裁判員裁判 検察側論告
2009.8.5
概要
本件は、以前から被害者に対して不満を持っていた被告が、事件当日、被害者と口論になり、被害者を刺すしかないなどと考え、殺意をもって、サバイバルナイフで、被害者の胸や背中などを刺して死亡させたという殺人事件です。
この事実は、これまでに取り調べられたさまざまな証拠によって、いずれも十分に証明されたものと検察官は確信しています。
また、この事件については、殺意が存在することについては争いもありません。
殺意の内容
ただ、殺意の内容、すなわち、どのような殺意であったのかという点については、若干の争いがあります。
すなわち、弁護人は(検察側が冒頭陳述で示した)殺意を裏付ける事実のうち、第1から第4の事実は認めますが、第5の「犯行時の言動」について、「ぶっ殺す」とは言っていない、被害者を追いかけてはいないと主張するとともに、このような事実がないことを前提に、「自らの行為が被害者を死に至らしめるかもしれないという認識があったにすぎない」という程度でしか認められないと主張しています。
ですが、検察官はこれらのうち、「ぶっ殺す」とか、追いかけたという「犯行時の言動」についてはもちろん、弁護人が争わないその他の事実、例えば、被害者が負った傷のことなども立証することによって、被告が「ほぼ確実に死ぬ危険な行為をそれと分かって行った」のは明らかであることを主張・立証しました。
そこで、これから、これまでの審理を踏まえ、5つの「殺意を裏付ける事実」に関して、どのような事実が認められるのかを改めて簡単にご説明します。
(1)凶器の形状
まず、被告が使用した凶器は、刃の長さが最大で10・4センチメートルの先端がとがった鋭いサバイバルナイフでした。
このような危険な凶器を使って、被害者に攻撃を加えること自体が「人が死ぬ危険性の高い行為であると分かって行った」ことを認める根拠となります。
裁判員の方々には、これから行われる評議の際に、もう一度、サバイバルナイフの実物をしっかり見ていただくことをお願い致します。
(2)傷の位置・程度、個数
次に、被害者には胸、背中、肩、左腕など傷が8カ所あります。
このうち、左胸には2カ所の刺し傷がありますが、そのうち致命傷の一つになった深い方の傷は8センチメートル以上、もう1カ所も約7・6センチメートルの深さがあります。
もう一つの致命傷の背中の刺し傷は深さ10・5センチメートルの傷です。
これは、サバイバルナイフの刃の最大長とほぼ一致していて、強い力で刺したことが認められます。
このように複数の、しかも深い傷があることからも、被告が強い力で、被害者を前からも、防御不可能な背中からも刺したことは明らかです。
以上の上半身の深い傷のほかにも、被害者には、身体を刃物から守ろうとしたときにできたと考えられる左手の傷だけでも、3カ所も傷があります。
これは、被害者が手などを使って必死に身を守ろうとしていたにもかかわらず、被告が被害者の上半身を狙って攻撃を加えたことを物語っています。
(3)犯行態様
次に、被告は被害者方前付近路上において、正面に向かい合うようにして立っていた被害者に対し、右手に持っていたサバイバルナイフを、手加減せずにその胴体に向けてまっすぐ突き出してその胸を刺しました。
そして、被告は引き続き、被害者の胸、肩、背中、左腕を1回目を含めて合計5回以上も突き刺しました。
上半身を狙って、サバイバルナイフで5回以上も突き刺す行為をみても、人が死ぬ危険が高い行為であると当然に分かっていたことは明らかです。
以上の凶器の形状、傷の位置・個数、犯行態様だけを見ても、被告に殺意が認められることは明らかです。
(4)殺害動機があること
被告は、本件より以前、被害者との間でオートバイの駐車方法や植木のことなどをめぐって口論となったことがあり、被害者に対して、顔も見たくないと思うほどの強い不満と怒りを感じていました。
また、被告の法廷での供述でも明らかなとおり、被告は前日、競馬に負けてやけ酒を飲んで騒いでおり、ムシャクシャした気持ちを引きずったまま、犯行当日も迎え酒を飲んでいました。
本件は、被害者をサバイバルナイフで脅したのに被害者がひるまなかったため、引っ込みがつかなくなった被告が、これまでの不満や前日からのムシャクシャした気持ちを爆発させるとともに、乱暴な性格と相まって、こうなったら被害者を刺すしかないなどと考えたもので、被害者殺害につながる動機も認められます。
(5)犯行時の言動
