「刑の一部執行猶予」 適用は薬物事件など限定的に
NHK NEWS WEB 2016/2月21日 19時33分
受刑者を早く社会に戻して更生を促す「刑の一部執行猶予」がことし6月までに始まります。全国の裁判所が議論した結果、適用の対象は、更生を促す仕組みがある薬物事件を中心とし、その他の事件については、再犯への懸念から、慎重な検討を求める意見が多数を占めたことが分かりました。
ことし6月までに始まる「刑の一部執行猶予」は、裁判所が実刑判決を言い渡す際、刑期の一部に執行猶予をつける制度で、社会に戻る時期を早めて更生を促すのがねらいです。
法律の規定では、罪名にかかわらず3年以下の懲役か禁錮の判決が対象になるため、全国の裁判所ではどのような事件に適用するか検討する必要があるとして、去年5月から議論してきました。
その結果、法務省が出所後の特別な指導プログラムを用意している薬物事件を中心とする一方、こうした仕組みがない窃盗や詐欺事件などについては、再犯の懸念が強いことから、より慎重に検討すべきだという意見が多数を占めたことが、関係者への取材で分かりました。
また、薬物と同様の指導プログラムがある性犯罪については「適用を検討してもよい」という意見も多くありましたが、「被害の大きさを考えるとふさわしくない」という指摘もあったということです。
裁判所は議論の経過を検察や弁護士会に伝える方針で、制度の運用は、規定よりも限定的になる見通しになりました。
*「刑の一部施行猶予」とは
「刑の一部執行猶予」は、3年以下の懲役や禁錮の刑が確定した受刑者が、刑期の一部を残して条件つきで社会に戻ることができる制度です。たとえば「懲役2年、そのうちの6か月の執行を3年間猶予する」という判決が言い渡された場合、まず1年6か月の間、服役します。そして、刑務所などから出たあと、執行猶予の3年の間、事件を起こさなければ、残りの6か月の刑期は効力がなくなります。
これまでは言い渡された刑について、全部の期間服役する「実刑」か、全部の期間を「執行猶予」として、社会の中で過ごすかのどちらかしかありませんでした。
実刑の場合に、一部の刑期を残して仮釈放されることもありますが、服役中に反省の態度などが評価されなければ認められないため、判決を言い渡すときに社会に戻る時期を決めておく今回の制度とは異なります。
新たな制度を導入する目的は、一部の受刑者を対象に、早く社会に戻して見守りの期間を長くすることで、再び罪を犯すのを防ぐというものです。
多くは執行猶予の期間中、保護観察を付けられるとみられ、常習性の高い薬物依存者の場合は、定期的に保護観察所で専用の指導プログラムや検査を受けるよう義務づけることができます。
刑事裁判の判決に、新たな種類が加わるのは戦後初めてのことで、ことし6月までに始まることになっている制度が、どのように運用されるのか注目されていました。
*専門家「立ち直る可能性の見極めが課題」
専門家は、「刑の一部執行猶予」を限定的に適用するのは妥当だとしたうえで、今後の裁判では、被告が立ち直る可能性をどう見極めるかが課題になると指摘しています。
刑法が専門の慶應義塾大学法科大学院の小池信太郎准教授は、「刑の一部執行猶予」の導入について、「社会の中で指導することで、再犯の減少が期待できるが、早く釈放した分、早く再犯をしてしまうリスクも伴う」として、限定的に適用するのは妥当だと評価しています。そのうえで、「裁判所は被告の態度だけでなく、住むところがあるか、面倒を見る家族がいるかなどを十分に調べ、社会の中での指導に向いているかどうかを慎重に見極めるべきだ」と指摘しています。
◎上記事は[NHK NEWS WEB]からの転載・引用です *強調(太字・着色)は来栖