kamacci映画日記 VB-III

広島の映画館で観た映画ブログです。傾向としてイジワル型。美術展も観ています。

皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇

2015年08月09日 | ★★★★☆
日時:8月8日
映画館:横川シネマ

メキシコからアメリカに流れ込む麻薬の実態を描いたドキュメンタリー・・・と言うと、大雑把に括り過ぎで、麻薬ビジネス全般や歴史などを取材するディスカバリーチャンネル系とは一味違い、メキシコの警官とアメリカの「ナルコ・コリード」のミュージシャンの2人が中心となる。

テキサス州エルパソの隣町、メキシコのシウダーファレスが主な舞台。実は25年ほど前、アメリカ旅行をした際にエルパソからシウダーファレスに入ったことがあるが、猥雑な雰囲気になじめなくて1時間ほどでアメリカに戻った覚えがある。ただ、その頃は犯罪多発地帯という感じではなかった。

それもそのはずで、犯罪が激増しだしたのは、1990年代後半からだという。その犯罪地帯で命を危険にさらしながら職務と続ける警官が本作の主人公。普通の警官であるにも関わらず、顔が割れると危険ということで覆面をして捜査をする、その異常さ。

日中からドンパチがあって、犯罪組織が見せしめに犠牲者をバラバラにしてネットで公開することが、日常になっているあたりからして異常なのだが・・・。(ドキュメンタリーなので、その辺の映像もしっかりと出る。)

メキシコの警官の日常が中心だったら、普通のドキュメンタリーなのだが、その対比として「ナルコ・コリード」のミュージシャンを取材しているところがこの映画の面白いところだ。(これがタイトルの「光」のパートとなる。)

軽やかで明るい曲調で、メキシコの麻薬犯罪や麻薬王を称えるかのような曲を歌い、全米でヒスパニック系を中心に大人気。(もちろん、メキシコでは禁止。)歌詞にリアリティを持たせるため、ネットや麻薬カルテルへのヒアリングでリサーチも欠かさず、ご贔屓にしてもらっているカルテルからは拳銃がプレゼントされ、更なるリアリティを求めてメキシコ本国の麻薬組織の聖地とも言える都市を訪問する。営業熱心なのか、怖いもの知らずなのかよく分からない。(なぜか、みんな肥満体で丸坊主、サングラスで見分けもつかない。)

コワいのはその曲を聴いて盛り上がっているアメリカのヒスパニックたち他で、「手にはAK-47」とか「ヤクでのし上がる」とか「邪魔するヤツの首をたたっ切る」って歌詞を皆で大合唱している。隣りの国で犯罪組織が民間人を巻き込んで殺し合いをし、本国では麻薬が蔓延しているという状況で、かくも人の痛みを感じないでいられるものなのだろうか。

1950年代のアメリカの核政策を揶揄したドキュメンタリー「アトミック・カフェ」のサントラも同じように無知と無神経がなせる歌詞で、引きつった笑いが起きたが、あの国の無神経さ(もしくは、罪の意識の希薄さ)は変わらないのかも知れない。

もちろん、その背景にはアメリカとメキシコの歪な関係があるわけで、言語も歴史的背景も経済事情も違うアメリカに対する屈折したものが感じられる。(もはや、対米攻撃と言っても良いのかも知れない。)

日本でヤクザの抗争とかシノギとかが実名入りで歌われ、その曲が普通に販売されている状況を想像してもらえれば、その異常さが分かると思う。アメリカって、やはりどこかおかしい。

ところで、広島での上映館が昭和テイストあふれる「横川シネマ」。缶チューハイ片手に鑑賞し始めたら、後ろのオッチャンが「にいちゃん、やろう」とビーフジャーキーとさきいかを分けてくれた。映画の内容にピッタリなシチュエーションになんか笑えたよ。







題名:皆殺しのバラッド メキシコ麻薬戦争の光と闇
原題:NARCO CULTURA
監督:シャウル・シュワルツ
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