被告は、被害者を刺す場面や追いかける場面で、「ぶっ殺す」と数回言っていました。
このことについては、被告・弁護人側と検察官とでは争いがあります。
ですが、このことはAさんの証言により明らかです。
Aさんは、被告とは何らの利害関係もない、全く中立な第三者で、被告に不利となるうそをつく理由は全くありません。
次に、被告はサバイバルナイフを持ったまま、犯行現場である被害者方前から、路地を南の方に行ったCさん方前路上まで被害者を追いかけました。
このことについても被告・弁護人側と検察側とでは争いがあります。
ですが、このことは、Cさんの証言により明らかです。
Cさんは、自宅前の路上でナイフを手に持った被告が立っているのを目撃し、西の方に走っていく被害者に対して、「クソババア」と怒鳴るのを聞いたと証言しました。
この証言は非常に具体的ですし、Cさん自身、利害関係もない中立な第三者で、被告に不利となるうそをつく理由も全くありません。
また、Cさんは事件後すぐ、現場にやってきた警察官に、ナイフを持った被告が被害者を追いかけていたのを見たと話していますし、Bさんにも話しています。
さらに、Cさんは視力が両目とも1・5もある上、被告がCさんの家の前にいたのを見たときの被告とCさんとの間の距離は、約3メートルしか離れていませんでした。
そして、Cさんは近所同士で、被告の顔はよく見知っていましたから、Cさんが被告と他の人を見間違えることもありません。
このように、被告は被害者をサバイバルナイフで刺しただけではなく、その後もナイフを持ったまま、被害者のことをCさんの家の前まで追いかけていっていたのです。
被告は「ぶっ殺す」と言ったこと、被害者をナイフを持ったまま追いかけていることを見ても、被告が強い攻撃意思を持ち、それをある程度の時間継続させていたことは明らかです。
(6)小括
以上説明したとおり、犯行時の言動や犯行の態様、傷の位置・程度・個数といった点、そのうちでも特に、心臓を一突きにするなどといった犯行態様だけをみても、被告は、検察官が主張するところの「ほぼ確実に死ぬ危険な行為をそれと分かって行った」という程度の強い殺意が認められます。
弁護人は、「被害者を死に至らしめるかもしれないという認識があったにすぎない」という程度でしか認められないと主張していますが、そのような弱い殺意であるとは考えられません。
情状関係
それでは次に、検察官が本件の量刑を決めるに当たって特に重要だと考える以下の5つの情状につき述べていくこととします。
(1)サバイバルナイフで多数回にわたり、一方的に繰り返し刺すなど、犯行態様が執拗(しつよう)かつ残忍
被告は、女性であり、しかも高齢期にあって、暴力的攻撃に対し肉体的に弱い被害者に対し、サバイバルナイフで一方的に胸、背中などを多数回にわたって繰り返し刺して死亡させました。
その傷も身体の奥深くまで8センチから10センチも刺さっているほどのものが複数あるなど、手加減のかけらもないものでした。
被告は被害者の胸を刺したときのことにつき、ナイフを持った指に柔らかいものが当たったという感触をこの法廷で生々しく語りました。
このことからも、被告が手加減せず、ナイフの根元まで強く刺したことは明らかです。
そして、その傷の中には心臓と肺動脈のつなぎ目に達しているもののほか、背中から体内に奥深く刺さっている致命傷もあります。
逃げようとして背中を向け、無防備になっているにもかかわらず、被告はその背後から被害者を刺しているのです。
それだけでなく、被害者には、身体をかばおうとしてできた防御創までありました。
加えて、被告はCさんの家の前までサバイバルナイフを持って逃げる被害者を追いかけており、その攻撃意思のしつこさも明らかで、悪質です。
そして、被告が強い殺意をもって被害者を突き刺したことは、先ほど述べたとおりです。
このような態様がしつこく残忍なものであることは明らかです。
(2)被害者を殺害しており、生じた結果重大
被告の犯行により、被害者は突然、命を奪われました。
被告のことを警戒し、接触を避け、トラブルになるまいとしていたのに、ある日、突然、口論がきっかけでサバイバルナイフで刺し殺されてしまった被害者の無念は明らかです。
また、息子さんお二人や、被害者を頼りにしていた被害者のお母さん、さらには、被害者の弟、妹さんらのご遺族にとっても、突然、一方的に被害者の命を奪われたことによって生じた影響や結果は重大です。
