性同一性障害の夫の子 法相、現行の取り扱い見直す方針

2010-01-13 | 政治

性同一性障害の夫の子「嫡出子」認定へ 法相見直す方針
朝日新聞2010年1月12日17時44分
 性同一性障害で女性から男性に戸籍上の性別を変えた夫が、第三者の精子を使って妻との間に人工授精でもうけた子を法務省が「嫡出子」と認めなかった問題をめぐり、千葉景子法相は12日の閣議後会見で、「早急に改善に取り組みたい」と述べ、現行の取り扱いを見直す方針を表明した。「嫡出子」として認める方向で検討を進める。
 性同一性障害者が自ら望む性別を選べるようにした特例法が2004年に施行され、こうした事例が起きるようになった。法務省は全国で6件把握しているが、「生物学的な父子関係がないのは明らか」として、嫡出子と認めない見解を示してきた。
 しかし、千葉法相は「これ(性同一性障害のケース)だけダメというのは、差別というか無理がある」と述べ、「法の下の平等に反する」という見解を表明。6例についても経緯を改めて確認する意向を示した。ただ、見直しのあり方には、「運用でできるか、解釈で可能か、(民法改正など)法的措置が必要なのかも含めて検討しないといけない」と話した。
 この問題をめぐっては、兵庫県宍粟市の自営業者が戸籍を女から男に変更後、女性と結婚。実弟から精子の提供を受け、昨年11月、妻が体内受精で男児を出産した。市役所に嫡出子として出生届を出そうとしたが、市は性別変更を理由に受理を保留。法務省の判断を受け、「非嫡出子」に改めるよう通知していた。(延与光貞)
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性同一性障害―千葉法相の妥当な判断 朝日新聞 社説2010/1/14
 結婚している男女が、第三者の精子を使って人工授精で子をもうけたら一般的には嫡出子だが、性同一性障害のため性を変えた夫と妻の場合は非嫡出子とする。こうした法務省の認定に、兵庫県宍粟(しそう)市に住む夫と妻は納得がいかなかった。
 夫妻の強い思いを知った千葉景子法相は、現行の扱いを改善し、そうした子を夫妻の嫡出子として認める方向で検討することを表明した。
 法相の判断を高く評価したい。
 心と体の性が一致しない性同一性障害の人たちが、望む性別を社会的に選べるようにと2004年、性同一性障害特例法が施行された。
 夫は手術を受け、特例法に基づいて戸籍上も男性となった。妻と法律上の婚姻関係を結んだ。
 だが、第三者から精子提供を受けて妻が人工授精で産んだ子を、嫡出子として届けようとして待ったがかかった。夫がもとは女性なので、「遺伝的に父子関係がないのは明らか」として法務省が認めなかった。同様の例が特例法施行以来、5件あるという。
 法律上の婚姻関係にある男女を父母として生まれた子を嫡出子と呼ぶ。その例外とされたわけだ。
 第三者の精子を使い人工授精で子をもうける夫妻は年100件以上。無精子症など夫側が原因の不妊症の治療として日本では60年前から行われ、1万人以上の子が生まれたという。
 夫婦の間にできたこれらの子は通常、嫡出子として出生届が受け付けられている。
 特例法は、性を変更した後は新たな性別で民法の適用を受けるとしている。親子関係について差別を受けるのは不合理だ。法相もそう判断したのだろう。
 障壁を乗り越えて心と社会的性別を一致させ、結婚した夫と妻が子どもを持ちたいと思うのは自然だ。性同一性障害で戸籍上の性を変えた男女は1400人以上いる。
 同じ障害に悩む人はさらに多い。これからも宍粟市の事例のような夫婦は増えるだろう。
 千葉法相が示した見直しの実現には運用の変更、法改正などいくつか方策があろう。早急に詰め、他の5例についても調査し、救済してほしい。
 法務省が性同一性障害の夫を別扱いしようとしたのは、民法が子どもは生来の男女の自然生殖で生まれるものだという前提に立っているからだ。だが現実には、民法が制定された明治には想定されなかったような状況で生まれる子が増えている。
 医療の進歩によって、これまで子どもを持てなかったようなカップルが子どもを持てる時代になった。それによりそった法律の考え方がもっと論じられていい。

