今日
智恵子抄が届いた。
・・・・・彼女はよく東京には空が無いといつて歎いた。私の「あどけない話」といふ小詩がある。
智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切っても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
智恵子は遠くを見ながらいふ。
阿多多羅山の山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。
私自身は東京に生れて東京に育ってゐるため彼女の痛切な訴を身を以
て感ずることが出来ず、・・・・・・
ーーーーー 智恵子の半生より -----