「風立ちぬ、いざ生きめやも」 ポール・バレリー (堀辰雄 訳)

2020-09-10 | 文化 思索

「風立ちぬ、いざ生きめやも」 ポール・バレリー (堀辰雄 訳)

今週のことば
 中日新聞 2020.09.08 火曜日 朝刊
 尾畑文正

 私の姉は61年前の伊勢湾台風で洪水から避難する途中に溺れ、二日後に心不全で17歳の命を終えた。姉は幼少の時から難病で学校に通えずベッドでの生活を余儀なくされていた。
 ある時、姉は私に手鏡を求めた。その手鏡で家族の食事を見ている。私は姉の本意もわからず逆上して姉から手鏡を取り上げた。
 時が経ち、仏教に学び、私はやっと姉の心を知った。手鏡を通して家族と共に、さらにはあらゆる人々と共に生きる世界を求めていたのだ。
 今、コロナ禍で人との距離をとっている。それがそのまま他者との関係を断つことになってはいないか。感染者を差別する言動が頻発している。あらためて、姉が求めた世界を思い起こす。
 それは病む身を排除することなく共に生きる世界である。その願いの世界から、悲しいまでに自己中心的な私が「風立ちぬ、いざ生きめやも」と、背中を押されている。(同朋大 名誉教授)

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)

譬えば高原の陸地には蓮華を生ぜず 卑湿の淤泥(おでい)に此の華(はな)を 2020.7.14


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