死刑の執行 犯罪抑止のために必要だ〈産経新聞〉/ この国は「和を以て尊しとなす」談合の世界だ〈来栖〉

2013-02-23 | 死刑/重刑/生命犯

死刑の執行 犯罪抑止のために必要だ
産経新聞2013.2.23 03:20[主張]
 死刑囚3人の刑が執行された。死刑執行は昨年9月以来で、昨年末に政権交代した安倍晋三内閣では初めてとなる。
 谷垣禎一法相は執行後の会見で、判決確定から6カ月以内に死刑を執行するように定めた刑事訴訟法の規定を挙げ、「法の精神を無視することはできない」と語った。
 当然の判断である。刑の執行を前提としない判決など、意味をなさない。法相の資質や私見によって執行が滞留するようなことは許されない。今後も粛々と法相の職務を全うし、重大犯罪の抑止に役立ててほしい。
 民主党政権では、柳田稔氏から平岡秀夫氏まで4代の法相の下で執行ゼロが続き、平成23年は19年ぶりに1件も執行されなかった。未執行の確定死刑囚が130人を超す異常事態が続いている。
 裁判員裁判で国民の代表が苦しみ悩み抜いた末に出した死刑判決もある。法相の職責は、より重くなっていると考えるべきだ。
 死刑存続については国連など海外からの批判もある。しかし、谷垣法相は「死刑は極めて大きな内政上の問題だ。治安維持や国民感情という観点をしっかり考えるべきだ」と反論し、「制度の大綱について、現時点で見直す必要はない」と言い切った。法相の発言を支持したい。
 民主党政権時代の22年、当時の千葉景子法相は「国民的な議論の契機にしたい」と東京拘置所の刑場を報道機関に公開し、省内に「死刑の在り方についての勉強会」を設置した。
 だが、この勉強会は昨年3月、「(死刑)存廃の結論を取りまとめることは相当ではない」との報告書を公表して、議論を打ち切った。谷垣法相は、こうした勉強会についても改めて設置しない意向を示している。
 今回、刑が執行された一人は、16年に奈良市の小学1年女児をわいせつ目的で誘拐し、殺害した。一人は20年、茨城県のJR荒川沖駅などで、男女9人を無差別に殺傷した。
 谷垣法相は「いずれも身勝手な理由で尊い命を奪った。極めて残忍な事件」と強調した。
 21年に内閣府が行った世論調査では、死刑の存続派が85・6%にのぼり、廃止派の5・7%を大きく上回った。日本の国民は、こうした凶悪犯罪に国が厳刑をもって臨むことを強く支持している。
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〈来栖の独白 2013/2/23 Sat. 〉
>死刑の存続派が85・6%にのぼり・・・日本の国民は、こうした凶悪犯罪に国が厳刑をもって臨むことを強く支持している。
 物事は、「数」の多寡で判断してよいものばかりではない。が、政治は往々にして「数」に決定をゆだねる。「健常な99匹よりも、迷える1匹」は、宗教や文学の世界だ。この国から死刑が無くなるとすれば、フランスのような独断できる為政者が現れる時しかないだろう。この国は「和を以て尊しとなす」談合の世界だ。
 ※ 『勝田清孝と来栖宥子の世界』
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谷垣法相の命令により 死刑執行 小林薫(奈良女児誘拐殺害)・金川真大(荒川沖駅)・加納恵喜の3死刑囚 2013-02-21 | 死刑/重刑/生命犯 問題 
 奈良・女児殺害の小林死刑囚ら3人死刑執行
 2013年2月21日(木)11時24分配信 読売新聞
 法務省は21日、2004年に奈良県で起きた女児誘拐・殺害事件で死刑が確定した小林薫死刑囚(44)ら3人の刑を同日午前、大阪、東京、名古屋の各拘置所で執行したと発表した。
 死刑執行は昨年9月27日に2人が執行されて以来で、昨年末に誕生した自民党の安倍政権下では初めて。この日の執行で、死刑確定者は134人となった。
 死刑執行は民主党政権下で減少し、11年は19年ぶりにゼロだった。しかし、昨年3月に1年8か月ぶりに再開され、昨年は7人を執行。谷垣法相も就任約2か月で執行に踏み切った。
 死刑が執行されたのは、小林死刑囚のほか、08年3月に茨城県土浦市のJR常磐線荒川沖駅などで2人を殺害、7人に重軽傷を負わせた金川(かながわ)真大(まさひろ)死刑囚(29)、02年3月に名古屋市のスナックで経営者の女性(当時61歳)を殺害し、現金を奪った加納(旧姓・武藤)恵喜(けいき)死刑囚(62)。
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〈来栖の独白 2013 2/21 Thu.
