「巌、もう安心だよ」 袴田さん90歳姉、無実信じ半世紀
中日新聞 2023年3月21日
自宅でくつろぐ袴田巌さん(左)と姉ひで子さん=20日午前、浜松市で(袴田さん支援クラブ提供)
「巌、もう安心だよ」 袴田さん90歳姉、無実信じ半世紀
重かった再審の扉が、ようやく開いた。一九八〇年に死刑が確定した袴田巌さん(87)の第二次再審請求で、東京高検が二十日、最高裁への特別抗告を断念した。事件発生から五十七年。死刑執行の恐怖に心をむしばまれながらも、無実を訴え続けた袴田さんの執念が実った。弟を信じて支え続けた姉ひで子さん(90)は「この日を迎えられてうれしい」と喜び、次に控える再審公判を見すえた。
「四十八年間、拘束されていた巌の苦労に比べたら、私のことは苦労と思わない」
弟の無実を信じて闘ってきた姉ひで子さんは自宅前で報道陣の取材に応じ、「本当にうれしくて、どうしようもない。昨日までの疲れなんか吹っ飛んじゃった」と晴れやかな表情で語った。願い続けた「真の自由」に向け、大きな一歩を踏み出した。
ひで子さんは、午後四時すぎに支援者から特別抗告断念の知らせを受け、満面の笑みでガッツポーズ。ちょうどその時、袴田さんが日課のドライブから帰宅。「巌、あんたの言うとおりになったよ。もう安心だよ。何も心配なくなった」と伝えたという。
「当たり前だと思っていると思う。私は巌に話す時、ちょっと涙が出たのかな。何となくホロッとした」。普段冷静なひで子さんが、本音をのぞかせた。
事件発生当時、ひで子さんは33歳。袴田さんが東京拘置所にいた時は毎月、面会に通った。だが、精神的に不安定になった袴田さんは面会を拒否するように。ひで子さん自身も疲労し、3年余り酒浸りの生活を送ったこともあった。
2014年に静岡地裁が再審開始を決め、袴田さんが釈放されて以来、浜松の自宅で自宅で一緒に暮らしてきた。ひで子さんは「(再審開始の確定は)出てきた時とまた違った喜びがある。この日を迎えられたことが大変うれしい。よく頑張ったねって、褒めたい」と弟を思いやった。
次は、静岡地裁で再審公判が始まる。「まだ裁判が終わったわけじゃなく、これからが正念場。(無罪を訴え続けた)巌の言うとおりにね、進んでいってもらいたい」 (岸友里)
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用、及び書き写し(=来栖)