【介護社会】<たすけ合い戦記>(4)他人の激励が力 ブログは心の支え (5)父に学んだ介互

2010-01-05 | 社会
【介護社会】
<たすけ合い戦記>(4) 「他人」の激励が力に
中日新聞2010年1月5日
 「あたしの時間を、これ以上奪うな」。黒い画面にカラフルな文字が躍る。「(認知症で)自宅が分からないのに、在宅介護の意味があるのか?」「義母は何のために生きてるんだと思ってしまう」と辛らつな言葉が続くブログ。そこには2人を介護する主婦の日々と本音が、赤裸々につづられている。
 京都市西京区の主婦武田洋子(49)=仮名=は2年前、「おたべ」のハンドルネームで「ゴミ屋敷介護日常 介護が楽しいわけがない!」と題したブログを始めた。別居していた義父母に介護が必要になったため、夫の敏明(63)=同=の実家に転居。戦いは老夫婦がためたごみの処分からスタートした。
 それまで運営していた映画論評のホームページを休止し、奮闘をネットで公開して気晴らしにした。「まさかこんなに続くなんて」。しみじみ振り返る。
 家がようやく片付いたころ、義父が脳梗塞(こうそく)になり、義母の認知症が悪化。敏明の失職が追い打ちを掛けた。現在はいずれも要介護度4の義母を在宅で、義父を施設で介護している。先の見えない毎日。苦境に追い込まれるほど、ブログは“面白さ”を増した。「つらさをネタにしてるんです。そうせなしゃあないもの」
 洋子は毎朝のように義母とけんかする。しばしば手を上げるし、思わず首に手を掛けたこともある。「早く死んでくれって思います」。ショートステイから帰ってくる日には涙があふれ、何もする気が起きなくなる。
 それでも憎まれ口をたたく義母の便をかきだし、尿でぐしょぐしょになったパジャマを交換する。車で1時間かかる義父の老人保健施設も週3回訪れ、車いすを押して散歩させてあげる。ブログの言葉とは裏腹に、その介護ぶりは真剣勝負だ。「負けず嫌いだから」と照れる妻。敏明は「彼女が嫁さんでよかった」と目を細める。
 介護漬けの閉ざされた生活で、外とつながるブログは洋子の心の支え。同じ境遇の仲間が「ロックのコンサートに行きました」と書き込むと自分のことのようにうれしくなった。ご近所とのトラブルを記事にすれば、顔も知らない人たちが「頑張ってください」「そんなあほには負けるな」と励ましてくれた。しょっちゅう悪口を書かれる敏明は「彼女はネットができて良かった。僕も周りに『ブログを見て』って宣伝してるんです」と笑顔を見せる。
 ある時、偶然ブログを読んだ実母が「泣きました」とメールを送ってきた。結婚前にけんかを繰り返した実母。「愚痴を言えば負け」と、洋子はつらさを打ち明けることができなかった。いまだに素直になれず、返信すらしていない。
 それでも実はこんなふうに思っている。「あの人に介護が必要になったら、もっと一生懸命やってあげるやろね」(文中敬称略)
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【介護社会】
<たすけ合い戦記>(5) 父に学んだ「介互」
2010年1月6日
 写真の中央には、つえを手に満面の笑みを浮かべる父の姿があった。「おやじ、もう33回忌を迎えたんだな」。名古屋市北区でオーダーシャツ業を営む丹羽繁(62)は作業の手を休め、古いアルバムを手にしみじみとつぶやいた。
 高校1年の終わり、父・鋳二(ちゅうじ)=当時(51)=が脳梗塞(こうそく)で倒れた。退院後も右手足にまひが残り、店の奥で寝ている時間が増えた父に代わり、シャツの配達が日課になった。毎夜、取引先を回る。校内で「営業」し、先生や同級生から注文をもらったこともある。
 24歳。父の願いでもあった店の建て替えを果たした。だが、気がかりがあった。結婚。一家の長男で、家には2歳違いの脳性まひの弟・真もいた。「あんな条件の悪い家では」。何度も見合いし、相手の親から人づてに聞かされたこともある。
 29歳。転機は訪れた。「お母さんも元気だし、大丈夫」。名古屋・栄のレストラン。付き合って間もない現在の妻民子(59)の言葉に心躍らせた。「決まったぞー」。家族に大声で知らせた。「僕が生きとるうちは兄ちゃんに嫁さん来(こ)おせんわ」と嘆いていた弟が感極まり、声にならない声をあげた。
 「俺(おれ)のこと、こんなに心配してくれていたのか…」
 結婚式場で、浴衣の上に羽織を着せてもらった父が母に支えられ、よろめく足取りで民子の父に歩み寄った。震える両手でゆっくりとビールを注ぐ横顔が、くしゃくしゃになっていた。
 弟や病床の父を時に疎ましく感じていた自分を恥じた。
 「面倒を見てやっている、そんなおごりがどこかにあった」
 父は自分の結婚を見届けるようにしてその年の暮れ、64歳で他界した。
 今は妻と2人で、自宅近くで暮らす母・清江(84)と弟の介護。食事の世話や洗濯、病院の付き添い。母は昨秋、脳梗塞で倒れ、60歳の弟も寝たきりに近く、先が見えない老老介護の真っただ中だ。
 弟はここ数年寝つきが悪く、夜中じゅう大声を上げたり足をばたつかせたりするようになった。「おふくろが休めんだろ」。思わず声を荒らげてしまう、そんな時、父の笑顔が浮かび、ハッとする。
 「面倒見られている側だって相手のことを思っている」
 介護の「護」はお互いさまの「互」じゃないか-父を思い出すたび、自分に言い聞かせている。(文中敬称略)
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愛知県、市町村の介護予防支援で専門機関設置へ
 介護が必要な高齢者の増加を抑えるため、市町村が実施している介護予防事業を支援しようと、愛知県は新年度、同県東浦町の健康総合施設「あいち健康プラザ」内に「高齢者総合サポートセンター」(仮称)を設置する。専門スタッフが不足している市町村もあり、予防プログラムの開発や職員の育成にあたる。
 厚生労働省老人保健課の担当者は「都道府県が専門機関を設けて、市町村を支援する取り組みは全国でも珍しい」と話している。
 寝たきりや認知症を防ぐ介護予防事業は市町村が主体となり、高齢者向けに「脳の健康体操」「運動機能の向上教室」「栄養改善指導」などを実施している。
 ただ、市町村によっては介護予防の専門知識がある職員が少なかったり、プログラムへの高齢者の参加率が伸びないなどの課題を抱える。現場の保健師らは「実際に予防効果があるのか自信が持てない」「腰痛やひざ痛のお年寄りにマニュアル通りの健康体操を教えて、逆効果にならないか」と助言を求める声が多い。
 これらの問題を解消するため、新たに設置するセンターには、医師をトップに保健師や社会福祉士ら数人の専門職員を配置。効果的なプログラムの開発や、市町村職員の能力向上のための研修会を開く。高齢者を介護する家族がストレスから虐待するなど、専門的対応が必要な問題でも職員の相談に応じる。
 介護予防事業をめぐっては、各都道府県が市町村と情報交換や研修会を開いているほか、プログラムの開発や普及活動に共同で取り組む例はある。愛知県の場合、あいち健康プラザに隣接する国立長寿医療センターや認知症介護研究・研修大府センターと連携できる利点があり、専門的な支援施設の設置が可能となった。
 県の担当者は「高齢者への対応は市町村に任され、手探りで取り組んでいるケースも多い。困ったときにすぐ対応できる態勢を整えたい」と話している。2010年1月5日 11時07分(中日新聞)

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