 驚いて、憤っている。3月末(今年度末)の執行も止むを得ないか、と谷垣法相の就任以来の表情から予想はしていた。が、就任2カ月に満たない時点での死刑執行である。早い。迷いの一つもない、法相自らの強固な意志を感じさせる。内閣の支持率は高い。支持浮揚の企図ではない。
 ところで「執行」に至る手順であるが、大臣の裁可を受けた「死刑執行命令書」は、刑事局付の検事の手で直接拘置所所長の手許に運ばれる。執行は命令書の日付から5日以内というのが法の制約である。今回の執行は本日21日(木曜日)、法務大臣の裁可は18日(月曜日)だったか。
 「死刑執行企案書」は膨大なチェック作業ののち作成、完成され、その後、法務省刑事局・矯正局(※)・保護局(※)各内部でのチェックを経てのち、刑事局長の手によって法務大臣官房にまわされる。法務大臣官房では秘書課長、官房長、法務事務次官のルートで「企案書」は上げられる。そして、それぞれの決裁を受けると秘書課長が大臣室へ持参、ここで初めて法務大臣の机の上に置かれることになる。ここまでの期間がほぼ半年。「死刑執行は判決確定の日から6カ月以内」という法制度をにらんでの作業ということで、この推移を考えるとき、谷垣法相の今回の執行命令が如何に慌ただしかったか、その異常さに驚かざるを得ない。
 今回の執行は、恐らくは事務方からの要請というよりも、大臣のほうからの意向、指示によるものではないだろうか。事務方としては恐らく通常通り、早くとも大臣就任3ヵ月を経たあたりで大臣のデスクへ上げるべく企案書を整える心づもりではなかったか、と私は思う。安倍内閣の組閣は昨年12月26日であった。2月18日の死刑執行命令であるなら、如何にも慌ただしい。大臣就任から2カ月に満たない時点でのサインである。これほどに急ぎ、執行した。
(※)矯正局は拘置所からの報告を逐一受け、確定者一人ひとりの健康状態・精神状態を、また保護局は恩赦事務を掌握している部署である。
  (2013-02-21 13:39:33 up
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【3人死刑執行】死を望んだ死刑囚 残された教訓 遺族「刑に向き合ったと信じたい」
産経ニュース2013.2.21 22:56
 誘拐殺人、無差別殺傷。社会を震撼させた事件を起こした小林薫死刑囚と金川真大死刑囚はともに死刑を望んでいた。ただ、小林死刑囚が自らの死に直面して揺れる心情を見せる一方、金川死刑囚の「死刑願望」は一貫していた。節目の日に遺族は何を思ったのか。
■「少しは無念を…」
 小林死刑囚の死刑執行を受け、最愛の長女、楓ちゃん=当時(7)=を失った父、有山茂樹さんは奈良県警を通じてコメントを寄せた。
 「小林死刑囚の死刑が執行されました。これで楓が戻ってくるわけではありませんが、少しは無念を晴らしてあげられたかもしれません。小林死刑囚が自ら犯した罪を真摯に受け止め、刑に向き合ってくれたと信じたいです。小林死刑囚の命も一つの命であり、今後私達は楓の命、加害者の命の重さを背負っていかなければなりません。二度と尊い命が失われることがない社会になることを心から願います」
■恐怖心に心揺れ
 「主文を後回しにします」。平成18年9月、奈良地裁で判決文が読み上げられているとき、小林死刑囚は右手の拳を小さく数回振り、ガッツポーズのようなしぐさをみせた。
 公判中に死刑を望む手紙を裁判長に出し、同年10月ごろには、遺族宛てに「人として最低な行為で大切なお嬢さんの命を奪ってしまいました。刑の執行をもって罪を償うしかない」などと謝罪の言葉をつづった手紙を、1審を担当した弁護士に託した。
 弁護士宛ての手紙が同封され、「『最後のお願い』として遺族に届けてほしい」とつづられていたが、遺族側は受け取りを拒否した。
 だがその後、小林死刑囚の心は揺れた。奈良地裁の死刑判決後に弁護側の控訴を取り下げ、死刑が確定したものの、20年12月には本人が再審を請求した。
 昨年9~11月に福島瑞穂参院議員(社民党党首)がアンケートを実施した際にはそれに応じ、死刑制度について「日本の刑法は(中略)『目には目を』の復讐法ではない」と反対の考えを示した。死刑の代わりに仮釈放のない終身刑を導入するとの意見には「よい考え方であると思う」と記し、2日前に告知した上で、薬物投与で刑が執行されることを希望すると表明、絞首刑に対する恐怖心をのぞかせていた。
 小林死刑囚に18年に2度面会した臨床心理士の長谷川博一氏は「面会当時、彼が葛藤していたことを思い出した」と話した。
