核密約調査 「核持ち込み」と「朝鮮半島有事」の際の対応

2009-10-28 | 政治

新聞案内人.2009年10月28日 島脩 元読売新聞編集局長
「密約」調査を前向きにとらえたい
 岡田外相の指示で、外務省がOBを加えた特命チームを編成し、「日米密約」の事実関係とその経緯の解明にあたっている。
 調査対象は、米国の外交機密文書公開や関係者の証言などで明らかになっている「核持ち込み」と「朝鮮半島有事」の際の対応をめぐる問題である。
 国の安全保障政策の背景にはその時々の時代状況があり、秘密を要することも当然あるが、外相は「この問題をいつまでもあいまいにしておくことは国民の不信を高め、結果として日本の外交を弱くする」と述べ、11月末までの報告書提出を求めている。
 これまで「密約」の存在を一貫して否定してきた外交当局にとっては、気の重い作業ではあるだろうが、あの「60年安保闘争」の“後遺症”を引きずり、冷戦時代に立ち向かう過程で「密約」は生じた。
 いまもそうだが、北東アジアの平和と安定に大きな影響を持つのは、朝鮮半島と台湾情勢の行方である。日米安保条約改定時も、沖縄返還交渉の際も、この地域の安全確保が日米首脳会談の重要議題となった。そして日本の役割分担をめぐって政府と国民意識のずれがしばしば表面化し、野党が安保体制批判を強めた。
○日本外交を密約の呪縛から解放する契機
 だからといって、国会でのウソの答弁が許されるはずもないが、政権交代を機に、非公開とした当時の判断理由や日米協議の模様などをすべて開示し、この問題に一区切りつけることは、日本外交を「密約の呪縛」から解放し、同時に安全保障政策に対する国民的関心を喚起するきっかけになりはしないか。そんな思いで私は、調査の行方を見守っている。
 1960年、日米安保条約改定で、事前協議制度が設けられた。それまで「占領軍」時代と同じように基地の自由使用が認められていた在日米軍は、部隊編成・装備の大規模な変更、日本からの直接戦闘作戦行動、核兵器の持ち込みについては、日本政府の同意を求めることになった。
 独立国として当然の条約改定であった。以後の国会における外交安保論義は、この“3点セット”の事前協議制度の運用を中心に争われる場面が多かった。この国会答弁を通じて歴代内閣は、事前協議に対する回答は「イエス」もあれば「ノー」もあるとしながらも、「核持ち込みにはノーと言う」と言明し、核兵器を搭載した艦船の一時寄港もそれに含まれると説明してきた。
 だが、米側は、寄港・通過は「持ち込み」に当たらないとしてその確認を求め、日本政府が了解したという公文書の存在が明らかになった。また最近、朝日新聞は、池田内閣の外相として、ライシャワー駐日大使とこの問題について話し合った大平元首相が、首相在任中に急死する直前、核兵器搭載艦の日本寄港の事実を公表し、「密約」を解消することを検討したが、官房長官ら側近の反対で果たせなかった、と報じた(10月22日)。
○沖縄「核抜き」返還の裏側で…
 1969年、佐藤首相とニクソン米大統領が沖縄の「核抜き・本土並み」返還で合意した。この交渉で佐藤首相の密使としてキッシンジャー米大統領補佐官の相手役を務めた若泉敬氏は、著書「他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス」で、両首脳が周辺地域で緊急事態発生の場合、沖縄に核再持ち込みの秘密合意議事録にサインするに至る交渉経過を生々しい筆致で描いている。その条件をのまなければ,「核抜き返還」は実現できなかった。
 若泉氏が亡くなった今は、確かめようもないが、佐藤首相は、この首脳会談直後にワシントンのナショナルプレスクラブで行った演説で、「万一、韓国に対して武力攻撃が発生し、これに対処するため米軍が日本国内の施設・区域を戦闘作戦行動の基地として使用しなければならないような事態が生じた場合には、日本政府として事前協議に対し、前向きかつ速やかに態度を決定する方針だ」と述べた。
 これは、朝鮮半島有事の際の米軍出動には、即座に「イエス」と回答するというメッセージである。この発言とあわせ考えると、沖縄への核再持ち込みの密約も十分ありうることと推察できよう。
 1989年末、冷戦が終結した。核ミサイル技術の進歩もあって、米政府は90年代初め、航空機や艦船に核兵器は搭載しない方針を決定した。
 寄港問題は事実上解決したが、朝鮮半島情勢は、アジア太平洋諸国にとって依然、大きな不安材料であり、警戒を怠るわけにいかない。
 「核なき世界」に動く国際社会にあって、9番目の核保有国をもくろむ隣国が存在する限り、非核3原則を国是としつつアメリカの“核の傘”の下で生存を図る政策は、決して矛盾するものでないと私は考えている。

http://www.k4.dion.ne.jp/~yuko-k/adagio/okinawa.htm


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