「強制起訴制度」6年、放置されるこれだけの問題点…被告負担の補償なし、検証舞台も不明

2015-05-05 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

産経ニュース 2015.5.5 17:00更新
【日本の議論】「強制起訴」6年、放置されるこれだけの問題点…起訴のダブルスタンダード、被告負担の補償なし、検証舞台も不明
 くじで選ばれた国民からなる検察審査会(検審)による強制起訴制度が、平成21年5月の導入から6年を迎える。検察官が独占していた起訴権を国民にも開放する改革だったが、制度導入が成功だったか評価は定まっていない。制度導入後に強制起訴に至った8つの事件で有罪判決が下ったのは2件のみ。とりわけ多くの人が死傷した過失事件では無罪判決が相次ぎ、「いたずらに刑事被告人を作り出している」「制度見直しが必要」との声も上がる。制度を検証し、今後の在り方を探った。(小野田雄一)
*制度への評価分かれる
 検審は、有権者からくじで選ばれた国民11人が、検察官が不起訴とした事件について審査し、不起訴が妥当だったかどうかを判断する機関。昭和23年に設置された。しかし平成21年の改革までは、検審が「検察の不起訴は不当で、起訴すべきだ」と議決(起訴議決)をしても法的な強制力はなく、「有名無実化している」との批判があった。
 さらに改革前の司法は、裁判官・検察官・弁護士の専門家のみで運営されていた。しかし検察官の起訴・不起訴の判断や裁判官の判決が国民感覚から乖離(かいり)しているとの批判が強まっていた。そのため強制起訴制度は、裁判員制度とともに司法の国民参加の一環として導入。検審が2回「起訴すべきだ」と議決した事件では、容疑者は自動的に起訴され、裁判所から指定された弁護士が検察官役として立証を担うことになった。
 ただ、制度運用の現状評価が分かれている。
 平成13年7月、兵庫県明石市の花火大会中、歩道橋で見物客が折り重なって転倒し、11人が死亡、247人が重軽傷を負った事故では、県警明石署の元署長が制度導入後初めて強制起訴された。しかし1、2審とも免訴となった。
 17年に乗客106人が死亡した同県尼崎市のJR福知山線脱線事故でも、JR西日本の歴代3社長が強制起訴されたが、大阪高裁は今年3月、無罪判決を下している。
 この他にも、これまでに強制起訴が行われた8事件のうち有罪判決は2件のみ。多くは無罪や免訴となっている。
 検察官による起訴の有罪率が99%と極めて高い日本で、刑事被告人となることは被告にとって社会的・身体的な負担が大きいとされ、「無罪の可能性が高い人を被告にしている」などとの批判が起きている。
 また、強制起訴後に無罪が確定しても、検察審査会法上、金銭などの補償の規定はない。さらに強制起訴は在宅で行われるため、身柄拘束を前提とした刑事補償法の対象にもならない。強制起訴自体には違法性はないため、国家による不法行為を要件とする国家賠償請求の対象ともならないと解釈されている。このように強制起訴された被告を守る仕組みが不十分であるとの指摘もなされている。
 ただ、検審の議決に強制力を持たせたことで、「検察官がいっそう証拠を厳密に吟味し、慎重に起訴・不起訴を判断するようになった。実際にいったん検察官が不起訴にしても、検審の議決を受け、再捜査をして起訴する事件も多くあり、成果は表れている」(検察幹部)と一定の評価をする声もある。
*「少しでも有罪の可能性あれば」
 強制起訴事件で無罪が多いのはなぜなのか。
 強制起訴の問題点をテーマにした論文を執筆した神戸学院大法学部の春日勉教授(刑事訴訟法)はその理由について、「検察官は『有罪の高度の見込み』がある場合のみ起訴するが、検審は『少しでも有罪の可能性があれば起訴し裁判で白黒付けるべきだ』と考える傾向がある。検審の方が検察官よりも起訴のハードルが低くなっている以上、無罪が増えるのは自然といえる」と指摘した。
 春日教授はこの他にも、本来は個人責任を追及する場である刑事裁判で、真相解明や再発防止を期待して起訴議決がなされた事例がある▽容疑者の犯罪は明白だが、情状などを考慮して不起訴にする「起訴猶予」だけでなく、犯罪を立証する証拠が不十分などで検察官が有罪を取れないと判断した「嫌疑不十分」で不起訴にした事件でも、起訴議決は制度上、可能になっている▽近年の日本は、政治資金がらみの事件や被害者が多数にのぼる大型の過失事件などが起きた場合、「市民vs社会の敵」という構図が描かれ、「社会の敵を排除しなければならない」という市民側の論理で起訴議決がなされる場合がある-などを挙げた。
