キャスリーン・バトルのオンブラ・マイ・フを聴く。
『 こんな木陰は今までになかった。
どれよりも優しく、愛らしく、そして心地良い。』
そんな意味らしい。
ピアノがゆったりと流れ、
声が生まれる。
声は徐々に広がり、空高く伸びて、どこまでもどこまでも満ちていく。
石の椅子に座り、ソードをまっすぐに立て、
クイーンは決して揺らがない。
その難しい表情は、見る者を敬遠させるが、
私は彼女を心から尊敬している。
彼女は、ソードのクイーンになる前、とても穏やかで、優しくて、いつも笑顔だった。
不思議な力があって、人の思いを空に浮かべることができた。
ある時、
愛する人へ、自分の思いを届けてほしいと頼まれた。
彼女は、遠い国に旅立って行った人に向け、
その人の思いを空に浮かべた。
しばらくして、旅立った人は、亡くなったのだと知った。
なぜなら、受け取られなかった思いは、
いつまでもいつまでも浮かんだままだったからだ。
その時、彼女は知った。
空には、届かなかった愛する人への思いや、
受け取ることができなかった人の思いであふれていることを。
彼女はそれからクイーンになり、
浮かんだままのたくさんの思いに行き場を与えることを、自らの使命とした。
まっすぐに立てたソードは、行き場を失った哀しみの思いへの弔い。
掲げた左手は、さまよう愛しさの思いを安らぎへと導く。
今日も、使いの鳥が、浮かんだままの思いを見つけてくる。
彼女は、真摯にその思いに向き合い、自らの使命を果たす。
彼女は、数えきれない愛しさと哀しみを知った人。
その思いを受け止め、休ませ、行き場を与える。
オンブラ・マイ・フ。
他のどんな木陰より優しく、愛らしく、心地良い。
ソードのクイーンの愛は、まさにそう。
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