*敬称略 悪しからず
藤沢作品に「たそがれ清兵衛」という短編が有る。
映画になり、ずいぶん話題にもなった。
*映画のパンフレット
作品は、藤沢の苦労時代そのままである、大方はそう評しているが
現実は、もっと苦しく切なかったのである。
最初の妻を亡くした直後は、乳飲み子を抱え、子守り兼に
呼び寄せた母は目を患い、身動き取れないほどの大変さに
なってしまう。
誰でもいいから、助けて欲しい。手を貸してほしい。
この時期、藤沢は誰かれなく「結婚」を迫ったようである。
後年、藤沢はこの時期の自分を恥じたかのように、封印している。
四度の結婚も隠して措きたかったかもしれない。
「たそがれ清兵衛」に書かれたのは、その当時の一部であろう。
故郷鶴岡への、恨みも封印したままであり、決して語ることも
書くこともなかったのである。
*「たそがれ清兵衛」初出誌 小説新潮 1983年9月号
昭和58年 56歳
最初の妻「悦子」没後、20年の歳月が過ぎている。
売れっ子作家として活躍し、生活に余裕が生まれて数年経っている。
藤沢にとって、一番良い時期に入っていた頃ではなかったろうか。