【光市母子殺害事件 弁護団の300日】 加害者側に焦点 東海テレビが制作「光と影」

2008-06-04 | 光市母子殺害事件

中日新聞夕刊 2008/06/04
 「ほぼすべての番組が、被害者遺族に共感する内容で感情的だった」。山口県光市の母子殺害事件の差戻し控訴審で、広島高裁が元少年の被告に死刑を下した4月。判決前に放送倫理・番組向上機構(BPO)がテレビ報道に苦言を呈したのは、記憶に新しい。そんな中、唯一、加害者側にアプローチしていた局があった。東海テレビの報道陣が、「鬼畜」と言われた弁護団に1年近く密着。事件の真実に迫る姿を、ドキュメンタリー「光と影」(7日午後2時)にまとめた。(千万勲)

 東海テレビが制作「光と影」

 制作の出発点は、名張毒ぶどう酒事件だった。「もうからない弁護を、なぜやるか」。こんなテーマで準備を始めたところ、弁護士の二人が山口の裁判に携わっていることが分かった。対象を変更。昨年7月に取材を申し込んだ。
 世論に違和感
 「悪い奴を弁護するのはけしからん、という世論に、違和感があった」。取材を進めた斉藤潤一ディレクターが振り返るように、すでにバッシングの嵐が吹き荒れていた。
 一昨年、最高裁が無期判決を差し戻したため、全国から21人が集まって新弁護団を結成、事件の再調査を始めた。そこへ、被告が「殺意はなかった」と告白する。世論は「死刑回避の荒唐無稽な言い逃れ」と非難。弁護団にまで「鬼畜」「悪魔」の言葉が浴びせられた。
 斉藤ディレクターは弁護団の一人、名古屋市の村上満宏弁護士に「違和感」を説明した。毒ぶどう酒事件で築いた信頼関係もあり、意外に「取材OK」が出た。普通なら冒頭の撮影だけの会議も、カメラを回し続けることができた。
 事務所の看板が壊され、脅迫の手紙が届く中、弁護士たちは広島に通った。「被告の言葉が本当なのか、どうか」。被害者の首に残った指の跡から、犯行時の心理を推測する。事件当時の足取りも丹念にたどった。
 被告が体験した父親からの虐待と母親の自殺。それにより、精神年齢が幼くして止ったという鑑定。多くの材料を突き合わせ、白熱した議論が続く。荒唐無稽な供述が、実は事件の本質ではないか----。やがて結論に至る様子を、カメラは淡々と追い掛ける。
 売名なら中止
 阿武野勝彦プロデューサーは「もし、事件を利用して『人権派』の名を売るものだったら、そこで制作をやめるつもりだった」と明かす。「でも、違った。真実を明らかにする姿があった」
 当初は番組スタッフにさえ逆風が吹いた。「妻が拒否反応を示した」と斉藤さん。ナレーションを務める女優の寺島しのぶも「初め、お受けしたくないと思った」という。番組を見て「弁護団が、何をしていたのか、初めて知った感じです」。
「憎い」という感情だけで白黒をつけ、真実の解明にふたをする風潮。このまま来年5月に裁判員制度が始まったら、どうなるか。現代日本に、番組は一石を投じている。
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光と影 ~光市母子殺害事件 弁護団の300日~
 ■放送日時■
6月7日(土) 14:00~14:55
ナレーション:寺島しのぶ
声の出演:天野鎮雄、間瀬礼章
 1999年4月14日、山口県光市で本村洋さんの妻と生後11ヶ月の長女が殺害された。当時18歳だった少年が逮捕され、一審二審の判決は、無期懲役。しかし、最高裁は、死刑含みで、審理を広島高裁に差し戻した。「光市母子殺害事件」。最高裁の途中段階から、弁護団は、差し変わった。それは、起訴事実を争わず、ひたすら情状を主張してきた旧弁護団には、「死刑含み」の状況に危機感を感じたためである。そこで、21人の弁護士が集い、この事件を再調査することになる。そこで、弁護団が見たものは、流布された凶悪な被告ではなく、精神年齢の低い青年像だった。そして、被告は、殺意はなく、強姦目的でもなかったと、新しい弁護団に告白する。しかし、感情的な空気の中で、世論は「荒唐無稽な供述を始めた」「死刑が恐くなって事実を翻した」と被告を非難、更に、弁護団にまで、鬼畜、悪魔とバッシングの嵐が吹き荒れる事態となった。東海テレビでは、こうした中で、刑事事件の弁護活動とは、どうあるべきか、弁護士とは、どういう職責を持つものなのかを、多様な視点から、冷静に見ることが必要であるとの考えから、弁護団会議などにカメラを入れ、取材を重ねてきた。果たして、この番組から、何が見えてくるか…。
ナレーター・寺島しのぶさんのコメント
「光市母子殺害事件」は、あまりにもショッキングな事件でしたから、初めこの番組のナレーションのお話が来た時、お受けしたくないと思いました。ナレーションをして、今は、よかったと思っています。番組を通じて、被害者家族、弁護団、裁判官など、色々な人が、この事件に関わっていて、様々な見方があることが分かりました。特に「鬼畜」と非難された弁護団の人たちが、何をしていたのかは、初めて知ったという感じです。弁護団の立場でもなく、被害者遺族の立場でもなく、感情的にではなく、あくまで冷静に、「事実は、こういうことだったのではないか」が確実に伝わればと、ナレーションしました。裁判員制度が、まもなく始まりますが、この事件に限らず、人を裁くということが、難しいことだと感じました。
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21人の弁護団に焦点 東海テレビ「光と影」7日午後2時放送
2008年6月5日 中スポ 紙面から
 山口県光市母子殺害事件の弁護団を追ったドキュメント「光と影」を東海テレビが制作し、7日午後2時から放送する。すぐれたドラマやドキュメンタリーに贈られるギャラクシー賞テレビ部門大賞作品「裁判長のお弁当」のスタッフが担当し、世間からバッシングを受けた弁護の裏側に焦点を当てた。
 番組は、名古屋の弁護士を中心に密着する形で、約300日にわたり裁判の行方を追った。事件はあまりにも衝撃的で、世論は感情に流された。死刑のがれへ少年をそそのかして証言させたともいわれた弁護団への風当たりは強く、懲戒請求まで起こった。
 その中でカメラは、殺意をめぐる証拠などを検証する21人の弁護士の会議にまで踏み込み、少年とのやりとりも克明に伝えている。事実とは何か、メディアスクラムに陥りがちな今の報道に問題はないのか…。裁判員制度を前にいろいろ考えさせられる。ナレーションを担当した女優の寺島しのぶ(35)も「初めはお受けしたくないと思いました。でも、やってみてよかったと思います。さまざまな見方があることが分かりました。この事件に限らず、人を裁くのは難しいことだと感じました」とコメントしている。
 前回は裁判所の裏側へ、そして今度はたたかれた弁護団へ。内容は骨太硬派だが、分かりやすい仕上がりになっている。