■「また殺人をする」
 「もういいです。執行されたから、もういいじゃないですか」。金川死刑囚の犯行で犠牲となった山上高広さん=当時(27)=の父、明雄さんは茨城県阿見町の自宅でインターホン越しに答えると、口を閉ざした。郵便受けには高広さんの名前が記されたままだった。
 金川死刑囚も弁護側の控訴を取り下げて死刑が確定したが、小林死刑囚とは異なり、死刑に執着する姿勢は一貫していた。1審判決前の平成21年6月、水戸市の水戸拘置支所で産経新聞の取材に応じ、「死刑になりたい。生きるのがいやになった」と話した。「自殺はどんな方法であれ、自分の体に痛みを加える。そんな勇気がなかったので殺人をした」とも語った。
 遺族や被害者に謝罪はないのかと問うと、「痛かったであろうことは常識で考えたら分かるが、特に謝罪や思いはない」と語り、笑顔を見せた。さらに「『今解放されたら、また殺人をするか』と問われたら、答えは『します』しかない」と言い切った。接見室での取材に終始満面の笑みで応じた金川死刑囚。最後まで反省の姿勢を示さなかった。
 元弁護人の小沼典彦弁護士は「死刑を望んでの犯行で、彼が望んだものを与えてしまった」と述べ、「死刑制度を利用した犯罪。制度が犯罪抑止につながらなかった」と強調した。
 茨城の無差別殺傷
 平成20年3月、茨城県土浦市の民家玄関先で住人の男性が刺殺された。4日後、同市内のJR荒川沖駅で男女8人が刃物で刺され、1人が死亡する事件が発生した。直後に金川真大死刑囚が自ら通報し、逮捕された。水戸地裁は21年12月、求刑通り死刑を言い渡した。弁護側は即日控訴したが、金川死刑囚が控訴を取り下げ、死刑が確定した。
 奈良の小1誘拐殺人
 平成16年11月、奈良市の小学1年、有山楓ちゃん=当時(7)=が下校途中で行方不明になり、翌日に遺体で発見された。元新聞販売店員の小林薫死刑囚が逮捕され、奈良地裁は18年9月、死刑を言い渡した。弁護側は控訴したが、本人が取り下げ死刑が確定した。20年12月に本人が再審請求をしたが、最高裁は21年12月、特別抗告を棄却する決定をした。
 名古屋のスナック経営者強殺
 平成14年3月、名古屋市のスナックの女性店主がマイクのコードで絞殺された上、現金約8千円が奪われた。愛知県警は別の殺人事件で懲役15年が確定し服役、10年に出所していた加納(旧姓・武藤)恵喜死刑囚を逮捕。1審名古屋地裁判決は無期懲役としたが、2審は死刑を選択。19年3月、最高裁は2審判決を支持、上告を棄却した。
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奈良女児誘拐殺害事件
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小林薫死刑囚 奈良女児殺害事件 特別抗告棄却 2009-12-17 | 死刑/重刑/生命犯 問題
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◆ 女児殺害奈良地裁判決要旨事件5年で両親が取材に答える「極刑以上の刑を」
 死刑100年と裁判員制度〔年報・死刑廃止2009〕
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土浦8人殺傷事件  金川真大被告の判決公判 死刑言い渡し 2009-12-18 | 死刑/重刑/生命犯 問題 
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土浦9人殺傷事件判決文要旨  金川被告「完全勝利といったところ・・・」 2009-12-19 | 死刑/重刑/生命犯 問題
 金川被告、控訴取り下げへ…土浦連続殺傷
 茨城県土浦市内で昨年3月に9人が殺傷された事件で殺人罪などに問われ、水戸地裁で18日、死刑判決を受けた無職金川真大(かながわまさひろ)被告(26)(土浦市中村東)は同日午後、水戸拘置支所で本紙の接見取材に応じ、近く控訴を取り下げる意向を改めて語った。
 弁護人は、判決後に即日控訴している。
 金川被告は笑みを浮かべ、「完全勝利といったところでしょうか。(死刑願望が)変わることはない」と話した。判決は、金川被告を「浅はかな信念に強く執着」と指弾したが、「常識に縛られている側からみてそう見えても仕方ない」と述べ、「後は(死刑)執行までの時間をいかに短くするか。(国が執行に)動かなければ、裁判に訴える」とした。
