世界標準へのレジームチェンジを目指す安倍政権と、旧来レジームに取り込まれ続ける日本のメディア

2013-02-23 | メディア/ジャーナリズム/インターネット

世界標準へのレジームチェンジを目指す安倍政権と、旧来レジームに取り込まれ続ける日本のメディア
現代ビジネス「ニュースの深層」2013年02月22日(金)長谷川 幸洋
 日銀総裁選びが大詰めになってきた。新聞やテレビはこの数週間、いろいろ候補者を予想して記事や番組を作ってきたが、はっきり言ってピンぼけ解説ばかりではなかったか。私からすると、ほとんどは財務省や日銀の意向を忖度した提灯記事ばかりだったように見える。とてもじゃないが、独立したジャーナリズムの仕事とは思えないのだ。
 たとえば、NHKは2月20日夜の番組で民間のエコノミスト10人が予想する候補者を挙げて解説した。その結果はといえば、岩田一政日本経済研究センター理事長と武藤敏郎大和総研理事長(元財務事務次官)の2人が最有力という話になっていた。
 これは驚くには値しない。なぜかといえば、そもそも投票したエコノミストの顔ぶれが財務省や日銀と取引している金融機関のサラリーマンばかりだからだ。中には、日銀なくして存在できない短資会社のエコノミストまでいた。彼らが最重要のお得意様である財務省や日銀の意向に背くような候補者の名を挙げるはずがないのだ。
 とくに番組に顔写真が出た短資エコノミストは、「日銀の宣伝係」として金融業界で知らぬ者はいない。もちろん、そんなことはNHKだって百も承知のはずなのに、そういう人に投票させるという企画自体が日銀(と背後にいる財務省)の意向を反映している。
 それで、もっともらしい解説番組になったと満足しているとすれば、私も「やっぱり受信料払うの、やめるか」と思ってしまう。べつにNHKだけでなく、他のテレビや新聞も似たり寄ったりである。
■御用エコノミストの世論誘導作戦
 今回、どうしても日銀総裁にOBを送り込みたい財務省は、エコノミストはもちろん新聞やテレビの記者たちにも猛烈な刷り込み作戦を仕掛けて、相場観作りに勤しんできた。そんなエコノミストたちの発言を新聞、テレビがこぞって紹介することで、財務省路線が世の中に浸透し、安倍に「世論はこう期待してますよ」と圧力をかける。そういう仕組みである。
 ズバリ言えば、御用エコノミストとポチ記者たちの世論誘導作戦である。私はNHKの番組を見ていて、あんまりばかばかしいので、途中でチャンネルを切り替えてしまった。こういうものをいくら見ても、なんの役にも立たない。自分の頭が濁るだけだ。
 私は金融政策について安倍の考え方(人事ではない)を何度も本人から聞いているので、実は日銀総裁人事そのものについては、ほとんど心配していない。
 なにより安倍自身がまったく最初からぶれていない。2%の物価安定目標は日銀に飲ませた。肝心の大胆な金融緩和は次の総裁にかかっているが、万が一、安倍が指名したにもかかわらず、次の総裁が緩和に消極的なら、安倍はためらわず日銀法改正に踏み出すだろう。基本的な路線はもう出来ているのだ。これが大前提である。
 だから、だれがいいとか悪いとか、人事を当てることにも、率直に言って大して関心がない。だれが総裁、副総裁になったところで、日銀は大胆な金融緩和に踏み切らざるを得ないのだ。したがって、その結果であるデフレ脱却と景気回復についても、そう心配していない。
 そのうえで、あんまりメディアの報道がひどいから、あえて私自身の見方を書いておこう。はっきり断っておくが、これは私の見方であって、安倍の考え方そのものではない。まして私が安倍からこっそり聞いた話ではまったくない。
■安倍は世界標準を重視する
 まず安倍自身はなんと言っているか。
 最初から「金融政策のレジームチェンジ(枠組み変更)を目指す」と言ってきたのは、2月7日公開のコラムで書いたとおりだ。加えて、20日には参院予算委員会で重要な発言をした。
 安倍は「金融政策への批判に対し理論で反論できる人物、国際金融のインナーサークルに自分の言葉で伝えることができる人物がふさわしい」と言ったのである。注目すべきは「理論で反論できる」という部分だ。単に国際金融のインナーサークルに顔があるというだけではダメで、理論で語るとなると、学識がモノを言う。
 安倍は、ともすれば狭量なナショナリストと誤解されがちだが、実はグローバルスタンダード(世界標準)を極めて重視している。そのことが、日銀総裁問題では「国際金融のインナーサークルで自分の言葉で語る。しかも理論で」という点に如実に示された。
 日本を一歩出て、世界に身を置けば、自分の言葉で語るのは常識である。自分の所属する組織の論理をいくら語っても「お前は自分の頭がないのか」とバカにされるだけだ。財務省や日銀のような組織が大きな顔をしていて「そういう組織の人間」というだけでチヤホヤされるのは、まったく日本だけの現象である。
