日経新聞 社説 企業は低炭素時代の経営を世界と競え(11/4)
世界の潮流に日本企業が取り残されはしないだろうか。温暖化ガスの「2020年までに1990年比で25%減」に反発する企業が多い。だが、世界はその先へ進んでいる。
温暖化ガスをまったく出さない電気自動車など、25%減どころか、「無炭素」化に向けた製品やサービスの大競争も始まっている。
競争が企業の成長を促し、温暖化ガスを抑える新しい技術も生みやすくする。日本企業は世界の企業と、低炭素時代の経営を競うときだ。
事業構造の改革急げ
環境分野での海外企業の動きは一段と活発になっている。自動車では中国の新興電池メーカー、BYDが年末に電気自動車を売り出す。米国のベンチャー企業、フィスカー・オートモーティブは家庭の電源で充電できるハイブリッド車の量産拠点として、ゼネラル・モーターズが閉鎖した工場の買収を決めた。
風力発電機では農機具製造から転身したデンマークのヴェスタスなど、早くからこの市場に進出した企業と、米ゼネラル・エレクトリックなどの大手が激しく戦っている。
そのなかで日本企業は以前ほどの存在感がない。太陽電池の生産量(発電能力の合計)では、日本は05年に世界全体の5割近くを占めていたが、各国が増産。08年は中国が世界の4分の1を占めて首位になった。日本は2割弱となり、ドイツに次ぐ3位に後退した。
日本企業の経営力が問われている。低炭素社会に合った事業構造への改革を急ぐ必要がある。
昭和シェル石油は経営トップが、太陽電池で「世界シェアの10%獲得」を掲げた。宮崎県にある日立製作所子会社の工場を買収し、国内最大級の太陽電池工場に衣替えする。総投資額は1000億円にのぼる。経営者が明確に方針を示すことが第一歩になる。
社内に眠っている画期的な技術やアイデアを掘り起こし、育てる力量も経営者は求められる。
パナソニックではコンプレッサーの技術者が、会社の出資を受けて社内ベンチャー企業を興し、工場の排熱を使って効率良く発電するシステムを開発した。会社の資金で起業を促す社内ベンチャー制度は、事業構造改革を進める有効な手立てのひとつになる。
産業界が企業家精神を競い、太陽電池や排熱利用の発電機が普及すれば、日本全体の34%(07年度)を占める発電所からの二酸化炭素(CO2)排出の削減につながる。電気自動車など環境車が広がれば、19%ある「運輸」部門の排出減になる。
日本の30%を占める工場からの排出減についても、経営者は省エネルギーが利益増に直接結びつくことを念頭におき、徹底して取り組んでもらいたい。
キリンビールの岡山工場は工場排水中のメタンガスを燃やして発電し、7割の電力をまかなう。08年はCO2排出を90年に比べ57%減らした。日本の製造業は「乾いたぞうきん」ではないことを示す好例だ。
鉄鋼メーカーが研究中の「水素還元」製鉄法はコークスの代わりに水素で鉄鉱石を還元し、CO2の排出をゼロにする。実用化は2030年以降というが、技術力を自負するなら、もっと前倒しできないか。国際競争力を高める好機でもある。
規制緩和で競争促進を
政府や自治体は、自然エネルギー分野など新しい市場の開拓や技術開発をめぐる競争を促す役割を負う。低炭素社会へ向けた企業の活動を活発にするため、規制の緩和や撤廃を必要に応じて進める必要がある。
たとえば電気事業法では、工場の排熱を利用した発電設備を設ける場合は、規模の大小によらず、資格と実務経験を備えたボイラーやタービンの技術者をおくことが義務づけられている。この規定が排熱を再利用する省エネを阻む。管理体制の規制緩和を考えるべきだ。
オフィスビルからの温暖化ガスの排出を減らすには、省エネに優れるビルへの建て替えを促すため、建築規制を緩める手もある。
東京都千代田区は一昨年、再開発でビルを建て替える際に、CO2の排出を一定以上減らせば容積率を上積みすることを検討した。景観への配慮などから見送ったが、温暖化ガスを減らすにはこうした規制緩和の積み重ねが重要だ。
排出量取引や炭素税の導入は規制の強化といえるが、温暖化対策として有効だ。一方で、企業が温暖化ガスを減らしやすくするには、規制の緩和や撤廃が求められる。政府は柔軟に規制改革に取り組んでほしい。
競争原理を働かせることが低炭素の産業構造への転換を効率的に進める。「25%減」への一番の近道だ。
