少年法の想定外…「実名」「顔写真」 暴く“ネット私刑”…現実に即した見直しを

2015-04-26 | 少年 社会

産経WEST 2015.4.24 15:00更新
【西論】少年法の想定外 「実名」「顔写真」暴く“ネット私刑” 現実に即した見直しを
 川崎市の中学1年の男子生徒が18歳の少年らに殺害された事件を機に、少年法をめぐる改正論議が、再燃している。
 選挙権年齢を「18歳以上」に引き下げる公職選挙法改正案が今国会で成立する見通しになったことを受け、適用年齢(14歳以上20歳未満)の引き下げが大きな焦点となっている。それとともに、加害少年の実名報道を禁じる少年法第61条の賛否についても関心が集まっているのだ。
 きっかけは、「今回の事件の残虐性と社会に与えた影響の大きさ、そして主犯格とされる18歳の少年の経歴などを総合的に勘案した」として、週刊新潮が先月、加害少年の実名と顔写真を掲載したことだ。
 ただ、この報道で加害少年の実名が初めて“公表”されたのかというと、そうではない。事件直後から誰もが知ることができる状況になっていた。インターネットである。現在では日常生活から切り離すことのできない存在となったネット上で、実名や顔写真、そして家族構成などまで暴かれ、いまも拡散しているのが現状だ。
 誰もが情報発信できる「1億総メディア時代」は、いわば第61条の“想定外”で、現実との乖離(かいり)は確実に広がっている。
■更生か抑止か
 「家庭裁判所の審判に付された少年又は少年のとき犯した罪により公訴を提起された者については、氏名、年齢、職業、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」
 少年法第61条はこう規定し、罪を犯した少年が特定されるような報道を禁止している。
 これは、少年法が「少年の健全な育成を期し、非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とする」と第1条に定めているように、未成熟な少年に対しては刑事責任より保護や教育を優先させる「保護主義」を原則としているからだ。
 新聞は、記事の正確性、信頼性、透明性などを担保する観点から、実名報道を原則としているが、少年の犯罪については異なる。
 戦後しばらくは、少年犯罪についても何度か実名を報じていた。しかし、昭和33年に日本新聞協会が、第61条の扱いについて「少年法第61条は、未成熟な少年を保護し、その将来の更生を可能にするためのものであるから、新聞は少年たちの“親”の立場に立って法の精神を実せんすべきである。20歳未満の非行少年の氏名、写真などは、紙面に掲載すべきではない」との方針を打ち出し、原則として実名は出さなくなった。
 少年による凶悪な犯罪が起きるたび少年法は論議の的になってきた。「少年法と市民感覚には乖離がある。結果が重大なら、厳しく対応しなければかえって更生を妨げる」「刑罰は立ち直りを妨げるし、(少年法の厳罰化は)抑止効果にもならない」…。意見が分かれるなか、少年法は厳罰化の方向に何度か改正されている。
 14歳の少年の犯行だった平成9年の神戸連続児童殺傷事件などを受け、13年に施行された改正法は、刑事罰の対象が16歳以上から14歳以上に引き下げられた。また、16歳以上が故意に被害者を死亡させた場合、原則として事件を家庭裁判所から検察に逆送することになった。
 19年には少年院送致の下限が14歳から「おおむね12歳」に引き下げられ昨年4月には有期刑、不定期刑とも上限が引き上げられた。しかし、少年による凶悪犯罪は減ってはおらず、厳罰化は抑止につながっていないのが現状だ。
■“ネット私刑”を防ぐには
 さらに問題を深刻にしているのが、匿名の市井の人による“ネット私刑”である。未成年による衝撃的な事件が起きる度に、「未成年であっても保護は必要ない」という“私憤”から、犯人を捜し、特定し、加害少年の実名や顔写真、さらには真偽も定かでない情報まで発信する。
 川崎の事件では、まったく無関係の女子中学生が犯人グループの仲間と勘違いされ、事件直後から実名や顔写真がネット上にさらされたため、見知らぬ人から誹謗(ひぼう)中傷を受けた。ネットで一度拡散してしまうと、完全に消去することは困難だという。この少女は一生苦しまねばならないが、責任を取る者はどこにもいない。
 実名報道によって「私的制裁」を加えるのはメディアの役割ではない。ただ、加害少年の「親の立場」にたって新聞が「少年A」としても、ネットでは実名が堂々と書かれている。こんなちぐはぐな状況では、少年の保護を考慮した第61条の意味はなくなる。
 今後もネット社会は加速度的に進んでいくだろう。ちぐはぐな状況を早急に解消するため、第61条も含め少年法のあり方を見直す時期がきている。  (社会部長・佐藤泰博)
 ◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します *リンクは来栖
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18歳の責任 少年法適用年齢も検討を 産経新聞【主張】
