提供精子で生まれた女性苦悩 出自知る権利認めて 法制化先送り 2020/11/21 中日新聞

2020-11-22 | 社会

卵子・精子提供で議員立法提出 「出自知る権利」認めず 
2020年11月16日 中日新聞
 自民、立憲民主、公明など6党は16日、第三者が提供した卵子や精子を使った生殖補助医療で生まれた子どもの親子関係を明確にするための民法の特例法案を議員立法で参院に共同提出した。卵子提供では産んだ女性を母とし、精子提供では提供者でなく夫を父とするのが柱。今国会での成立を目指す。 
 しかし、生まれた子が提供者の情報を得る「出自を知る権利」が認められていないことに、精子提供で生まれた子の団体や日弁連が反発しており、曲折も予想される。 
 現行の民法は、第三者が絡む生殖補助医療による出産を想定していない。子どもの法的な身分の保障がなく、法整備の必要性が指摘されてきた。

 ◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です
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提供精子で生まれた女性苦悩 出自知る権利認めて 法制化先送り 
 中日新聞 2020年11月21日

 「自分は誰から生まれたのか、知りたい」という願いを抱える人たちがいる。第三者の精子を使った非配偶者間人工授精(AID)で生まれた子どもたちだ。生殖補助医療に関する民法の特例法案が二十日、参院本会議で可決されたが、AIDで生まれた子どもが精子提供者の情報を得る「出自を知る権利」は、「二年をめどに検討する」と先送りに。当事者は論議を複雑な思いで見つめている。 (今村節)

 愛知県内の三十代教員女性は、病院の問診票に「親族の遺伝性疾患について」という質問があると、ペンを持つ手が止まってしまう。「どこに丸をつけたらいいのか、分からないから」 
 女性はAIDで生まれ、遺伝上の「父」を知らない。母から出生について打ち明けられたのは、二十九歳の大みそか。二人でテレビを見ている時、「実は言わなかったんだけど」と切り出された。亡くなった父との間では妊娠できなかったこと。父の提案で、県内の医院で人工授精したこと。女性は「そうなんだ」と返すのが精いっぱいだった。 
 「一番つらかったのは、今までの信頼関係が全部崩れたこと」。亡くなった父と母との子どもであることを、疑ったことはなかった。「身近な人たちに、ずっとウソをつかれていた」。衝撃と自分の根っこが崩れるような感覚に襲われた。
 精神的な不調が続き、心療内科に通った。「ドナーの情報を知りたい」と、母が人工授精を受けた医院に情報提供を手紙で求めたが「資料は残っていません」との返事が返ってきた。施術した院長は既に死去。「もっと早く事実を知っていたら」との思いが募った。
 32歳で結婚する時、夫に打ち明けた。夫は驚いたが「それも含めて君だから」と受け入れてくれた。初めての妊娠では、おなかの赤ちゃんが胎児発育不全と判明し「AIDの影響か」とおびえた。幸い、子ども二人は健康に育っているが、「この子たちのルーツは4分の1がわからない。もし遺伝的な病気や障害のリスクがあっても、医師に伝えることはできない」。
 子どもたちには、いつか打ち明けようと思っている。他に遺伝上の血縁者がいる可能性も含め、知っておくべきだと思うからだ。「子には出自を知る権利があり、親が勝手に奪っていいとは思えない」
 今回の法案で、出自を知る権利が規定されなかったことには不満を抱く。「これから生まれてくる子どもたちにルーツが分からない苦悩を背負わせたくない」
 女性は中部地方の仲間を探している。「同じ境遇で身近な人とつながり、思いを分かち合いたい」。連絡先は「非配偶者間人工授精で生まれた人の自助グループ(DOG)」事務局=DOGoffice@hotmail.co.jp

認知、プライバシー…複雑  

 「出自を知る権利」を巡っては、子どもの権利の保護以外にも、精子提供者の権利をどう守るかなど複雑な問題をはらみ、関係者は議論を早期に本格化するよう求めている。
 厚生労働省審議会は2003年の報告書で出自を知る権利を認め、当事者が懸念する近親婚を防ぐ手だてを盛り込んだ。だが法制化されず、今回の法案で結論は先送りに。DOGの発起人、石塚幸子さん(41)=東京都=は、法案を「当事者の声が反映されていない。(03年の報告書より)後退した印象だ」と批判する。
 一方、日本産婦人科学会は、1997年に発表した「精子提供者は匿名とする」との見解を変えていない。木村正理事長は「今も精子提供者と子、親の関係は法的に整理されておらず、提供者が急に認知を求められる懸念は拭い去れていない。現段階では、見解を変えるのにはためらいがある」と話す。
 生殖医療の問題に詳しい白鷗大の水野紀子教授(民法・家族法)は「出自を知る権利は、精子提供者のプライバシー権と対立する難しい問題」と指摘。将来的に知る権利が認められた場合、過去の精子提供者にさかのぼって適用されるかは「法律は原則として施行後に限り効力が及ぶ。今回も同様に考えるべきだろう」とみる。その上で「卵子や精子の売買や代理懐胎などを禁止する法律もない。本来はこうした法規制が先行するべきだ」と語る。

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)


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