
低価格車、インドが主戦場に トヨタとホンダが新型披露
朝日新聞2010年1月5日23時47分
5日開幕したインドのモーターショー「オート・エキスポ2010」で、トヨタ自動車とホンダが新興国向けの安い小型車を初公開した。両社にとって、中間所得層が急増する新興国に本格参入する転機となる。だが、スズキなど4社が8割超を占める市場に食い込むには工夫が必要だ。
■大きな潜在需要を争奪
「トヨタだけが提供できる世界クラスの品質を保証します」。5日の記者発表でトヨタのインド現地法人の中川宏社長は、そう力説した。
2年に1度のインドのモーターショーにトヨタが出展するのは2002年以来8年ぶり。新興国向け低価格車「Etios」(エティオス)はハッチバックタイプ(排気量1.2リットル)とセダンタイプ(同1.5リットル)の2種類で11年に発売する。ホンダも11年に発売する新型小型車のコンセプトモデルを発表した。
インド市場での売れ筋は30万~50万ルピー(約60万~100万円)程度の小型車だ。両社とも新型の小型車は、中間所得層にも手が届く50万ルピー(約100万円)以下に価格を抑える。
トヨタやホンダの本格参入について、トヨタブースを取材したインド人ジャーナリストのクリント・トーマスさんは「すべては価格次第。トヨタなど日本の車は耐久性が高く中古車として高く売れることも、買う際に考える。40万ルピーなら買いだが、50万ルピーなら高すぎるかも」と話す。
インドでは、80年代に進出したスズキの子会社「マルチスズキ」が5割近いシェアを持つ。他の日本メーカーはこれまで、インドなど新興国への進出に及び腰だった。低価格競争になりやすく、1台当たりの利幅が薄くなるからだ。マルチスズキの小型車の利幅は1台当たり数万円だという。
しかし、トヨタなどが力を入れてきた北米市場はリーマン・ショック後の販売不振にあえぎ、日本市場も頭打ち。世界の自動車メーカーの覇権争いは、中国やインドなど潜在需要の大きな新興国で、いかにシェアを取れるかに移っている。避けてきた新興国市場が、いつのまにか命運を左右する主戦場になってしまったわけだ。
■部品の地元調達がカギ
出遅れた日本メーカーは、インドでの生産拡大を急いでいる。だがインド市場で、安い車づくりにたけているスズキに対抗し、トヨタやホンダがシェア拡大を図るのは容易ではない。
トヨタがこれまでインドで生産してきた中型セダン「カローラ」は約100万ルピー(約200万円)、ホンダが昨年発売した排気量1.2リットルの小型車「ジャズ」(日本名フィット)でも約70万ルピー(約140万円)だ。
すでに売れ筋価格帯に豊富な車種を持つスズキとの差は、現地での部品調達率にある。スズキが30年かけて現地の部品メーカーを育成し、現地調達率を9割以上にしたのに対し、トヨタやホンダは7割前後。新興国での生産でも日本並みの品質を追求してきたからだ。
安い車を作るには、発想の転換が迫られる。「零下30度でも一発でエンジンがかかるような車はインドでは過剰品質。その国の材料で作らないと戦えない」。ホンダのインド法人の武田川雅博社長はそう話す。これまで自動車の鋼板は日本製を使うのが一般的だったが、新型小型車にはインド最大手のタタ製鉄など地元の鉄鋼会社の安価な鋼板を多く使うことも検討するという。トヨタも「これからは現地に視点を合わせた開発をしていく」(岡部聡専務)と、現地調達率を上げていく方針だ。
トヨタ、ホンダの「2強」を迎え撃つスズキは今回、これまでになかった6人乗り小型車のコンセプトモデル「R3」を発表。新たな顧客を開拓したい考えだ。(ニューデリー=久保智、高野弦)