さらに、被告が突然、被害者を殺害した上、その場から逃げたことは、Aさん、Bさん、Cさんの証言からも明らかなとおり、平和に生活していた近隣住民の方々に対しても、不安感や恐怖感を与えるなど、大きな影響を与えました。
その意味からしても、被告が被害者を殺害したことによって生じた結果はやはり重大です。
(3)サバイバルナイフを持ち出すことだけでも正当化する余地がないのに、メンツをつぶされたなどと考えて犯行を決意して殺害しており、動機が短絡的で酌量の余地乏しい
被告はサバイバルナイフを見せたのに、被害者が言うことを聞かなかったため、メンツをつぶされたなどと考えて犯行に及びました。
近隣住民間でトラブルがあったからと言って、サバイバルナイフを持ち出してきて相手を脅したりしてよいはずがありません。
近所の人との間で口論をしたとき、相手がいきなりサバイバルナイフを持ち出してきたら、皆さん、どう思うでしょうか。
安心して生活することもできません。
まして、被告のこの法廷での供述によれば、被告は被害者とはこの数年間、ほとんど会ったことすらなく、被害者に文句の1つも言うこともなかったのに、前日に競馬で負け、やけ酒を飲んでムシャクシャしていたところに、被害者と目が合うとすぐに被害者にペットボトルが倒れていることに文句をつけました。
しかし、ペットボトルが倒れていたのは数日前のことだというのです。
それなのに、被害者と口論となると、被告はサバイバルナイフを持ち出してきただけでなく、それを使い、被害者を何回も突き刺し、殺害したのです。
この被告の行動は、まさに八つ当たり以外の何物でもありません。
そもそも被害者には、被告から脅されなければいけない理由もありません。
まして、殺されても仕方がない事情など全くありません。
ペットボトルを倒したのが被害者だなどという証拠はありませんし、バイクのとめ方や、植木の置き方が悪いからと言って、ナイフを突き付けたり、刺したりすることが許されるはずはありません。
それなのに、自分のメンツのため、被害者を殺害した被告の動機に同情する余地は乏しいとしか言いようがありません。
なお、被告や弁護人は、事件を引き起こした原因は被害者側にあったとし、被害者をサバイバルナイフで脅したところ、ひるまず「やるならやってみろ」と言い返され、さらに、被害者が被告のあごを押したり、右肩をつかんだりしてきたため、刺すしかなかったなどと主張しています。
また、被告は被害者から生活保護をもらっていることをバカにされてカチンと来たとも話しています。
しかし、被害者が「やるならやってみろ」と迫ってきたという話や、被害者から押されたりしたとか、生活保護をもらっていることを被害者からバカにされたなどという話は、被告がそう言っているだけです。
被告は捜査段階では、被告自身、よく話を聞いてくれ、そのとおりに調書に取ってくれたと認めている検事に対して、被害者が被告のあごを押したり、右肩をつかんできたとも、生活保護をもらっていることで被害者からバカにされたなどとの話を全くしていません。
そして、被告自身、捜査段階ではそういう話をしていなかったことも認めています。
被告は、捜査段階で殺意を否認していました。
もし、本当に被害者が生活保護をもらっていることで被告をバカにしたとか、被害者がつかみかかってきて、被告のあごを押したり、右肩をつかんだりしてきたなどということがあったのであれば、自分に有利となるこれらの話をしないなどということはあり得ません。
それに、被告が刑務所から出てきた後、被告とほとんど会っていなかったという被害者が、被告が生活保護をもらっているかどうかを知っているということも信じられない話です。
逆に、被害者のご長男は、被害者はトラブルに巻き込まれないよう被告を避けていたし、被害者がそんなことを言うはずがなく、被告が責任を被害者に押しつけようとうそをついているのだと証言しています。
確かに被害者は夫を早くになくし、女手一つで2人の男の子を育ててきたわけですから、苦労も多かったはずです。
その点から見ても、気が強い側面があったかもしれません。
そうだとしても、ナイフを持った前科のある男が目の前にやってきているのに、高齢の女性が「やるならやってみろ」と言い返すとか、まして、自分から先に男につかみかかっていくなどとは到底信じられません。
Aさんも「ぶっ殺す」という男の声の前に聞いた女の人の声は「…でしょ」という言葉だったという記憶があるだけで、「やるならやってみろ」などという言葉は聞いていないと明確に証言しています。
