郵政法案 廃案にして仕切り直せ

2010-06-11 | 政治

郵政法案 廃案にして仕切り直せ
【社説】中日新聞2010年6月11日
 郵政改革法案が目指す新たな「郵政像」が見えてこない。利便性向上とは裏腹に、法案は事業の効率化から目をそらし、国民負担を招きかねない。審議も十分でなく、廃案にして仕切り直すべきだ。
 衆院総務委員会での法案審議はいかにも乱暴だった。審議わずか一日。しかも強行採決で参院に送られた。「だれのための見直しか」「利益誘導ではないか」。野党議員の質問が見直しの本質を突いている。
 法案は亀井静香郵政改革担当相が代表を務める国民新党の選挙基盤、全国郵便局長会(全特)の要望が広く採り入れられている。
 郵便貯金は毎年十兆円、金利など条件のよい金融機関への流出が続く。収益の七割を郵貯と簡易保険の委託手数料に頼る郵便局の死活問題になりかねない。
 そのためだろうか、全特の求めに応じ「政府が日本郵政の株を、日本郵政が子会社のゆうちょ銀行とかんぽ生命の株を保有し一体化する」「郵便局の維持費を賄うため、郵貯の預入限度額などを引き上げる」を法案の柱に据えた。
 政府を頂点に組織を固め、限度額引き上げによる資金量増大で収益を回復させるシナリオだ。
 解せないのは法案が経営効率化に一切触れていないことだ。
 一般の企業は採算が悪化すれば経営のスリム化に迫られる。郵政事業も国民の利便を損ねないよう、至近距離に集中する郵便局の統合など、工夫できるはずだ。全特に三十万の組織票を動かす力があるにしても、合理化の素通りは露骨に過ぎる。
 原口一博総務相も「経営が立ち行かなくなれば税金を投入せざるを得なくなる」と語っている。合理化を促すこともせず、国民につけを回すとでもいうのだろうか。
 民主党の小沢一郎前幹事長は全特の定期総会で「今国会での成立を約束する」と言い切った。法案が参院選を有利に運ぶための道具であってはならない。
 郵政はどう変わるのか。短時間の審議では議論は詰まらないし、国民にも容易に伝わらない。見直し後については、亀井氏ですら「どのくらいの黒字になるか分からない」とあいまいだ。
 菅直人首相は「行政の透明化」を内閣の基本方針に掲げた。その方針に沿えば、透明度が低いまま法案成立には走れない。いったん廃案にし、仕切り直すのが筋だ。
 首相はまず拙速を排し、開かれた国会審議を貫いて国民と政策との距離も縮めるべきだ。

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