■円安・低成長「日本」とウォン高・高成長「韓国」の差~「下がり続ける円」が本当に意味するところ~
東洋経済 2022/02/09 リチャード・カッツ
https://toyokeizai.net/articles/-/509838
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足を怪我したら、松葉杖が必要になる。
しかし、松葉杖に長期間頼りすぎると、筋肉が萎縮してしまうだけだ。
これは、日本の状況、そして円安の状況に関しても、同じことだ。
安倍晋三氏と黒田東彦氏がそれぞれ首相と日本銀行総裁に就任してから、日本政府は円安に誘導する政策を継続してきた。
現在、円は「実質」の価値でいうと、ここ半世紀で最も価値が下がっており、長期的な平均と比較すると3分の1近く低くなっている。
・今の円安はいいのか悪いのか
今後さらに円安が進むと広く考えられており、それがいいことであるのかどうか、日本銀行と新たな岸田政権との間で意見の相違が出てきている。
黒田総裁は、食品、エネルギー、衣服、および靴などの輸入に大きく頼る品目の「物価が円安によって上昇し、家計所得にさらに負の影響が出る可能性がある」と認めつつも、円安は日本にとって「差し引きでプラス」であると主張している。
1月18日の記者会見では、「悪い円安というようなもの」はないとまで論じた。
これに対して、鈴木俊一財務相は、1月7日、「為替の安定」が必要であると強調し、市場に対して円安が過度な速度で過度な水準まで進んでいるという見方を伝えるという、「口頭での介入」を行った。
日用品の価格が上昇することで、今年の夏の参議院選挙を前にして、岸田文雄首相の支持率に悪影響が出る可能性はゼロではない。
国内総生産(GDP)の数字だけを気にしているなら、あるいは原因のいかんにかかわらず緩やかなインフレはいいことだと考えているなら、黒田総裁が正しいように見えるかもしれない。
筋肉が萎縮した怪我人は、なおさら松葉杖が必要になる、というのとまったく同じロジックだ。
しかし、怪我人が松葉杖不要の身体を取り戻すのに本当に必要なのは、理学療法だ。
それと同じように、日本には経済再編が必要なのだ。
円安は、国内の弱さ、そして海外での競争力の低下を反映している。
以下に詳しく述べる通り、韓国はウォン高となっているにもかかわらず、日本より速いペースで成長することに成功している。
・戦後最長となる消費の低迷
安倍首相と黒田総裁の時代、国内の需要は極めて低迷しており、その中で日本はわずかな成長を実現したものの、その成長も大部分が財政支出と純輸出額(輸出額から輸入額を差し引いたもの)の上昇に依存している状態だった。
2回の増税と輸入に大きく頼る品目の物価上昇によって実質の(物価調整後の)家計所得が押し下げられていたため、このような人工的な刺激が必要な経済状態だったのだ。
その結果、安倍首相と黒田総裁の7年間で、個人消費は実際には1%低下。
これほど長期間にわたる低下は戦後初めてのことだった。
(中略)
生活水準の向上を伴わない競争力は、本当の競争力ではないのだ。
安倍首相と黒田総裁は就任当時、2%のインフレ率が達成できれば万事上手く行くと、そして黒田総裁ならその目標をわずか2年で達成できるだろうと、確信していた。
しかし、その目標には近づくことすらできなかった。
さらに悪いことに、日本銀行が実際に達成できたインフレのほとんどは、円安と2回の増税の結果に過ぎなかった。
アベノミクスが国内経済を強化してインフレを実現していたのなら、それは朗報となっていただろう。
しかし、輸入品の価格上昇によって消費者物価指数が上がっている状況では、メリットよりデメリットの方が多い。
円安になれば、日本の輸出品の値段が下がると同時に、輸入品の値段は上がる。
消費者支出の40%近くは、エネルギー、衣服、靴、および食品など、輸入に大きく頼る品目への支出だ(カロリーで計算すれば、日本の食料の60%は輸入品なのだ)。
2012年から2021年で、これらの品目の価格は、消費増税を無視しても12%上昇している。
それに対して、消費者支出の残り60%を占める輸入に大きく頼らない品目への支出は、同じ期間で0.7%増という、ゼロ同然の増加にとどまった。
つまり、消費税を除く消費者物価指数の上昇全体の90%を超える部分は、輸入に大きく頼る品目の値段の上昇によるものだったのだ。
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円安・低成長「日本」とウォン高・高成長「韓国」の差~「下がり続ける円」が本当に意味するところ~
東洋経済 2022/02/09 リチャード・カッツ
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