『七つの子』を読む
〈詩を理解する必要はない〉と主張する人がいる。さらには、〈理解は鑑賞の妨げになる〉とまで嘯く人がいる。とんでもない。詩は、理解力が足りない人のための逃げ場ではないよ。
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七つの子
野口雨情
烏(からす) なせ啼(な)くの
烏は山に
可愛(かわい)七つの
子があるからよ
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「七つ」を〈七羽〉と誤解する人がいる。正しくは〈七歳〉だ。勿論、七歳の雛なんて、おかしい。
「可愛」は烏の鳴き声から。カアカア。
この詩は問答になっている。
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(夕暮れ。何事かを訴えるような烏の鳴き声がする)
子 (不安げに)烏、なぜ啼くの?
母 烏は山に可愛い七つの子があるからよ。
子 ?
母 「可愛い、可愛い」と烏は啼くの。
(そう言いながら、母は子を抱き寄せる)
子 (擽ったそうに笑う)
母 山の古巣にいって見て御覧。(母が子の目を覗き込む)丸い目をしたいい子だよ。
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七歳の子は甘やかされたくない。でも、甘えたい。この葛藤を母が作り話で和らがせる。「古巣」とは、母子分離以前の幼児期の記憶の代りだ。
こうした情景を想像できない人は、詩とは縁がない。
志村けんが歌っていた。
「烏、なぜ泣くの。烏の勝手でしょ」
七歳を過ぎた子が泣いていると、親がうるさがって「なぜ泣くの?」と詰問する。子は「勝手でしょ」と不機嫌そうに答える。
子供たちが狂ったように唱和していた。これは自立のための闘いの歌だったのだ。もう「古巣」には戻れない。いや、戻るものか。
ところが、エゴイズムの歌と勘違いした未熟な大人が、これを歌うのを禁じた。昭和は嫌な時代だった。
(終)