ところで、先ほどお話ししたとおり、被告はこの法廷で、被害者があごを押してくるとともに、被告の右肩をつかんできたので、やむを得ず、被害者を刺したという弁解をしています。
しかし、そのように、被害者が両手を被告の方に出してきていたときに、被告が被害者をナイフで刺したのだとすれば、その時、被害者は、被告の右肩を左手でつかんできているのですから、被害者の左手に防御創があることの説明がつきません。
このことから考えても、被告の弁解はやはり信用できません。
結局、被告がこの法廷で突然言い出した、被害者が先につかみかかってきたとか、被害者から生活保護をもらっていることをバカにされたとか、捜査段階の「やるならやってみろ」という話は、到底信じることができません。
さらに、仮に被告の捜査段階の主張のように、「やるならやってみろ」と被害者が言ったということがあったとしても、近隣住民間での口論の場に、ナイフを持ちだして人を脅すようなことは絶対に許されず、そのことを棚に上げ、被害者側に事件を引き起こした原因があるかのように言うこと自体、おかしな話です。
(4)各遺族の処罰感情が極めて厳しい
被害者は被害者たち家族の要でした。
被害者は早くにご主人を亡くした後、女手一つで整体師などとして働いて生計を立てるとともに、お二人のお子さんを立派に育て上げました。
また、被害者は長女として弟、妹さんの面倒を見るだけでなく、家事もよくやる親孝行な人で、最近でも近くに住む高齢のお母さんを病院に連れて行ってあげたり、尽くしてあげていました。
そのため、被害者はお母さんからも、お子さんからも、弟、妹さんからも、被害者たちご家族のだれからも慕われていました。それなのに、その被害者を突然奪い去られた被害者のご家族のみなさんの無念さは察するに余りあります。
この点について、まず、被害者のお母さんは被害者について、事件当日は病院に連れて行ってくれる約束だったのに、その前に殺されてしまったことの無念さなどを訴えた上で、「私にとって本当に生きる支えでした。それなのに殺されてしまいました。本当に悔しくてしかたありません」と言うとともに、被告に対して極めて厳しい処罰を求めています。
また、被害者のご長男も、被害者が突然殺され、本当にショックを受けたことを訴えるとともに、被告に対する処罰について、「本当に藤井のことは絶対に許せませんから、一生出てこられないように徹底的に厳しく処罰してください」などとおっしゃっています。同様に、被害者のご次男も、被告に対する厳しい処罰をこの法廷で求めておられました。
以上のとおり、各遺族の処罰感情は極めて厳しいところです。また、被告がしたことや被害者を突然奪われたご遺族の悲しみ、無念を考えれば、処罰感情が極めて厳しいのは当然ですし、このようなお気持ちを十分に考慮していただく必要があると考えます。
(5)傷害致死も含め、粗暴犯の前科多数である上、累犯前科もあるにもかかわらず、犯行を敢行しており、規範意識極めて希薄で、再犯のおそれ大
被告が他人の命を奪ったのは、今回が初めてではありません。
弁護人が指摘するとおり、確かに40年以上昔のことですし、前科があることを過度に強調するものではありませんが、被告には傷害致死の前科があります。
普通、人の命を奪うなどということは一生のうちに一度もないことですが、被告はそれを2度も犯しているのです。
また、被告にはそれ以外にも粗暴犯、つまり傷害などの暴力的な犯罪などの前科がありますし、前の前科で刑務所から出てきてから5年経っていません。
このように刑務所から出てから5年以内に再び、罪を犯した場合は累犯前科があると言われ、原則、また刑務所に入れられることになります。この場合には、刑の重さを検討する際、刑を重くするとされています。
なお、弁護人は、被告の犯罪歴は本件犯行とは関連性がないと主張しています。しかし、傷害致死のときも、前の前科のときも、被告は飲酒して犯行に及んでおり、いずれも酒がからんだ事件でした。
また、被告は傷害致死のときも、隣人にプロレス技をかけて後ろに逆さまに落とし、首の骨を折って死亡させています。このときも酒を飲み、前後を考えず、そのような危険なことをし、人を死亡させたという点で、本件と類似性・関連性はあると考えます。
以上の被告のこれまでの行動などからみれば、被告に規範意識、つまり法律で決められたしてはいけないとされていることをちゃんと守ろうという意識が極めて乏しいことは明らかですし、それだけ被告による再犯のおそれ、つまり、被告がまた罪を犯す恐れが大きいことは明らかです。