  産経ニュース 2015.3.29 05:01更新
 【主張】18歳の責任 少年法適用年齢も検討を
 選挙権年齢を「18歳以上」とする公職選挙法の改正が検討されている。併せて「20歳未満」と規定される少年法の適用年齢についても議論すべきではないか。
 選挙権を与えるということは、判断能力を備えた大人と認めることだ。同時に、相応の責任も負うことが望ましい。
 終戦前は「25歳以上の男子」と規定された選挙権は昭和21年、新憲法公布とともに「20歳以上の男女」と改められた。逆に「18歳未満」を対象とした旧少年法は23年、GHQの指導もあり、「20歳未満」に引き上げられた。
 現行では、世界の多くの主要国が選挙権、少年法とも、18歳を境界としている。
 少年法は保護、更生を目的としており、犯罪に対する応報としての刑事罰を科す刑法とは趣旨が異なる。子供を守るのは国や大人の責務であり、本来の目的は堅持すべきだろう。
 一方で少年法は、平成12年に検察官に送致できる年齢を「16歳以上」から「14歳以上」に引き下げ、19年には少年院送致の対象年齢を「14歳以上」から「おおむね12歳以上」と改正するなど、厳罰化を繰り返してきた。少年による重大事件が頻発したことが、その理由に挙げられる。
 また少年法は、17歳以下の死刑を禁じている。年長少年と位置づける18、19歳には死刑も可能ということだ。現実に24年には、山口県光市で起きた母子殺害事件で犯行時18歳だった被告に死刑判決が確定した。宮城県石巻市の3人殺傷事件では22年、同じく犯行当時18歳の被告に仙台地裁の裁判員裁判は死刑を選択した。
 究極の刑罰である死刑の選択が可能であること自体、保護や更生を目的とする少年法の趣旨と大きく矛盾している。適用年齢の引き下げで、この矛盾を解消すべきではないか。
 川崎市では2月、18歳の少年を主犯とする、信じがたいほど残虐な殺害事件があった。だが、法改正についての議論は感情的にならず、冷静に推し進めることが必要だろう。
 この事件では、主犯少年の名前や写真が週刊誌やネットにさらされた。これは本人と推知できる記事、写真の掲載を禁じた少年法61条に反する。61条の是非や不備については大いに論じればいいが、脱法行為に胸は張れない。
 ◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します *強調(太字・着色)は来栖  
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川崎中1殺害事件で再燃「少年法適用年齢引き下げ」 選挙権・民法「18歳以上」との整合性も絡み 2015-03-25 
  (抜粋)
 それから約70年。少年法は凶悪事件が起こるたび見直され、現在まで複数の改正を経ている。
 第一の大きな契機は平成5年の山形マット死事件。山形家裁の審判で7人中6人が否認し3人が不処分となったにもかかわらず、仙台高裁が不処分の3人のアリバイを事実上否認した。少年審判の事実認定のあり方が問題視された。
 さらに9年の神戸連続児童殺傷事件では、残忍な犯行にもかかわらず、当時刑事罰に問われない14歳だった少年は医療少年院に送致するにとどまった。
 これらの事件を受け、13年施行の改正法では、重大事件の審判で検察官関与を認め、刑事罰の対象を16歳以上から14歳以上に引き下げた16歳以上が故意に被害者を死亡させた場合は、事件を検察に逆送する「原則逆送制度」も導入された。19年には、少年院送致の下限が14歳から「おおむね12歳」に引き下げられた。
 さらに21年に大阪府富田林市の少年が男子高校生をバットで殴り殺した事件の判決公判では、裁判長が懲役5年以上10年以下の不定期刑を言い渡した上で、「少年法は狭い範囲の不定期刑しか認めておらず、刑期は十分でない」として、無期刑と不定期刑の差がありすぎることを指摘した。さらに、「本件を機に議論が高まり、適切な改正がされるよう望まれる」と異例の言及をした。
 これらのことから、昨年4月の改正では、有期刑の上限を15年から20年に、不定期刑も「5~10年」を「10~15年」に引き上げられた。
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川崎中1(上村遼太さん)殺害事件 「容疑者」家族の顔写真投稿、自宅の動画を撮影…ネットで「私刑」が横行 
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改正少年法成立 「有期刑」上限15年⇒20年 / 「不定期刑」短期5年⇒10年、長期10年⇒15年 2014-04-12 
少年院送致は12歳から 少年法改正で与党修正案 2007-04-17 
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「木曽川・長良川リンチ殺人事件」実名報道=更生を全否定 越えてはならない一線を越えた 2011-03-10 
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