腐った林檎の匂いのする異星人と一緒
16 筆跡
お礼をしなければなりませんね。
萎えた。
紙幣の柄が透けて見える封筒。
張りつめた絃が響いた後の長い余韻のような何か。どこかで花弁が落ちたか。
雨が砂漠を濡らし、灰色から草色が細く芽吹き、茶色が立ち上がり、緑色が支配し、黄色が開き、黄色が実ると、雷が落ちて、炎の舞姫たちが笑いながら旋回し、残った斑が吹きやられて砂漠に戻る夢。
眠っている間に、そっと誰かが帰って行った、遠くへ。
雨が岩を削り、岩は砂になり、川を下る。川は干上がり、地球が燃える。炎の上の鍋で人類が煮られる夢。
夢か。夢だと思う。誰が思うのか。
複製を複製し、さらに複製し、原形を推量することさえ困難になった何か。焦慮。だが、沈滞した焦慮。忘却。憧憬に似た忘却。微熱。
遅い朝の光が閉め切ったカーテンを温めている。
誰かが枕元に紙片を見つける。見慣れない筆跡。読めない。
この紙片も夢になってしまうのだろうか。
遠雷。
老いの目が潤む。
誰かが戻って来そうな朝、誰かの元へ。
(終)