外交/儀礼的な会話の踏襲では、外国の首脳に日本がまともに相手にされることはないだろう

2011-08-30 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

外交は人間関係から
2011/08/30Tue.中日新聞夕刊【清水美和のアジア観望】
 「中国と日本を比較すれば中国は伝統的に普遍的な視野を持っているが、日本は部族的な視野しかない」(キッシンジャー大統領補佐官)
 「彼らはものの見方が偏狭で、まったく奇妙だ。島国国民だ」(周恩来首相)
 今年は米国が日本の頭越しに、ニクソン大統領の訪中を決めたキッシンジャー秘密訪中から40周年になる。周首相との間では冒頭のような本音のやりとりが行われた。
 ■安保で日本を束縛
 周首相は日米安保体制が台湾統一を妨げるという疑いを捨てない。キッシンジャー補佐官は「米国との関係は実は日本への束縛」「日本が大規模な再軍備を図れば伝統的な米中の友好関係がものをいう」とまで言い切り、中国が警戒心を緩めるよう努めた。
 両者はきわどい会話をしても外部に漏れる恐れはなく、相手が現実的な判断をするはずだという信頼関係を築いていたのがわかる。何かと角突き合わせる米中両国だが、トップレベルの人間関係を築き決定的対立を避けるという外交の知恵は今も生きている。
 米国のバイデン副大統領は今月、日本(3日間)、モンゴル(1日)訪問に先立ち、6日間も中国に滞在した。
 ■次期指導者が接待
 四川省視察も含む行程には、来秋の共産党18回大会で総書記に就任する習近平国家副主席が同行し接待した。
 プライベートの夕食会など両者が顔を合わせる会談、視察は6回以上に上った。バイデン訪中の目的が個別問題の交渉より次期最高指導者の習氏の人物を見極め関係を築くことだったのをうかがわせる。
 副大統領は習副主席について「強硬だが実務的だ」と述べ、現実的判断ができる政治家として高く評価した。
 外国要人と人間関係を築き、外交に生かした政治家は日本にいるか。政治家ではないが、小泉、安倍政権時代に外務次官だった谷内正太郎氏が、中国の胡錦濤国家主席の側近である戴秉国外務次官(当時)と信頼関係を築き、靖国神社参拝問題で5年も途絶えた日中の首脳相互訪問を再開したことが記憶に残る。
 谷内氏は来日した戴氏を新潟県の温泉に招き、深夜まで本音の会話を交わした。戴氏は故郷の貴州省に谷内氏を招待した。こうした努力が2006年10月の安倍信三首相の訪中実現につながった。
 後を継いだ福田康夫首相との間で、胡主席は個人的信頼関係を築き、東シナ海ガス田の共同開発など懸案の進展を図ったが福田政権は短命に終わる。いずれも1年で交代した麻生、鳩山政権を引き継いだ菅直人首相は外国首脳と儀礼的な会話をしたことしかなく、今回のバイデン副大統領との会談もそれを踏襲した。
 ■信頼関係を築く力
 これでは信頼関係をきずくには程遠く、外国の首脳に日本のトップが、まともに相手にされることはないだろう。冒頭のやりとりに見られるように、外交の世界は表向きの美しい言葉とは裏腹に猜疑心と悪意に満ちている。それを乗り越えるのは相手の本心を見通す洞察と、本音を引き出す外交の力、つまり人間関係を築く力だ。(東京論説主幹)  *強調(太字・着色)は来栖
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バイデン副大統領訪中で米国が見せた中国に対する配慮/日米中のトライアングル、米中2国間の関係に2011-08-30 | 国際/中国
 副大統領訪中で米国が見せた「上げ潮」中国に対する配慮
柯 隆
 JBpress2011.08.30(火)
 今まで米中関係は、ある決まった方程式に沿って展開されていた。アメリカ大統領が就任した直後は、中国の人権侵害の状況を批判し、厳しい姿勢で人権外交を展開する。自由と人権を尊重するアメリカの基本的価値観が中国の現状と相いれないのは言うまでもない。中国を「指導」し「矯正」しなければ正常な米中関係は築けないという態度である。
 しかし毎回のことだが、大統領就任から3年目に入ると、中国の人権問題に対する批判はトーンダウンし、両者の関係が改善する。
 米中関係のこうした基本的な図式が、オバマ政権になってから根本から変わった。依然としてアメリカ政府は中国の人権侵害の状況について不満を表明するが、執拗に批判することを避けている。
 その背景に、アメリカの国力低下と中国の台頭がある。西太平洋地域において、アメリカはかつてほどの兵力を投入する財力はもはやなく、地域の安定と平和を維持するために中国に協力を要請するしかない。
*バイデン訪中で中国に米国債の追加保有を要請
 こうした大きな流れの中で、アメリカのバイデン副大統領が8月17日から22日にかけて中国を訪問した。
 バイデン副大統領はまず北京を訪れ、胡錦濤、温家宝、習近平らと個別に会談した。今回の訪中の意味について、マスコミや国際関係の評論家の間で様々な指摘が見られる。まず、副大統領が訪中しても、ほとんど現実的な意味がないという指摘がある。一方で、中国の次期国家主席の本命と目されている習近平と会談したことで、アメリカはポスト胡錦濤の中国と確かな関係を築くことができたとも言われている。