世界の潮流に日本企業が取り残されはしないだろうか。温暖化ガスの「2020年までに1990年比で25%減」に反発する企業が多い。だが、世界はその先へ進んでいる。
温暖化ガスをまったく出さない電気自動車など、25%減どころか、「無炭素」化に向けた製品やサービスの大競争も始まっている。
競争が企業の成長を促し、温暖化ガスを抑える新しい技術も生みやすくする。日本企業は世界の企業と、低炭素時代の経営を競うときだ。
事業構造の改革急げ
環境分野での海外企業の動きは一段と活発になっている。自動車では中国の新興電池メーカー、BYDが年末に電気自動車を売り出す。米国のベンチャー企業、フィスカー・オートモーティブは家庭の電源で充電できるハイブリッド車の量産拠点として、ゼネラル・モーターズが閉鎖した工場の買収を決めた。
風力発電機では農機具製造から転身したデンマークのヴェスタスなど、早くからこの市場に進出した企業と、米ゼネラル・エレクトリックなどの大手が激しく戦っている。
そのなかで日本企業は以前ほどの存在感がない。太陽電池の生産量(発電能力の合計)では、日本は05年に世界全体の5割近くを占めていたが、各国が増産。08年は中国が世界の4分の1を占めて首位になった。日本は2割弱となり、ドイツに次ぐ3位に後退した。
日本企業の経営力が問われている。低炭素社会に合った事業構造への改革を急ぐ必要がある。
昭和シェル石油は経営トップが、太陽電池で「世界シェアの10%獲得」を掲げた。宮崎県にある日立製作所子会社の工場を買収し、国内最大級の太陽電池工場に衣替えする。総投資額は1000億円にのぼる。経営者が明確に方針を示すことが第一歩になる。
社内に眠っている画期的な技術やアイデアを掘り起こし、育てる力量も経営者は求められる。
パナソニックではコンプレッサーの技術者が、会社の出資を受けて社内ベンチャー企業を興し、工場の排熱を使って効率良く発電するシステムを開発した。会社の資金で起業を促す社内ベンチャー制度は、事業構造改革を進める有効な手立てのひとつになる。
産業界が企業家精神を競い、太陽電池や排熱利用の発電機が普及すれば、日本全体の34%(07年度)を占める発電所からの二酸化炭素(CO2)排出の削減につながる。電気自動車など環境車が広がれば、19%ある「運輸」部門の排出減になる。
日本の30%を占める工場からの排出減についても、経営者は省エネルギーが利益増に直接結びつくことを念頭におき、徹底して取り組んでもらいたい。
キリンビールの岡山工場は工場排水中のメタンガスを燃やして発電し、7割の電力をまかなう。08年はCO2排出を90年に比べ57%減らした。日本の製造業は「乾いたぞうきん」ではないことを示す好例だ。
鉄鋼メーカーが研究中の「水素還元」製鉄法はコークスの代わりに水素で鉄鉱石を還元し、CO2の排出をゼロにする。実用化は2030年以降というが、技術力を自負するなら、もっと前倒しできないか。国際競争力を高める好機でもある。
規制緩和で競争促進を
政府や自治体は、自然エネルギー分野など新しい市場の開拓や技術開発をめぐる競争を促す役割を負う。低炭素社会へ向けた企業の活動を活発にするため、規制の緩和や撤廃を必要に応じて進める必要がある。
たとえば電気事業法では、工場の排熱を利用した発電設備を設ける場合は、規模の大小によらず、資格と実務経験を備えたボイラーやタービンの技術者をおくことが義務づけられている。この規定が排熱を再利用する省エネを阻む。管理体制の規制緩和を考えるべきだ。
オフィスビルからの温暖化ガスの排出を減らすには、省エネに優れるビルへの建て替えを促すため、建築規制を緩める手もある。
東京都千代田区は一昨年、再開発でビルを建て替える際に、CO2の排出を一定以上減らせば容積率を上積みすることを検討した。景観への配慮などから見送ったが、温暖化ガスを減らすにはこうした規制緩和の積み重ねが重要だ。
排出量取引や炭素税の導入は規制の強化といえるが、温暖化対策として有効だ。一方で、企業が温暖化ガスを減らしやすくするには、規制の緩和や撤廃が求められる。政府は柔軟に規制改革に取り組んでほしい。
競争原理を働かせることが低炭素の産業構造への転換を効率的に進める。「25%減」への一番の近道だ。