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土浦8人殺傷事件 判決文要旨(産経ニュース2009.12.18)
【主文】被告人を死刑に処する。
【第1の犯行に至るまでの経緯】
 金川被告は公立の小、中学校を卒業後、私立高校に進学したが、高校時代に友人に対し「死にたい」「生きていてもしようがない」などともらすなど、人生に生き甲斐を感じないので自殺したいとの思いを強く抱くようになった。高校は卒業したものの、進学も就職もせず、自宅に引きこもりテレビゲームにふける生活を送るようになった。
 人から称賛される仕事をしたいと考えたが、自分にそのような能力がないことは自覚していた。テレビゲームの主人公が才能にあふれていることにあこがれてファンタジーの世界に魅力を感じたが、実際の自分には才能がないと感じており、実際にはファンタジーの世界が存在しないことも十分理解していた。
 金川被告は平成20年1月ごろ、つまらない毎日と決別するために具体的に自殺を考えたが、痛い思いをするだけで確実に死ぬことができるかどうか分からないなどとして自殺をあきらめた。それほど苦しまずに確実に死ぬ手段として死刑になろうと考え、そのためにできるだけ多くの人を殺害することにした。
 金川被告は20年1月上旬ごろから、約2カ月かけて犯罪計画を練った。態度が気に入らなかった同居の妹、自分が通っていた小、中学校や高校の生徒と教師、ネットオークションでトラブルとなった相手を殺害対象として想定し、これらの者を殺害した後は、資金がある限り各地を転々として、行く先々で人を殺すというものであった。
 この計画に沿って、凶器とする文化包丁、サバイバルナイフを購入して、その切れ味を確かめたり、逃走や潜伏生活のために変装用のスーツなどを買いそろえたりし、逃走や潜伏の資金として預金残高のほぼ全額である40万円を引き出して、犯行の準備を整え、同年3月18日に犯行を決行することにした。
 ところが、金川被告が同日の朝起床すると、同居の妹はすでに外出していたので、犯行の結構を1日延期したが、翌19日の朝も妹はすでに外出していた。そこで、凶器の包丁や変装用具を入れたリュックサックを背負い、サバイバルナイフも持って母校の小学校に向かった。しかし、小学校に着いてみると、その日は終業式で校門付近には数人の大人がいたことから、小学校で犯行に及ぶとすぐに捕まってしまうと考え、学校での殺害計画を変更することにした。
 金川被告は、せっかく計画を実行し始めたので何とかしてその日のうちに人を殺したい、もともと殺す相手は誰でも良かったのだから簡単に捕まらないように気をつけながらとりあえず人を殺そうなどと考え、民家を訪れて自転車がパンクしたから空気入れを貸してほしいなどと言って民家を訪ねたが、留守だったためその近所の三浦芳一さん方のインターホンを押した。
 応対した三浦さんに対し、「自転車のタイヤがパンクした。空気入れがあったら貸してくれませんか」とうそをついて空気入れを借り、自転車に空気を入れるふりをして返したが、同人がこれを物置に戻すために金川被告に背を向けたところ、第1の犯行に及んだ。
【第2の犯行に至るまでの経緯】
 金川被告は第1の犯行後、三浦さん方前の路上に自転車を残したまま逃走したが、着衣に返り血が付いたことに気づき、自宅に戻って着替えをした。そして、電車で秋葉原に向かい、理髪店で丸刈りにして髪形を変え、電気店のトイレでスーツに着替えた後、ホテルに偽名で宿泊した。
 同月21日までホテルに連泊し、ゲームをするなどして過ごしたが、同日夕方になると次の犯行を考え始め、土地勘のあるJR常磐線ひたち野うしく駅から荒川沖駅まで歩いて通行人を狙って殺害するという計画を立てた。そして同月22日、実際にひたち野うしく駅から荒川沖駅まで歩いたが、殺害できそうな通行人がいなかったため、計画を断念した。
 金川被告は、また秋葉原に戻って別のホテルに宿泊したが、申し込みの際、うっかり本名を書き始めてしまった。すでに指名手配されていたことから、通報されて逮捕されてしまうと1人しか殺していないので、死刑にならないと焦りを募らせた。そして、荒川沖駅であれば乗降客が多いので、一度に多数の人を殺害できると考えて、両手に文化包丁とサバイバルナイフを持ち、駅の通路を走りながら通行人の首を次々と刺し、近くの玩具店でさらに客らを殺害する計画を立てた。