 バイデン訪中には具体的にどのような意味があったのだろうか。
 今のアメリカを取り巻く国内外の情勢を考察すると、まず、国内では国債の信用格付けが引き下げられ、アメリカ経済が窮地に追い込まれている。
 アメリカにとり、中国は米国債を最もたくさん保有している国である。信用危機に陥っているアメリカ経済は、中国の助けを必要としている。したがって、今回バイデンの訪中の目的の1つは、中国に米国債の追加保有を要請することであった。
 中国は3兆2000億ドルの外貨準備を保有し、それを運用しなければいけない。信用格付けが引き下げられているアメリカ国債の追加保有は、経済合理性が説明されない。したがって、ここで中国がアメリカの国債を追加保有するとすれば、それは経済合理性に基づくものではなく、政治面と外交面の合理性によるところが大きいと思われる。
*台湾問題、領海問題、人権問題でも中国に配慮
 また、今までアメリカは、中国と台湾の軍事バランスが一方的に偏ることを憂慮し、台湾への武器輸出を続けてきた。しかし今回アメリカは、バイデン副大統領の訪中の前に、台湾への武器輸出を控えると発表し、中国に配慮する姿勢を見せた。
 南シナ海では、領土・領海問題を巡って、中国とフィリピン、インドネシア、ベトナムとの対立が表面化し、緊張が高まっている。アメリカは積極的に関与する姿勢を示しているが、今回、バイデン副大統領は中国首脳との会談で、南シナ海の問題について大きく取り上げなかった。ある意味では、積極的に関与しようというこれまでの姿勢を後退させた。
 さらに、アメリカの対中外交の柱とも言える、中国の人権問題に対する指摘も最小限に止められた。アメリカの人権外交が影を潜めたのも、アメリカとして中国に配慮せざるを得ない事情があったからである。それは、アメリカが信用危機を克服するために、中国の支援が不可欠だということだ。
 米中間でどのような「密約」がなされたかは定かではないが、中国から得ようとする経済協力の重要性から、一時的に中国に配慮、または譲歩した格好となった。
*引き潮の欧米諸国と上げ潮の中国
 世界地図を眺めれば、間違いなく欧米諸国は引き潮の状態にある。
 アメリカ経済力の低下は単なる財政と金融面の混乱によるものではない。アメリカの実体経済は、力が失われたのである。
 アメリカ経済の中心は鉄鋼産業のピッツバーグから自動車産業のデトロイトにシフトしたが、サブプライムローン問題の浮上と同じタイミングで、アメリカの3大自動車メーカーのいずれも破綻、または破綻寸前にまで陥った。現在、ゼネラル・モーターズ(GM)は復活したように見えるが、それはGM上海の業績が好調だからであり、GM本体が復活したわけではない。
 一方、ユーロ圏の経済はさらに深刻かもしれない。2011年に入ってから、サルコジ仏大統領はすでに2回も中国を訪問している。自由と人権をモットーとするフランス人が中国の人権侵害の状況を受け入れるわけがない。しかし、ヨーロッパ経済が目下の危機的な状況を乗り切るには、中国の支援はもはや不可欠である。
 世界地図を見わたして、唯一上げ潮に乗っている国は中国である。中国経済は種々の構造問題を抱えているが、成長が続いているのは事実である。財政と金融の両面において、他の国と違って、動員できる財源は巨額に上る。ただし、もちろん中国はまだ世界経済のアンカーにはなれない。
 ここで、突出して台頭してくる中国経済によって世界の秩序と均衡がどのように変わっているかを考えなければならない。
 1つは、世界銀行や国際通貨基金(IMF)などの国際機関において、中国の発言権はその経済力の増大に伴い急速に強化されている。これまで先進国によって決められていたグローバルのルールは、中国をはじめとする新興国の声がより強く反映されるようになるだろう。
 もう1つは、新興国の台頭によって、資源不足の問題が現実的に浮上してくることである。先進国と新興国が協力して省エネと環境保全に取り組まなければならない。
 さらに、世界の平和と繁栄を守るために、先進国と新興国のそれぞれの役割と責任を明らかにしておく必要がある。だが、それに関する話し合いは明らかに不十分である。
*「日米中のトライアングル」は今
 中国の台頭とともに、日本の存在が急速に薄れているのは気がかりである。かつて日米中は1つのトライアングルを形成し、ほどよく緊張感が保たれていた。しかし、近年、日本国内政治の弱体化と経済力の低下により、国際社会における日本の存在はすっかり薄れている。
 振り返ればここ数年、日本の外交方針はまさに右往左往してきた。鳩山政権下で東アジア共同体の構築が提唱されたが、鳩山政権はわずか1年で退陣し、共同体の構想も水の泡となった。菅政権になってからアメリカとの関係を修復しようとしたが、アメリカとの信頼関係は壊れてしまった。
