*敬称略 悪しからず
藤沢周平の作家デビューは遅い。
昭和46年44歳の時、"溟い海"で「オール読物・新人賞」を受賞し
認められるようになるが、5年ほどはユーモアの有る明るい作品は
藤沢自身、書けなかったという。
藤沢「時代小説というのはネ、一つのかたちみたいな物ネ、前には
出来ていたんじゃないか、と思うんですよネ。
特に、私なんかは、オールのね、新人賞の出身ですから、
新人賞の作品と言うのは、なんか一つの型があるって言う感じてね
中味も深刻で、文章も深刻でって言う、そういう一つの型式が有る
ようで、僕はそういうのはドンドンやめた方がいいと思うんですよね。
時代小説にユーモアがないって言うと、そんな分けはないと思う訳
ですよ。
昔の人なんてネしかつめらしく、さむらいにしてもそうそう毎日毎日
渋面を作って暮らしていた分けでではないんで、ユーモアだって有っ
たに違いないわけで、ただ、どんな風にどう書くかって云う事になる
とネ。いろんな書き方がある訳ですヨ。
田辺聖子さんみたいなのも在るし、井上ひさしさんみたいな書き方も
あるんだけど、それは全体の問題でネ。
一つは、題材でもってユーモア出していく、と。
一つは文章で持って出して行くと、ドンドン入れたら良いと思うん
ですよね。
(略)時々考えちゃうんですよ。
やっぱりね。どだい私の小説、人生観そのものが、大体、なんて
言うか、人生を愉快に歩いていないって言うか、そういうものが
根本にあるもんですから、それだからユーモアも書きますけどね、
その後、嫌になっちゃうって言うか。その後、深刻なものを書いて
しまう(笑)
なんか繰り返しみたいな事をやってますね。」
藤沢の作品は、四度目の結婚にして、ようやく安定した生活ができ
軌道に乗ってからも、生涯を通じて真摯な作が多い