9 コメント

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TBありがとうございます ()
2008-06-05 11:54:55
この放送は東海地方しか見れないのでしょうか。
全国でも放送してもらいたいですね。

なお村上光宏弁護士ではなくて村上満宏弁護士です。
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訂正しました♪ (ゆうこ)
2008-06-05 22:54:37
円様。
 東海テレビなので、恐らく当地だけの放送でしょうね。とても、残念です。
 今頃PCを開き、コメント拝見して、早速訂正いたしました、「満宏」と。有難うございます。村上満宏弁護士さん、素晴らしい感性の持ち主でいらっしゃいますね。
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Unknown (rice_shower)
2008-06-06 07:47:10
http://jp.youtube.com/watch?v=hsaHMvJ25fU
長野の聖火騒ぎの折、全国紙、東京キー局製作番組では、“福原愛ちゃんに飛び掛ろうとした台湾人の暴漢”としか報道されなかった事件の実態を報道したのは、産経大阪版と上記大阪ローカル番組のみでした。

ご紹介の光市事件のルポ、全国ネットでは恐ろしくて流せないのでしょう。 心有る人がyoutubeにアップして、心有る東海テレビが黙認してくれたらいいのに.....。
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rice_shower さん (ゆうこ)
2008-06-06 22:51:41
 胸が、いっぱいになりました。タシィ・ツゥリンさん(42)のお話です。お父様の生き様が、息子のタシィさんに全てを教えましたね。生き方、平和、幸福、非暴力等々。
 オリンピックは、元々政治的なイベントです。FIFAのような人権への配慮なんて、一顧もありせん。オリンピック(中国)に擦り寄るために、長野検察(日本)はタシィさんを長期勾留した。恥ずべき行為ですね。
 「インドで生まれて、心、おちついたことがない。じっとしていられない」・・・私のような鈍い者にも、鋭く響いてきました。
 聖書では、平和とは「痛む所の無い状態」を言います。決して「平穏無事な状態」を指しません。タシィさんの言うように、中国では今地震で多くの人が痛んでいます。この状態を観るなら、競技を楽しめるわけはないのです。