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性別変えた夫の子、妻出産でも婚外子扱い 法務省見解
朝日新聞2010年1月10日  
 心と体の性別が一致しない性同一性障害との診断を受け、女性から男性に戸籍上の性別を変更した夫が、第三者の精子を使って妻との間に人工授精でもうけた子を、法務省は「嫡出子(ちゃくしゅつし)とは認めない」との見解を示した。全国で6件の出産例を把握、非嫡出子(婚外子)として届けるよう指示した。だが、同じ人工授精でも夫が生来の男性の場合は嫡出子として受理しており、「法の下の平等に反する」との指摘が出ている。
 性同一性障害者が自ら望む性別を選べるよう、2004年に施行された特例法に基づき、兵庫県宍粟(しそう)市在住の自営業Aさん(27)が戸籍を「女」から「男」に変更したのは08年3月。翌月、妻(28)と結婚した。男性としての生殖能力はないため実弟から精子提供を受け、妻が体内受精で昨年11月に男児を出産した。
 市役所に「嫡出子」として出生届を出そうとしたところ、宍粟市はAさんの性別変更を理由に受理を保留。法務省の判断を受け、今月12日までに「非嫡出子」と書き改めて届け出るよう、昨年末にAさんに通知した。嫡出子は、法律上の婚姻関係にある夫婦から生まれた子。非嫡出子となれば、戸籍に父親の名は記載されない。
 嫡出子と認めない理由について、法務省は朝日新聞の取材に「特例法は生物学的な性まで変更するものではなく、生物学的な親子関係の形成まで想定していない」と文書で回答。出生届を出す窓口で、戸籍から元は女性だったとわかるため、「遺伝的な父子関係がないのは明らか」(民事1課)と説明している。
 他人の精子を使う非配偶者間人工授精(AID)は、性同一性障害者に限らず夫の生殖能力に問題がある場合の不妊治療として戦後広く行われてきた。1万人以上の子が生まれたとされ、遺伝的な父子関係がないにもかかわらず、一般的には嫡出子として受理されている。「窓口ではAIDの子かどうか、わからないため」(宍粟市)だ。
 法務省の見解は、同じ人工授精で生まれ、同様に遺伝的な父子関係がない子であっても、父親が生来の男性の場合と性別変更で男性になった場合とを分けて対応する立場を明らかにしたものだ。
 ただ、民法には夫が生物学的な男性であるべきだとの規定はない。特例法は性別変更後は新たな性別で民法の適用を受ける(4条)と規定している。Aさんは「男として結婚は認めたのに、父親としては認めないのはおかしい」と反発。市の求めには応じず、市が非嫡出子として手続きを進めた場合は、神戸家裁に不服申し立てをする。
■法整備、現実に追いつかず
 性同一性障害を抱える人が自ら望む性別で社会生活が送れるよう、制度化したのが特例法だった。昨年3月までに戸籍上の性別を変更した男女は1468人。性同一性障害者はこの何倍もいるとみられる。だが今回、法務省が示した見解は、法に基づいて性別変更した人をなお「別扱い」にするもので、今後各地で争われる可能性が高い。
 民法は「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」(772条)と規定。法的に結婚した夫婦の間に生まれた子を嫡出子と定義している。夫以外から精子の提供を受ける非配偶者間人工授精(AID)でも、夫の同意があれば嫡出子として扱われてきたのは、そのためだ。
 日本産科婦人科学会の倫理委員会は、特例法により女性から男性に性別変更した人と妻がAIDを受けることについて「ガイドラインに抵触しない」との見方を07年に示した。学会理事長の吉村泰典・慶応大医学部教授も「法律婚であることがAIDの要件。今回のような夫婦に実施するのを否定する理由はない」と明言。ことは法の受け皿の問題であるのは明らかだ。
 早稲田大学の棚村政行教授(家族法)は「民法は夫について生来の男性とは規定しておらず、特例法でも特にルールを設けていないのだから性同一性障害者を別扱いする理由はない」と指摘。
 一方、学習院大学の野村豊弘教授(民法)は「民法は夫婦間の自然生殖を前提としている。今回のケースは、生来の男性が夫である場合の人工授精と違って夫の子ではあり得ないということが客観的に明らかなので、民法772条の嫡出子とみる『推定』は働かず、法務省のように判断するしかない」と話す。
 だが、両氏とも「第三者の精子や卵子を使って生まれた子と親の関係を決める法整備が現実に追いついていないことが今回の問題を招いた一因だ」という点では一致している。まずは特例法で子の法的な位置づけを明確にするなど、法整備を急ぐべきだ。(上原賢子)


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