團十郎襲名延期、仕切り直し「忍耐強く」
2020年4月20日 中日新聞 夕刊
冒頭画像;「十三代目市川團十郎白猿」襲名披露公演についての記者会見を終えた市川海老蔵と長男の堀越勸玄(手前)=2月、東京・丸の内で
人通りがなく、ひっそりとした歌舞伎座=東京・銀座で
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、歌舞伎の市川海老蔵(42)が大名跡を継ぐ「十三代目市川團十郎白猿襲名披露」公演が延期になった。東京・歌舞伎座で5~7月に予定されていたが、政府の緊急事態宣言発令を受けて松竹が発表した。コロナとの闘いは長期化するとの見方もあり、襲名披露公演の日程は不透明だ。
東京・銀座の歌舞伎座。緊急事態宣言が出たこともあり人通りはまばら。通常なら張り出されている次回公演の告知もない。近くの食品関係の店舗従業員は「延期は残念ですが、コロナ終息が最優先。せめて七、八、九月あたりにスライドしてもらえれば」と話す。 「世の中が疲弊している時なので、延期はもっともな決断だと思う」
初代團十郎以来、市川家とゆかりのある成田山新勝寺(千葉県成田市)企画課の中村照丸(しょうがん)さん(56)はこう話す。
同寺では、海老蔵と長男堀越勸玄(7つ)がお練り参拝する「襲名奉告参拝」を二十五日に予定していたが、延期した。「皆さんがお祝いできる状況になったら仕切り直して、心新たにバックアップさせていただきたい」
襲名を前に昨秋、同寺で護摩焚(だ)きなどの修行を行い、「初代團十郎の足跡が確実に見えた」と語っていた海老蔵。緊急事態宣言が発令された七日夜、ブログで「なによりもお客様(さま)と役者や裏方スタッフ、歌舞伎に関わるすべての方、そして、その先にいらっしゃるすべての方々の健康と安全を考え、止(や)むなく延期とさせていただきます」と報告した。医療崩壊が懸念される中での宣言だったが、「この先、感染がさらに拡大し日本の医療が崩壊するようなことが起こっては絶対にいけない。そのために私たちひとりひとりが自制し、忍耐強く、新型コロナウイルスに立ち向かうしかないと思っています」と心境をつづり、最後に「私は、また舞台に立つその日まで日々精進を続けてまいります。(中略)近い将来、劇場でお会いできる事を願っています」とした。
松竹は「襲名披露の延期が決まっただけで、ほかは未定」としているが、日程をどうするか、穴があいた五月以降の公演をどうするかなどの対応に追われている。
では日程はどうなるのか。延期が決まった東京五輪・パラリンピックと同じように「一年延期して来年五~七月くらいでは」との見方も出ている。市川團十郎家、尾上菊五郎家ゆかりの演目が並ぶ「團菊祭」が歌舞伎座の五月公演として毎年恒例となっていることから「やるなら五月スタートがふさわしい」と指摘する声も。
先の見通しが立たない中で、五月以降に代替公演をやるとしても、演目の決定、役者の手配などがあり、そう簡単にはできない事情がある。
今夏は七年ぶりの「團十郎」復活で歌舞伎界は大いに盛り上がるはずだったが、コロナ禍に巻き込まれてしまった。
(山岸利行)
<十三代目市川團十郎白猿襲名披露公演>
5~7月に東京・歌舞伎座で予定され、「勧進帳」「助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)」「暫(しばらく)」など、市川團十郎家ゆかりの演目を上演予定だった。海老蔵の長男堀越勸玄も八代目市川新之助を同時襲名し、長女市川ぼたんも出演予定だった。
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です