 素晴らしいビデオを聴かせていただいて、心より感謝しています。琴線に響くお話でした。いつも、感謝です。
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テレビ放映 (春霞)
2008-06-06 23:59:52
TBとコメントありがとうございます。

>光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~
>>刑事事件の弁護活動とは、どうあるべきか、弁護士とは、どういう職責を持つものなのかを、多様な視点から、冷静に見ることが必要であるとの考えから、弁護団会議などにカメラを入れ

東海テレビさんは頑張りますね。多くの方に刑事弁護についてきちんと伝わることはいいと思います。ただし、東海テレビでの放映ですので、東京では放映しないようです。それが残念です。


>ナレーター・寺島しのぶさんのコメント
>番組を通じて、被害者家族、弁護団、裁判官など、色々な人が、この事件に関わっていて、様々な見方があることが分かりました

このコメントからすると、今までのマスコミ報道だけでは、「様々な見方」が分からなかったわけですね。多数の当事者が関わる裁判なのですから、「様々な見方」があるのは当然なのに。

「様々な見方」が分からなかったというのは、寺島しのぶさんだけではなく、多くの市民も同じだったのでしょう。不幸なことです。
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油断できません ()
2008-06-07 12:27:41
まだ放送前ですから、圧力がかかって、内容が変更されてしまうかもしれません。

古館さんは、一般庶民側のコメントをされることが多く、
こんな記事もありましたから↓

http://news.goo.ne.jp/article/nikkan/entertainment/p-et-tp0-080607-0009.html

テレ朝古舘コメントで自民党取材締め出し
2008年6月7日(土)09:49

 自民党は6日までに、テレビ朝日系「報道ステーション」の古舘伊知郎キャスターが後期高齢者医療制度に絡み「国民に誤解を与える発言をした」として、同局側に抗議するとともに、党役員会などの撮影の無期限禁止を通知した。

 さらに、自民党山崎正昭参院幹事長はこの日、古舘キャスターの発言を理由に定例の記者会見を欠席、鈴木政二参院国対委員長だけが対応した。山崎氏はテレ朝への撮影禁止だけでなく、記者クラブでのテレ朝の会見取材を禁止したい考えを伝えた。クラブ側は「会見は記者クラブの主催であり、応じられない」などと説明したが、山崎氏は欠席。テレ朝は鈴木氏の会見を取材した。

 自民党によると、同番組は3日の党役員連絡会前に出席者が談笑する映像を使用し、古舘キャスターが「よく笑っていられますね。偉い政治家の人たちは」とコメントした。

 細田博之幹事長代理は「後期高齢者医療制度で国民に過重な負担を強いているにもかかわらず、あたかも自民党役員が笑っているとの誤解を与えた」と批判。古舘キャスターはこの日の放送で、自民党の対応に直接的な表現は避けたが「孫や次の世代のことを、見ていない感じがする」と語った。テレビ朝日広報部は「通知を受けたことは事実だが、対応についてはまだ協議中」とした。
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解りやすい内容でした ()
2008-06-07 14:57:47
東海テレビなかなかやりますね。
番組は、解りやすい内容でした。
一安心です(笑)
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和さんへ (ゆうこ)
2008-06-07 22:15:01
 良い出来でしたね。抑制したナレーションに象徴されるように、感情や情緒を徹底して排して、淡々と事実だけを提示していました。
 村上弁護士の活動を追う、という糸口であり構成でしたから当地のみの放送になったかと思いますが、私どものHPへのサーチワードを見ましても「東海テレビ 光市事件と影」という方が、本日は結構いらっしゃいました。これだけ反響があるわけですから、再放送とかwebに露出するなど、考えるのではないでしょうか。お願いもしてみたいと思います。
  ↓
http://cs.tokai-tv.com/interpost2/hikaritokage/c_regist_pc.php
ところで、お電話でもちょっと触れましたけれど、古舘さんは、光市事件に関しては、×です。何もわかっていません。
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寺島しのぶ ()
2008-06-08 04:48:53
古館さん、×ですか、それは残念ですが、
気づいて変わってくれるといいです。

ところで、寺島しのぶさんといえば、私の中ではCBCドラマ『幽婚』です。面白くて繰り返しみてましたわ(笑)
怨念とは、よくは言われませんが、
失われることなくづっと続くものであるなら、それは愛情ではないかと思いました。
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