないだろう。

 その最大の理由として筆者は、自民党が200議席に減少する結果になるなら、先の自民党総裁選で石破氏と決選投票を戦った高市早苗・前経済安全保障相を支持したメンバーもかなりの割合でバッジを失っている可能性があるとみているからだ。

 衆院選の結果、親石破と反石破の勢力が反石破に大きく傾かない限り、衆院での新たな多数派の形成に成功した場合は、石破氏が特別国会で首相に指名され、第2次石破内閣が発足すると予想する。

 

 <注目される他社報道>

 ただ、このシナリオ自体が日本株の上値を重くするとの声が市場の一部にある。マーケットにある根強い「石破氏はマーケットにフレンドリーでない」との見方が影響しているようだ。

 今後、朝日以外の各社から衆院選の終盤情勢に関する報道が出てくるだろう。その結果が朝日の情勢報道に寄せる形になっていた場合は、ここで筆者が指摘した選挙後の情勢予測に沿った見方が広がっていくことになるとみている。

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