漫画の思い出
花輪和一(31)
『赤ヒ夜』(青林堂)
『「因業地獄女「倉」」
よくできている。
「因業」とは「頑固で無情なこと」(『広辞苑』)だが、本来は仏教用語で「原因と、間接的原因である行為(業)とをいう」(『ブリタニカ』)とか。
作者は、ヒロインの「倉」を悪い女として描いている。しかし、彼女が悪いことをしでかすのには、それなりに理由がある。周囲の人々が悪いのだ。
作者は、本心では、彼女を庇っているのではないか。そうだとすると、おめでたい。二重の意味で、おめでたい。作者は、悪い女を庇う余裕ができたから、おめでたい。だが、その余裕は嘘っぽいから、おめでたい。
彼女は嫁に行って「オス」を生むように強制されるが、「メス」を生んでしまう。花輪は、〈僕を産んでくれなくて、ありがとう〉と思っているのかもしれない。彼女は「オス」を生むという悪行だけはやらなかった。「オス」を生まない「因業地獄女」が、「オス」である花輪の理想の母親なのかもしれない。皮肉でも理想の母親を描けたことが、おめでたい。
最期の駒で登場する「愛情不足が原因」で死んだ女子は、「愛情不足」でも生きている男子の裏の存在だ。
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これはすべてフィクションでした。作者のおばあさんとは全く 関係ありません。ここに使用した写真も 昔、雨の降った日に道端でひろったもので、ブツダンの ひきだしでみつけたものではありません。だいいち、こんな業の深い おばあさんのシソンなんて はずかしくってとっくに死んでる。体中の血を全部体外に 出してね。こわいもの、こんな 業の深い血をいかしといたら。
(『「因業地獄女「倉」」』
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このあとがきも「フィクション」かな。
(31終)