Pretty Girls Make Graves
“The Smiths”(1984)収録
ファーストの4曲目。
かわいい女は墓を建てる。ザ・スミス初期の歌には、ガツガツ性的に関係を進めようとする女が出てくる。「欲望に負けるのよ!」なんて迫られたら、モリッシーでなくても怖くて萎えそうだが、それは性欲というよりは、男を捕まえてとっとと結婚したいという、20世紀的典型的捕獲女しぐさだ。それは日本でもあるあるだが英国でもあるあるだった。
この女がせっせと建てている墓は、ある愛の関係を葬るため。もしこの女の捕獲行動がうまくいっても「結婚」という墓が立つ?(「結婚は人生の墓場」という、出典があやふやな言い回しがあるが(ボードレールが言ったことが誤訳された説もあるがそれも嘘らしい)、まさにこの言葉にも通ずる)
モリッシーはこの歌で、「結婚のために捕まるなんてやだね、俺は自由でいたい」と言っているのではなく、ステレオタイプの性役割にモノを申している。性役割とは性別に基づいて社会的、文化的に適切または望ましいとみなされる役割や態度や属性、行動などを期待されることだ。
昨今はジェンダー平等コンシャスな社会になったが、20世紀は男女ともに、負わされた性的役割に過剰適応したり、そこから生まれる陳腐な関係性に疑問も持ったりしていなかった。だからこの歌の主人公も
僕は荒々しく自由になれたかもしれない
でも持ち前の性分が僕にこんな仕打ちをした
と、ちょっと積極的な女に申し訳な気なことを言っている。これは本当にモリッシーが「僕は繊細でナヨナヨしてるから、君と荒々しくセックスできなくてごめんね」と思っているわけではない。反語的な性役割批判である。
英国人は、パロディーとか皮肉、寓話好きであるがモリッシーが詩人としてすごいのは、ロックの歌詞でこれをやっているところである。世界的にも、世の中がジェンダー平等コンシャスになってきたのなんて、ここ20年弱のことだ。それを約40年も前の80年代、マチズモやお色気旋風がびゅんびゅん巻き起こってるロックの世界でやっているのである。
先日、この歌とは正反対で、マチズモ、男性優位ご都合主義あふれる、シブがき隊の歌詞を分析してXに書いた。2024年の社会で通用しないものである。現代に、そうやって過去の歌の歌詞を分析すると、ジェンダー認識のズレや違和を感じて、大変興味深い。
80年代は「授業中に手を挙げて俺を好きだってもし言えたら抱いてやるぜ~」と歌われて、テレビに向かって何の疑問もなく「ホントー!?」と合いの手掛け声を入れていた小学生であった。今書いてて気づいたけど、この"Pretty Girls Make Graves"("Suffer Little Children"にも参加)のゲストボーカルAnnalisa Jablonskaもこの歌の途中で「ホントー!?」(oh really?)と合いの手を入れている。
授業中に手を挙げてコクって抱かれるのはホントじゃないが、かわいい女がひとつの関係の死骸を埋める墓を建ててるのはホント。
かわいい女は墓を建てる
砂の上、湾の上
「速くて簡単な方法があるの」と君は言う
君が説明する前に
言った方がいいかな
僕は、君が思ってるような男じゃない
僕は、君が思ってるような男じゃない
悲しみの落とし子
誰にも笑顔を見せない奴だ
そしてかわいい女は墓を建てる
ああ、ああ…
桟橋の端、湾の端
君は僕の腕を引っ張って言う
欲望に負けるの、欲望に
ああ、私たちすぐに塵になっちゃうんだから
僕は、君が思ってるような男じゃない
僕は、君が思ってるような男じゃない
悲しみの落とし子
誰のためにも立ち上がらない
そしてかわいい女の子は墓を建てる(え、ホントー?)
僕は荒々しく自由になれたかもしれない
でも持ち前の性分が僕にこんな仕打ちをした
彼女は今、欲しいんだ、待ってはくれはしない
彼女は激し過ぎるし、僕は繊細過ぎる
そして、砂の上で、別の男が、彼女の手を取る
彼女の愚かな顔に笑顔が浮かぶけど、まあ当然だ
僕は女に対する信頼を失った、女に対する信頼を
信頼を失った
Pretty Girls Make Graves
Upon the sand, upon the bay
"There is a quick and easy way" you say
Before you illustrate
I'd rather state
I'm not the man you think I am
I'm not the man you think I am
And sorrow's native son
He will not smile for anyone
And pretty girls make graves
Oh-oh-oh-oh, oh-oh-oh-oh-oh
Oh-oh-oh-oh-oh-oh-oh-oh-oh
End of the pier, end of the bay
You tug my arm, and say
"Give in to lust, give up to lust
Oh, heaven knows we'll soon be dust"
Oh, I'm not the man you think I am
I'm not the man you think I am
And sorrow's native son
He will not rise for anyone
And pretty girls make graves (oh really?)
I could have been wild and I could have been free
But nature played this trick on me
She wants it now
And she will not wait
But she's too rough and I'm too delicate
Then, on the sand, another man, he takes her hand
A smile lights up her stupid face, and well, it would
I lost my faith in womanhood, I lost my faith in womanhood
I lost my faith
Oh-oh-oh-oh, oh-oh-oh-oh-oh
Oh-oh-oh-oh-oh-oh-oh-oh-oh
Hand in glove
The sun shines out of our behinds
Oh-oh, oh-oh