 実際に、強制起訴の制度設計を議論した政府の有識者会議「裁判員制度・刑事検討会」の議事録によると、一部の委員から「強制起訴が可能なのは、起訴猶予事件に限った方が良いのではないか」「起訴のハードルが下がり、明らかに無罪の人が、強制起訴で刑事被告人に仕立て上げられるのではないか」などと懸念する意見も出たが、その後、検討会で議論が深まった形跡は見られない。個人の刑事責任追及を超えて真相解明や再発防止を主眼として強制起訴が行われうるという想定は、議題にもなっていない。
 春日教授は「強制起訴は検審で11人中8人以上が2度『検察官の不起訴処分は正しくない、起訴して裁判にかけるべきだ』と判断して起訴議決をすれば可能になる。だが、刑事被告人の負担や推定無罪の原則を考えれば、この起訴議決に必要な条件を全員一致に変えるべきではないか。また、検審に審査を申し立てる遺族らは、検察官による不起訴の説明が足りないと感じている。検察官にはより丁寧な説明が求められる。検審も、議決の結果だけを公表する今の運営を改め、議事録も公開する方向に変え、透明性を高めるべきだ」と話した。その上で「そもそも本来の意味での司法の市民参加とは、不起訴だけでなく、検察が行った起訴の妥当性についても市民が判断することだ。将来的にそうした議論も必要になるのではないか」と指摘した。
 ただ、強制起訴を盛り込んだ検察審査会法と同時期に施行された裁判員法には「制度導入後、3年経過後に制度運用状況を検証する」との規定があったが、検審法にはこうした規定はない。また強制起訴で無罪判決が出るたび、歴代の法相は「必要があれば見直しも検討する」などと説明してきた。しかし法務省は「現時点で見直し作業はしていない」としており、制度の検証すら進んでいないのが実情だ。
*刑事被告人への負担軽減策が必要
 検討会で委員を務めた東京経済大現代法学部の大出良知教授(刑事法学)は「起訴基準の変化への懸念や司法への国民参加の在り方などについて、検討会で深い議論がなされたとは言い難いのは事実。当時は強制起訴の導入は既定路線と多くの委員が考えていたのではないか。理念よりも具体的な制度設計の方に議論の重点が置かれていた」と明かす。
 その上で大出教授は「検察官より検審の方が起訴のハードルが低いので無罪が相次いでいるとの指摘があるが、そもそも起訴基準がどうあるべきかということは、刑事裁判のあり方に関わる問題であり、簡単に結論が出るものではない。検察官が有罪が見込めると考えた場合だけ起訴し、有罪率が99%という状況は、実質的には検察官が密室で有罪・無罪を決めているのと同じ。起訴のハードルを下げ、公開の裁判で有罪か無罪を判断する方向に進めるべきであり、裁判中心の司法へと後押ししただけでも改革の意義はあった」と強調する。
 さらに強制起訴による刑事被告人について、大出教授は「そもそも刑事被告人に必要以上の負担が掛かる現状が間違っている。検察官の密室での判断が無罪推定の原則を蔑(ないがし)ろにする雰囲気を生み出している。報道の扱いや身体拘束のあり方など、無罪の推定を前提とした対策は可能なはずだ」と指摘した。
 ある検察幹部は「検察が内部で刑事責任の有無を判断せず、起訴して公開の法廷で白黒つけるべきという国民の感覚も分かるが、たとえば10人以上亡くなった事故だから、起訴のハードルを下げよう、というわけにはいかない。逆に強制起訴で有罪ばかりになれば『検察は何をやっているんだ』となるため、無罪が増えるのは仕方ない」と話す。
 強制起訴導入に携わった別の検察幹部も「検察官とは別の、国民の理解が得られる起訴のルートができただけも意義がある。ただし、強制起訴の被告人は、(有罪の高度の見込みがある)通常の被告人とは違うということが社会的にもっと認知されるべきだろう」と話している。
 ◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します *強調(太字・着色)は来栖
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