ベストセラーとなっているようですがやっと雑誌掲載されたので読了しました.
内容の多くが公開されているので,あらすじは省略します.
わたしの(客としての)寄席デビューは中二の夏,今はなき大阪角座でフラワーショウの歌謡漫談や米朝師匠の艶話を楽しんだのが最初です.半世紀近く前の事になりました.後年フラワーショウのリーダーのボタンさんが琵琶湖に入水して驚きました.芸人さんの世界のことなんて珠に行く鈴本や末広・東洋館などの客席から見た景色とちょっとしたエピソードの斜め読みしか知りません.
それでも売れていないお笑い芸人の日常は貧乏で副業で糊口をしのぎながら芸に精進というのが定番なのは承知しています.志ん生のなめくじ長屋伝説や無名時代の爆笑問題が田中とタイタン社長の光子のコンビニのアルバイトでもっていたことなど昔も今も変わらない.不思議なのは昔の副業話の方が読んでいて安心感があった事です.非正規雇用がこれほどポュラーになったのに現在のパートぶりの方が読んでいて焦燥感が強い.たぶん世の中の閉塞感が違うのが理由だと思います. 本賞にエントリーする作品には普段めったに使われない漢字や単語が使われている事がしばしばあって新鮮な感じを受けることがあり.この作品にも頻出します.些細なことだけど「纏う」(まとう)が気付いただけで三回使われていました.たぶん作者の好きな単語なのだろうけれど類義語を使って書き分けてほしかった.物語の終盤で師匠にマイノリティへの配慮を説く場面はもっともだと感じながらも現実に引き戻される興ざめ感があり,工夫のしようがなかったのかと少し残念に思いました.
知らない世界を垣間見せてくれるのが小説の楽しみのひとつと思っているので四六時中とは言わずとも少しは読みたいと思っています.いかんせん無限とも思える冊数の書店の本棚から読書が時間の無駄と感じない新人の作品を探すのは大変です.そこで芥川賞受賞作品ならはずれは少ないだろうという安易な理由で毎回の受賞作を読んできました. 本作品の受賞が報道された時芥川賞と本屋大賞の区別がつきにくい状況になったと皮肉ったニュースキャスターがいたようです.火花が賞の水準に達しているか否かなんて無論判らないけど四十編以上の既読の受賞作品と同質のにおいは感じました.タレント本というのは読んだことが無いのでわかりませんが,たぶんそれとは全く別物の完成度の高い小説だと思いました.
「火花」 第153回芥川賞作品
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