 一方、中国との関係もままならない状態になった。小泉純一郎元総理の在任時に、靖国神社参拝問題を巡り、日中両国政府は激しく対立した。その後、日本の首相は1年ごとに交替し、結果的に相互信頼関係の構築を行えなかった。2010年には中国の漁船が尖閣諸島海域に進入し、その船長と乗組員が逮捕された。それを巡って日中は再び激しく対立し、互いの国民感情も急速に悪化した。
 こうした事件を通じて明らかになったことがある。それは日中両国の間には、突発事故や事件を処理するメカニズムが用意されていないことである。
 例えば、尖閣諸島の領有権のような問題は短期的に解決する見込みはない。こういう問題をいかに棚上げして、前向きの関係を構築するかについて、両国の政治家の知恵が求められている。
 何よりも、毎年首相が交代する日本の不安定な政治によって、グローバルの場における日本の存在が薄れている。その結果、アメリカとの同盟関係がかつてほど強固なものではなくなり、中国との互恵関係も簡単に崩れてしまう状態にある。
 日米中のトライアングルが、今となっては米中を軸とする2国間の関係になっている。このまま、日本が外交舞台から消え去るとは考えられないが、日本の外交戦略を立て直すためにも、まずは国内政治の安定が欠かせない。まもなく新しい総理大臣が選出される。新しく選ばれる総理大臣は1年で終わらないように期待したい。 *強調(太字・着色)は来栖
<筆者プロフィール>
柯 隆 Ka Ryu
・富士通総研 経済研究所主席研究員。中国南京市生まれ。1986年南京金陵科技大学卒業。92年愛知大学法経学部卒業、94年名古屋大学大学院経済学研究科修士課程修了。長銀総合研究所を経て富士通総研経済研究所の主任研究員に。主な著書に『中国の不良債権問題』など。
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北方領土、ロシア側の呼び方「南千島」に / ロシア軍、北方領土にミサイルまで配備するか2011-03-02 | 政治〈国防/安全保障/領土〉 
北方領土が「南千島」に
2011/03/01Tue.中日新聞夕刊【清水美和のアジア観望】
 中国メディアに北方領土を「南千島群島(日本名・北方四島)」と呼ぶ報道が目立ってきた。外務省ホームページや人民日報など党機関紙は「北方四島(ロシア名・南千島群島)」と表記している。
「南千島」はロシア側の呼び方「南クリール諸島」の中国語訳。メディアでは北方領土問題でロシア寄りになる傾向がはっきりしてきた。
■「日本の正義の闘い」
 「北方領土返還を求める日本人民の正義の闘いを支持する!」。1970年代に中国を訪れると、中国のホストは必ず、こう繰り返した。
 中国と旧ソ連は社会主義の路線対立から60年代末には国境で武力紛争を起こすまで関係が悪化した。「第三次世界大戦を起こすのはソ連」と決め付けた中国はソ連の北方領土占領を「拡張主義」の表れとして日本を応援した。
 80年代に中ソ関係が正常化に向かうと、中国は北方領土について「日本とソ連(ロシア)の間で歴史的に残された問題で両国が解決すべきだ」(外務省)と語るようになった。しかし、中国で出版されている地図は今でも北方四島に日本と同じ色を付け日本領として扱っている。
■核心的利益を支持
 こうした態度が微妙に変化したのは昨年9月末、ロシアのメドベージェフ大統領が訪中し胡錦濤国家主席とともに発表した共同声明で「主権と統一、領土不可分など核心的利益に関わる問題での相互支持」を申し合わせてから。
 同時に発表した第二次世界大戦終結65周年の中ロ共同声明では「歴史の改ざんを許さない」と述べ歴史認識の一致を宣言した。これらが第二次大戦の結果として北方領土の占領を正当化するロシアへの中国の同調を意味するかどうかははっきりしない。
 しかし、共同声明が尖閣衝突事件で日中が対立する中で発表され、直後にメドベージェフ大統領が北方領土訪問計画を明らかにしたため、中ロが尖閣諸島と北方領土の領有を相互に支持することで合意したとの観測が浮上した。
 その後、ロシアは北方領土への中国企業進出を呼びかけた。人民日報系の国際情報紙「環球時報」(2月16日付)には「大胆に南千島群島の開発に参加すべきだ」と応える国際関係研究機関トップの寄稿が掲載された。
 しかし、その2日後には同じ新聞に「中国企業が北方四島の開発に参加すべきかどうかは難しい。こうしたビジネスは日本を不必要に緊張させる」と否定的な外交研究者の意見も掲載されている。
 実際には日ロ対立で、どちらにつくかをめぐる論争は中国で決着していないようだ。それがメディアに「北方四島」「南千島群島」の表記が混在する現状に表れている。
■機敏な外交が必要
 70年代のように、中国に日本への全面的な支持表明を期待できる状況ではない。しかし故周恩来首相が「北方領土をいまだ返還しない」ソ連を糾弾した歴史(党10回大会報告)を中国も否定しにくいはずだ。北方領土の表記がすべて「南千島」に変わるのを阻止する機敏な外交が問われている。


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