「大変だ、ブレーキが利かない」トヨタの高級車レクサスが暴走し4人が亡くなった事故

2010-02-03 | 社会

トヨタは隠さずとも隠れていたのだと英語メディア
 2010年2月3日(水)10:25
■本日の言葉「underestimate」(過小評価する)■
 英語ニュースが伝える「JAPAN」をご紹介する水曜コラム、今週はトヨタ自動車のリコール問題についてです。「品質のトヨタ」と自分たちがあれだけ評価していたトヨタについて、「トヨタは隠蔽を否定している」などとわざわざ記事で書かなくてはならない状況に、英語メディアも驚き呆れ、そして残念に思っている。なぜこうなったか、それはトヨタが「拡大しすぎたからだ」「問題から隠れていたからだ」と分析する複数記事の行間からは、そんな思いがにじみ出ています。(gooニュース 加藤祐子)

「大変だ、ブレーキが利かない」
 ニューヨーク・タイムズが1月31日、トヨタ自動車の大規模リコール問題について、恐い書き出しの記事を掲載しました。「死に至る問題にトヨタの気づきは遅く(Toyota’s Slow Awakening to a Deadly Problem)」という見出しで、昨年8月28日にカリフォルニア州サンディエゴ近くの高速道路から入った緊急電話の内容が生々しく書かれているのです。スピードが出過ぎて制御不応になった車内から、パニック状態の男性の声で、
 「レクサスに乗ってる……125号で北に向かってて、アクセルが固まってる…大変だ…ブレーキが利かない…もうすぐ交差点だ…つかまって…つかまって祈って…祈るんだ…」
 この通話は、大きな衝突音で終わったというのです。乗っていた非番中の高速警察警官と妻、娘と義理の弟の計4人は全員死亡。フェンスに激突して横転炎上した車は、トヨタのレクサスES350だった。この事故が、トヨタ自動車が北米など世界各地で実施している大規模リコールの直接的なきっかけとなりました。
 ニューヨーク・タイムズの記事はこうも書いています。「現在の苦境に至るまでトヨタはずっと、ほぼ全段階において、自分たちの人気車種がいきなり加速するという問題の深刻さを、過小評価(underestimate)していた。初期段階の問題報告をたいしたことはないと受け止め、そして自分たちの分析結果を過信して不十分な解決策を堂々と発表していた」
 1年前となんという違いでしょう。「What a difference a day makes (1日でこんなに変わるなんて)」という古いスタンダードナンバーがありますが、それを1年に引き延ばすと、「What a difference a year makes」。まさにその思いです。「品質のトヨタ」について、英語メディアがこんな書き方をするようになっているとは。
 1年前、危急存亡の危機に直面していたのは米デトロイトのビッグスリーで、その余波を受けてトヨタ自動車がついに「世界最大の自動車会社」の地位を獲得したところでした。1年前、GMやクライスラー製品がいかにひどいかあげつらう材料として、米メディアはトヨタの優秀さをさかんに強調していたのに。
1年でこんなに変わるなんて
 けれども今、世界中のマスコミに「大丈夫なのか」と心配されているのはGMではなく、トヨタです。しかもその直接的原因となったアクセルペダル不良問題の遠因は、そもそも「世界最大」を目指したからだと。たとえばこちらのフィナンシャル・タイムズの解説記事などによると、事業拡大を重視するあまり、そもそもトヨタを世界のトヨタたらしめていた「高品質」が犠牲になったのではないかと。英語記事でも「Kaizen」とそのまま表記されるトヨタ方式が生産ラインの全てで徹底されなくなった。外国で部品を地元調達するため、信頼できるファミリー企業との間にあったような緊密な関係性が期待できない現地メーカーを使うようになった。コスト削減のためプラットフォームや部品の共有化を進めたため、いざ部品に不具合が出るとあまりに多くの車種に影響がでてしまう。よって今回のような500万台を超える大規模リコールになってしまったと。
 こうした記事を読みながら私は「ローマ帝国だ」と思いました。拡大・膨張しすぎたが故の分裂・衰退は歴史の常だと。古代ローマの興亡について最初に教わったのが小学校のときで、それだけに印象が強かったのか、JALの破綻にしろ、今回のトヨタ自動車のリコール問題にしろ、「過剰な事業拡大」が問題原因として挙げられると、すごく腑に落ちるものがあります。
 そして、そう。日航の次はトヨタよ、お前もか——という印象を受けます。英語メディアを通じて日本企業のニュースを見ていると。共に、利用者の生命に関わる商品を提供する会社ですが、その商品が日本人以外の生活に入り込んでいるという意味では、トヨタの影響の方がはるかに深刻です。
 英タイムズ紙のリオ・ルイス記者は拡大しすぎたトヨタのことを「a company that had expanded beyond its comfort zone」と書いています。「comfort zone」というのはよく使う表現で、自分なり組織なりが無理をせずに健やかでいられる範囲という意味(悪い意味では「安全地帯」とか「ぬるま湯状態」とか、守りに入っているという意味にもなります)。トヨタがトヨタらしくいられる範囲を逸脱して無理している会社を、豊田章男社長は昨年受け継いだのだと。そしてその新社長自ら、自分がトップに立つや否や、トヨタは「規律なき規模の追及」段階を経てすでに「企業の存在価値が消滅する」寸前にあると語っていたのです。
隠さなくても隠れていたのか
 フロアマットにからまったり結露などが原因でアクセルペダルが固まって動かなくなる、制動ができなくなる。こんな恐ろしい事態が実に10年前から報告されていたかもしれない。それについてトヨタはどう対応してきたのか。米連邦議会は公聴会を予定していますし、北米では集団訴訟も提訴されました。「cover up(隠蔽工作)」という、トヨタを信じたい人にとっては実におぞましい言葉さえ、英語メディアやブログには飛び交っています。
 英タイムズ紙のこちらの記事では、東京のアトランティス・インベストメント・リサーチ社のエド・マーナー社長がこうコメントしています。「トヨタは問題から長いこと逃げ隠れしていた(They hid from the problem for a long time)」と。「問題に全力で取り組まず、全力で対応しなかった」と。
 「cover-up(隠蔽)」はなかったと、トヨタ幹部ははっきりと否定していると、それは英語メディアも書いています。しかし冒頭で書いたようにそもそもトヨタについてそんなことが書かれること自体が異様です。そして問題を隠してはいなかったにせよ、自分たちが「they hid from the problem(問題から逃げ隠れてしていた)」というのが、現時点での英語メディアの総評だと言えます。
 トヨタ車に乗るひとりとして、「世界のトヨタ」は出荷台数でなく品質でこそ世界に冠たるトヨタなのだと、そういうポジションを早く取り戻してもらいたいと願っています。
<筆者プロフィール>
 加藤祐子 東京生まれ。シブがき隊と同い年。8歳からニューヨーク英語を話すも、「ビートルズ」と「モンティ・パイソン」の洗礼を受け、イギリス英語も体得。怪しい関西弁も少しできる。オックスフォード大学、全国紙社会部と経済部、国際機関本部を経て、CNN日本語版サイトで米大統領選の日本語報道を担当。2006年2月よりgooニュース編集者。フィナンシャル・タイムズ翻訳も担当。英語屋のニュース屋。
 ◎上記事の著作権は[gooニュース ニュースな英語]に帰属します
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米カリフォルニア州、トヨタの高級車レクサスが暴走し4人が亡くなった死亡事故


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