お鈴甚五郎兵衛
原案・杉浦幸雄
甚五郎兵衛は腕のよい職人で、稼ぎもそこそこにあったが、宵越しの金は持たねえなどと粋がり、博打ですってしまう。女房のお鈴は泣いているという。話を聞きつけ、叔父がやってきた。お鈴は幼い頃に二親を失くし、三田村に住む叔父夫婦に育てられたのだ。
さんざん苦労して集めた銭の束を、外連もなくざらりと床に置き、これが最後だぜ、どうする、これを受けるんなら、お鈴は連れて帰るよ。甚五郎兵衛、喉から手が出そうなのを堪え、両手を着き、這いながら掴むが、持ち上げはせず、そのまま、押し返す。銭が床をききっと鳴らして滑った。要りやせん。博打はもう止しにします。
できた、できた。頷きながら銭を懐にしまう。代わりと言っちゃなんだが。袋を姪の膝に載せた。土間で、お鈴は、袋の焼き栗をすまし汁に泳がす。
ちょいと厠。叔父は立ち、お鈴の袖へ何やら放り込む。肩が下がった。捩じった袂を掴み、はっとする。見上げると、叔父の首が小さく左右に振れていた。夫を伺う。いや、あいつにゃ内緒だよという叔父の仕草に、お鈴は顎を引いた、やや斜めに。
子供らが歌いながら、溝板を踏んで通り過ぎる。
甚五郎兵衛 甚五郎兵衛
鈴が泣く
三田の叔父さん やってくる
今日は楽しい 栗すまし
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ミットソン『漫画の思い出』杉浦幸雄
(終)