中日春秋 2023年3月22日
俳優の田中絹代さんが米国視察の旅を終え、帰国したのは戦後間もない一九五〇(昭和二十五)年一月のこと。到着した飛行機のタラップの上から出迎えの人々に投げキッスをしてみせたが、これがいけなかった。米国人のようなふるまいだと世の反感を買い、こう批判された。「アメション」▼若い人はご存じないか。米国を短期間、訪れただけで分かったような気になった人をちゃかす言葉で、大正時代からあったそうだ。品のない説明をお許しいただきたいが、ションは小用を足すほど短い滞在という意味だろう▼今回の電撃訪問が体裁とパフォーマンスの「ウク(ライナ)ション」などとからかわれぬようにしたい。岸田首相である▼インドにいると思いきや、極秘裏にウクライナの首都キーウに入った。戦地とあり、警備上の対応でひた隠しにしていたようだ▼首相としてはその地をどうしても踏みたかったのだろう。ウクライナ侵攻が五月のG7首脳会議(広島サミット)の最大のテーマとなる以上、その国を訪ねていないのは議長国の日本だけというのでは格好がつくまい▼今回の訪問を踏まえ、ロシアを非難する国際社会の声をより大きくまとめる役割を果たすことだ。ウクライナに対しては人道支援に加え、将来的な復興も見据えて積極的に動く。それができれば、今回の訪問も「なんとかション」とは呼ばれまい。
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です
ーーーーーーーーーー
〈来栖の独白 2023.3.22. Wed〉
インドどころか、ウクライナしか胸に無かったろう。