津村節子著:智恵子飛ぶをよみ終えて。
大げさなことではないが。
最終章:荒涼たる帰宅。
病魔に冒されて不帰の人となる。
満足できる画のひとつも描けなかったアトリエ。
無言の帰宅である。
光太郎は茣蓙に横たわる智恵子にそれでは背中が痛かろうと、
シーツを当てるが親戚の老女に叱責されシーツを外す。
病室にあるとき、
光太郎の顔を見ると微笑んで見せる。
しかし、それが意識の内にあるのか光太郎には判別できない。
このころから紙絵を始める。
光太郎にしか見せない。
ようやく、光太郎は智恵子の才に驚き、
心からその紙絵のすばらしさを讃える。
自分の才能を信じて、
世に受け入れられないむなしさ。
光太郎はちゑさんだけの世界だと褒めてくれる。
でも、あの才能豊かな光太郎の本心か?
と、思うとますます自分が惨めになる。
そんな想いを胸に日々悶々とする智恵子。
実家の父の死を追うように妹の相つぐ死。
そして、造り酒家長沼家の没落。
世俗に背を向け、それぞれの道を二人で歩むこと。
それが智恵子の願いだった。
東京には空がないと云い、
故郷の空が本当の空だと云って、
精神と肉体までも病んで永遠の眠りについた智恵子。
智恵子の言った本当の空からいまもこの世を視ているだろうか。