 同月23日午前9時40分ごろ、サバイバルナイフと文化包丁を隠し持ってホテルを出て、電車に乗って荒川沖駅に向かった。そして、荒川沖駅に到着すると改札口を出て、自由通路の西側階段付近で、人目につかないように滑り止めのゴム手袋を両手にはめ、右手にサバイバルナイフ、左手に文化包丁を持ち、自由通路などを走りながら次々と通行人を襲い、第2の犯行に及んだ。
【量刑の理由】
 本件はわが国の犯罪史上でもまれな凶悪重大事案である。被害者らは、第1の犯行においては、自転車のタイヤがパンクしたといって訪ねてきた金川被告を応対しただけであるし、第2の犯行においては、たまたまJR荒川沖駅付近の通路にいたにすぎない。日常生活を送っている中で、突如としてその生命を奪われ、あるいは生命を奪われる危険にさらされたのである。まことに理不尽であり、社会に大きな衝撃を与えたのは当然である。このような無差別連続殺人は、殺人事件の中でも最も重く処罰されるべき1類型といわなければならない。
 金川被告は、本件各犯行の約2カ月前から無差別に大勢の人を殺すことを計画し、凶器を購入するなどして準備している。本件各犯行は計画的なものである。
 第1事件で殺害された三浦芳一さんは、退職後、平穏な生活を送っており、その優しい人柄は被告人に空気入れを貸そうとしたことにも表れている。その優しさを踏みにじられ、必死に助けを求めながら絶命したのであって、その際の恐怖、苦痛はいかばかりであったかと察せられる。
 第2事件で殺害された山上高広さんは、仕事に打ち込んで充実した毎日を送っていた。そのまじめな仕事ぶりは高く評価されており、多くの友人に慕われる性格であった。それにもかかわらず、27歳の若さで突然その生命・生来を奪われた無念さは計り知れない。
 遺族がそろって被告人の極刑を望むなど、その処罰感情が峻烈を極めているのは当然である。
 第2事件で負傷した被害者らは、いずれも頸部という体の枢要部を狙われ、深い傷を負ったのであって、その肉体的苦痛や、突然襲われた恐怖感には大きなものがある。被害者らが被告人の厳重処罰を求めているのは当然である。自らの死刑願望を達成するため他人の生命を奪うというその発想は身勝手極まりないものである。
 金川被告の刑事責任は誠に重大であって、罪刑の均衡、同種事犯の抑止の観点からすると、死刑の選択はやむを得ないものといわざるを得ない。金川被告の生育歴、家庭環境および本件犯行に至るまでの経緯をみても、同情に値するようなものは見いだせない。
 本件各犯行は、単純に死刑になりたいがために行ったものであって、その点に大きな特殊性がある。そして、遺族感情、被害者感情は非常に厳しいものの、金川被告の希望どおりの判決となることに複雑な心情もあるようである。しかしながら、死刑になるために他人の生命を奪うという動機は身勝手極まりなく、強い非難に値するのである。本件の動機は刑を加重する要因であって、刑を軽減する事情となりうるものではない。
 弁護人は、金川被告は若年で犯罪歴もなく、犯罪傾向・反社会的傾向は顕著ではない上、死刑願望の背後にある思想は根深いものではなく、死刑願望が消滅する可能性があるなどと主張している。しかし、被害者に対する謝罪の言葉はないばかりか、拘留中に問題行動を起こしたり、法廷で机を倒して制裁裁判を受けたりするなど、反省の態度は全くない。父親が本を差し入れているが、そもそも文字面しか読めない金川被告に、読書により内省を促しても効果はないように感じられる。
 金川被告の父親が一部の被害者に対して総額1千万円を支払っていること、金川被告に犯罪歴がないことなどの事情もあるが、いずれも死刑を回避すべき事情となるものではない。刑事責任は誠に重大であり、死刑を回避すべき事情も見いだせないのであるから、罪刑の均衡、同種事犯の抑止の観点から死刑を選択することはやむを得ないものといわなければならない。
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土浦8人殺傷事件 被告人質問1 (第3回公判)
土浦8人殺傷事件 被告人質問2 (第3回公判)
土浦8人殺傷事件 被告人質問3 (第3回公判)
土浦8人殺傷事件公判 金川被告の父親に対する証人尋問 1
土浦8人殺傷事件公判 金川被告の父親に対する証人尋問 2
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秋葉原殺傷事件 地裁 判決文要旨/ 土浦8人殺傷事件(金川真大死刑囚) / 安田好弘著『死刑弁護人』 2011-03-25 | 秋葉原無差別殺傷事件
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