中国の人権―成長の犠牲にはできない
朝日新聞 社説2010/1/8
世界2位の経済大国になろうかという勢いに比べて、あまりにひどい人権状況である。著名な作家で民主活動家の劉暁波氏に対して、中国の裁判所が出した判決のことだ。
劉氏は2008年末にネット上で中国共産党の独裁を批判した「08憲章」の起草者だ。
憲章のなかで一党独裁の廃止や民主憲政を呼びかけたことや、ネット上での党や指導者に対する批判が「国家政権転覆扇動罪」に問われ、憲章の発表直前に拘束された。
昨年末に出た判決は懲役11年である。暴力を振るったわけではなく、人に危害を与えたわけでもない。そんな言論活動への対応としては暴挙と言わざるを得ない。
中国ではこのところ「扇動」というあやふやな容疑で捕らえられる民主活動家が目立つ。08年の北京五輪前には、著名な人権活動家でノーベル平和賞の有力候補になった胡佳氏が、言論活動を問われ実刑判決を受けた。
しかし、政治的信条を平和的に表現することを罰するのは、中国も署名した「市民的・政治的権利に関する国際規約」(国際人権B規約)の精神に明らかに反している。
劉氏への判決に対して欧米からは非難や懸念の声明が相次いだ。日本政府が表だった動きを見せていないのは残念だ。その中で、日本ペンクラブが判決見直しと無条件の即時釈放を求める声明を出したのは、中国の民主活動家への励ましになろう。
しかし、中国外務省は外国の抗議声明に対して「中国の司法に対する粗暴な内政干渉であり、強い不満を表明する」と、かたくなだ。
経済力だけでなく環境や安全保障といった地球規模の問題で、中国の役割は飛躍的に大きくなった。その状況下で、中国の人権改善を求める欧米諸国の声は以前より弱くなった。
それを背景に中国は、一昔前のように首脳外交のカードとして活動家を釈放するようなこともしなくなった。中国の影響を受けて、アジア諸国の人権改善も進んでいないとの指摘もある。
中国当局が強硬なのは、汚職や格差に対して国民の不満が渦巻いていることも背景にある。ネットなどに当局批判があふれれば、社会が混乱に陥ると恐れているのだろう。
しかし、中国が滑らかに経済発展を続けるには、社会の活力がエンジンとなる。それを動かすためには、言論や表現の自由は欠かせない。中国と長期的に安定した関係を結ぶために、国際社会ももっと声をあげたい。
日本の民主党指導者は胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席らとの親しさを誇る。劉氏が最近控訴したのを機に、かねてから主張してきた人権の改善を強く求めるべきではないか。
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◆IMF、報告書発表「中国が今後5年以内に世界一の経済大国になる」/民主主義と経済的成功の関係2011-06-11 | 中国