「対立軸のなくなった政党政治はどこに向かうのか」藤田正美/「政党政治が崩れる」金子勝 

2012-07-24 | 政治

藤田正美の時事日想:対立軸のなくなった政党政治はどこに向かうのか
[Business Media 誠]2012年07月23日 07時59分 UPDATE
 増税法案を通すためにマニフェストを捨て、自民党などの野党の主張を受け入れた野田首相。与党と野党との違いがなくなりつつあるが、次の選挙では何が対立軸となるのだろうか。
 「それにしても民主党がここまでひどいとは思わなかった」
 そんな感想を聞くことがこのところ多い。2009年のあの高揚はいったい何だったのか。鳩山内閣で「?」がつき、菅内閣で「??」となり、そして野田内閣では「???」となってしまった。
 今の野田首相は、いったい自民党とどこが違うのだろうか。民主党からぽろぽろ離党者が出るのは、単に小沢元代表が「割った」というだけではない。尖閣買収構想、集団的自衛権、右に急旋回しているさまは、自民党にすり寄って大連立を組もうとしているかのようにさえ見える。そうなると「民主党に留まる意味がない」と考える議員も少なくあるまい。場合によっては次の総選挙は、大阪維新の会から出ようかと思う人もいるだろう。
 そもそもの間違いは、社会保障の将来像を示せないままに増税だけを先行させたところにある。年金や医療、介護といった問題は、自民党時代に厄介のタネがまかれ、それが芽を出し、生い茂って今まさにどうしようもなくなりつつある。その意味では野田首相の言うように「待ったなし」には違いないのだが、まずは社会保障の一体改革を超党派で議論することが重要だったと思う。なぜなら、本来的には税金の問題は、政党の重要な存在理由の1つであり、政党としての違いを打ち出すべきところだからである。
 歴史を振り返ってみても、国王の重税に怒った市民による革命が市民革命だったし、米国の独立戦争も本国の英国の課税に反発したものだ。日本共産党が「大企業や富裕層から取るべきだ」と一貫して主張しているところに、政党が存在する意味が集約的に表れていると思う(この主張に現実味がないことはここでは触れない)。
 それなのに野田首相は、増税法案を通すために大仰な言い方をすれば民主党を売り渡してしまった(少なくともそう感じた民主党議員がいっぱいいた)。すなわち社会保障改革も、議員定数削減も、行政改革も先送りしたのである。民主党のマニフェストはどう弁明しようが総崩れに近い状態だ。
 もちろんマニフェストを何が何でも守るべきだとは多くの国民が思っていない。しかしなぜ増税が必要なのかを野田首相は国民に説明できただろうか。「社会保障を維持するために」と言っても、例えば自民党は財政に余裕ができるから「10年間で200兆円の公共投資」などとまた古くさいことを言っている。
 公共投資はすべていけないとは言えないにしても、従来と同じ考え方で公共投資をすれば無駄な道路や無駄な橋が増えるだけになる。もうそれは止めなければならない。1990年にバブルが弾けて以来、自民党政権は景気を浮揚しようと懸命に公共事業をやってきた。それを借金でまかなったことが今日の財政を生んでいるのである。
■何を基準にどの政党を選べばいいのか
 税金で野合し、社会保障改革を先送りしてしまった民自公はいったい次の総選挙で何を対立軸にするのだろうか。民主党の側は、いまさら社会保障分野で最低保障年金とか、高齢者医療制度の廃止を掲げてみても始まるまい。何しろ税金で最低保障年金を支払うというのは財政的にも無理があるし、思想的にもおかしな話だからである。高齢者医療制度の廃止にいたっては、それを廃止してどうするかというところで誰の賛同も得られそうにない話だ(民主党の支持母体である労働組合も、年寄りを引き受けるという話には首を縦に振ることはできまい)。
 ということは、有権者にとって何を基準にどの政党を選ぶべきかが分からないということになる。二大政党制がいいかどうかは別にして、民自公とそのほかの野党という選択肢は国民にとってあまりにも不幸だ。それはいわゆる55年体制にも似て、そのほかの野党の言うことにはあまりにも現実味がなく、民自公の疑似連立のやることには何の新しい発想もなく、既得権益者への懐柔ということになりかねないからだ(55年体制と違うところは、民自公の場合、既得権益者の中に労働組合が入ることだろうか)。
 こうなったらいっそのこと政治をガラガラポンしたらどうかとも思えるが、何を軸に誰が新しい政党を組織するのかということになると、さっぱり取っかかりが見えない。民主党のある幹部が「もう政治家を辞めようかと思う」と言っていたのを思い出す。
 欧州でもやはり政治が行き詰まって、経済問題についてイニシアティブを発揮できない状況が続いている。ドイツのメルケル首相は「前門の虎、後門の狼」状態。ギリシャは危うくポピュリズムに乗っ取られそうになった。ナショナリズムを旗印にする極右が勢力を伸ばしているのは、フランスだけではなく多くの国に見られる現象だ。
 景気の先行きに明るさが見えず、政治的な閉塞感が強まる時、政治は危険な方向に向かう。それも歴史の示すところだ。それを打ち破るリーダーが果たして現れるのかどうか、今年末から来年にかけての政治は、日本の将来を分ける重要な分岐点になると思う。
*著者プロフィール:藤田正美
「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年~2000年に同誌編集長、2001年~2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”
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政党政治が崩れる~問責国会が生む失望感===透けるポピュリズム
 論壇時評 金子勝(かねこ・まさる=慶応大教授、財政学)
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