 理論をもとに英語で語るのも当たり前だ。そんなことが重視されるという事実自体が、日本がいかにダメな国になったかという話なのだ。途上国の人間だって、ちゃんとした人は理論と英語で語る。金融政策を理論で語らず、組織の論理優先で運営するなら、先進国どころか前近代の「ムラ社会」そのものだ。それが失敗したのは、原発問題で証明済みである。
 安倍の世界標準重視は規制改革にも表れている。私は1月12日公開のコラムで、自民党が日本の規制を世界標準にするために「国際先端テスト」を導入するという公約を掲げている点を評価した。安倍は1月25日の日本経済再生本部で稲田朋美行革相に国際先端テストの導入に向けて取り組むよう指示している。
 なにかと議論が多い国防軍の創設についても、世界標準重視の文脈でとらえることができる。安倍自身が何度も説明したように、自衛隊は英語にすれば「Self Defence Force」だ。だが、ときに「Selfish(自分勝手な、利己的な) Defence Force」と揶揄されることもあるから「National Defence Force」(国防軍)にしようという話である。世界を見れば、Nationalのほうが標準なのだ。
■あとは大胆な金融緩和だ
 以上のようなレジームチェンジと世界標準志向で考えれば、日銀人事の候補者もおのずと絞られてくると思う。
 たとえば武藤はどうか。先のコラムで書いたように、武藤では「レジームチェンジ」にならないだけでなく「理論で反論」もできないから候補にはならない。この1点だけを見ても、エコノミストたちの見方がトンチンカンなのは証明できる。
 財務省もさすがに武藤については、もう諦めただろう。どう考えても、安倍が示した選考基準を満たさない。2月15日にロイター通信が「武藤有力」と報じると、あっという間に株価は下落し、円相場は円高になった。御用エコノミストたちが、いくら武藤を持ち上げようと、皮肉にも肝心の市場が評価していない(そんなので、よくエコノミスト商売になるな、と感心する)。
 岩田一政はどうか。岩田は理論家だが、やはり先のコラムで書いたように、そもそも安倍が唱えた2%物価安定目標に冷ややかだった。2006年に量的緩和解除に賛成した経緯もある。安倍の考え方を共有しているとはいえない。
 黒田東彦アジア銀行総裁(元財務官)はどうか。黒田も有力候補の1人には違いない。だが、いかんせん組織の人間である。そこを安倍がどう判断するか。
 2月20日の首相動静を見ると、財務省の真砂靖事務次官、中尾武彦財務官、山崎達雄国際局長がそろって首相を訪問している。G20が終わったばかりのタイミングで首相に報告する内容があるとも思えず、ここは黒田一本に絞った陳情活動だったのではないか。
 岩田規久男学習院大学教授も候補になる。だが、いまから国際金融のインナーサークルに入れるかとなると、いま1つ弱い。副総裁候補どまりではないか。
 国際金融のインナーサークルに顔があって、理論で語れる人はだれか。私は竹中平蔵慶大教授が一番ではないかと思う。いまは学者をしているが、小泉純一郎政権の経済財政担当相として政治家の経験もある。経済と政治の双方を知る候補である。
 竹中については、たとえば麻生太郎副総理兼財務相が嫌っているという話がある。いま竹中は産業競争力会議の委員として、安倍政権の産業政策がターゲティング・ポリシーに傾斜している点を厳しく批判している。竹中が産業競争力会議を離れて日銀の金融政策に専念してくれれば、麻生にはかえって都合がいいのではないか。
 日本経済に求められているのは、おろそかにされてきた金融緩和を物価安定目標の下でしっかり実行する。財政出動も加えて、まずはデフレ脱却に全力を挙げる。そのうえで長年の課題である規制改革にしっかり取り組む。そして中長期的な安定成長への道筋をつける。これに尽きる。
 このうち物価安定目標はできた。あとは大胆な金融緩和だ。政権の側がようやく財務省・日銀ムラから脱して、新しい世界標準のレジームを構築しようというとき、エコノミストやメディアが旧来レジームに取り込まれていて、どうするのか。(文中敬称略)
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長谷川幸洋著 『政府はこうして国民を騙す』 講談社 2013-02-09 | 読書

        

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  現代ビジネス「ニュースの深層」2013年02月01日(金)長谷川 幸洋
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