「おれたちはゴミじゃない」「年寄りをいじめるな」名古屋 路上の冬におやじ逝く

2009-03-02 | 社会
【雇用崩壊】路上の冬におやじ逝く 名古屋、2カ月で7人死亡
2009年3月1日
 名古屋市中心部の高架下で長年暮らしていたホームレスの男性が2月中旬、息を引き取った。50代半ば。仲間の安否を確認する夜間パトロールの中心となり、周囲から「おやじ」と慕われていた。支援団体によると、この約2カ月に市内で死亡した路上生活者は少なくとも7人。関係者は「例年になく多い」と危機感を募らせる。
 千種区吹上の名古屋高速の高架下。かつて「おやじ」が暮らした場所に、籐(とう)の棚で祭壇がつくられた。菊の花が飾られ、好きだったカップ酒やミカンが供えられている。仲間が集まり、手を合わせていく。その様子を、主(あるじ)を失った猫のテツが寂しげに見つめていた。
 「あれだけ体を張ったんだ。ゆっくり休んで」。路上生活の仲間の男性(37)が、しんみりと言った。
 ホームレス支援の民間非営利団体ささしま共生会(名古屋市)の運営委員松本普さん(61)らによると、「おやじ」の路上生活は、十数年前から。「九州出身のとび職」だった。だが、詳しい経歴は分からない。日雇い労働や空き缶集めをして暮らしていた。
 親分肌だった。市役所の職員に「おれたちはゴミじゃない」「年寄りをいじめるな」と抗議したことも。
 「根は優しいのに、酒を引っかけて大声を出していました」と松本さんは言う。週に1回、市内を回って仲間の安否を確かめる夜回りグループの中心。支援団体の炊き出しでは「ほかの人に」と食事は受け取らなかった。
 ともに路上で暮らしたパートナーの女性に頭が上がらなかった。その女性を5年ほど前に病気で亡くし、酒量が増えた。体を壊し、冬を越せなかった。
 祭壇には、仲良く寄り添う“夫婦”の写真が飾られていた。
    ■
 この冬は「おやじ」のほか「ろくちゃん」「さんちゃん」らが亡くなった。同会が把握しただけでも、昨年12月末から今年2月にかけ、名古屋市の路上で暮らす男性7人が病気などで死亡した。
 世間から冷たい視線で見られがちなホームレス。それぞれが過去を語ることも少ない。「だけど」と松本さんは言う。「過去を語らずとも情でつながっていたり、ささやかな幸せだってある。『あの橋や学校はおれが造った』と、胸を張る人は多いんです」
 年度末にかけて「派遣切り」などで職と住まいを失う人が増えると予想される。「おやじ」の死は、実は「地続きにある断崖(だんがい)」なのかもしれない。
 (社会部・今村実)

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