なお、この法廷での被告の供述を見ても、被害者のことをむしろ悪く言うところさえありますし、信用できる証人の証言と矛盾することを言うなど、本当に反省しているのか疑問を持たざるをえないところです。
ですから、被告による再犯を防ぎ、近所の人たちといった他の人の安全、安心を守るためにも、被告に対しては相当長期間、刑務所に収容することが必要です。
求刑
被告に科すべき刑について、検察官の意見を申し上げます。
まず、被告が犯した殺人罪に対する刑罰は法律上、死刑または無期懲役もしくは5年以上の懲役と定められています。
本件では、確かに事件を起こすまでのいきさつから言って、計画的に行われた犯行とはいえません。
また、近所のトラブルが背景にある事件ですし、被害者との間の口論がたまたま発展してこういう事件につながってしまったという面もあります。
さらに、被告は高齢でもあります。
このように、本件には被告に有利な事情も認められます。
ですから、被告に死刑や無期懲役の処罰まで求められるのは、やや重く、被告に対する処罰は有期懲役刑の範囲で下されるべきと考えます。
その場合、被告には先ほど申し上げた累犯前科もありますから、刑が重くされる結果、懲役5年以上30年以下の範囲で被告に対する処罰が決められることになります。
被告にとって有利な事情もある一方で、先ほど申し上げたようにサバイバルナイフで多数回にわたり、一方的に繰り返し刺すなど、犯行態様がしつこく残忍であることや、生じた結果が重大であること、動機に同情の余地が乏しいこと、遺族の方々の処罰感情が極めて厳しいこと、被告には傷害致死も含め前科が多数あり、累犯前科もあるのに本件事件を起こしていて、再犯のおそれも高いことといった被告に不利な事情もあります。
以上の被告に有利、不利な事情のすべてを考えた結果、検察官としては有期懲役刑を選択した上で、被告を懲役16年に処し、サバイバルナイフの没収が相当であると考えます。 (産経ニュース)
――――――――――――――――――――――――
初の裁判員裁判 開廷 立証、視覚に訴え 東京地裁 殺人事件を審理
2009年08月04日 19:18
6人の有権者が重大な刑事事件の公判に加わる全国初の裁判員裁判が3日午後、東京地裁(秋葉康弘裁判長)で開かれた。市民が法壇に並ぶのは1943年の陪審制度停止以来、66年ぶり。午前中の裁判員選任手続き(非公開)で決まった女性5人、男性1人が、裁判官3人とともに殺人事件を審理した。
検察、弁護側とも視覚に訴える図や写真を多用し、難解な法律用語の使用を避け「です、ます調」で話すなど裁判員に分かりやすい主張を展開。審理は計約2時間で終わったが、3回の休憩を挟み裁判員の負担を軽減した。判決は6日。
目撃者の証人尋問もあったが、裁判員から質問は出ず、遺体の写真に目を背ける裁判員もいた。
審理対象は、東京都足立区で5月、はす向かいに住む韓国籍の整体師文春子さん=当時(66)=を刺殺したとして、無職藤井勝吉被告(72)が殺人罪に問われた事件。被告は起訴内容を認め、量刑の判断が焦点になる。
この日、東京地裁で最も広い104号法廷(傍聴席98)に入った裁判員6人は、裁判官3人を挟むように左右二手に分かれ、緩い円弧状の法壇に着席。正面向かって左側に女性の裁判員3人、右側に女性裁判員2人、男性の裁判員1人が一列に並んだ。
補充裁判員3人はいずれも男性で、その後方に座った。
予断を与えないよう、裁判員の入廷前に被告の手錠と腰縄が外された。
弁護側はモニターで図解を見せながら、以前からの近隣トラブルが背景にあり、積極的な殺意はなかったと訴えたのに対し、検察側は「ほぼ確実に死ぬ危険な行為と認識して刺した」と反論。
検察側は「殺意には強いものから弱いものまで濃淡がある」と平易な言葉で述べ、イラストなどで致命傷の刃の向きや深さが分かるように工夫、強い殺意があったことを訴えた。
裁判員は双方の主張に真剣に耳を傾け、メモをとる姿も見られた。
検察側は証拠説明の中で「ショックでご覧になりたくないかもしれないが、重要な証拠なので見てください」と断り、被害者の遺体の写真を裁判員らの手元にある小型モニターに表示。顔を背けるようなそぶりを見せる女性裁判員もいた。
× ×
●事件の概要
東京地裁で3日始まった裁判員裁判第1号の事件概要は次の通り。
検察、弁護側双方で争いのない点として、藤井勝吉被告(72)と被害者の女性は幅約2・3メートルの路地を挟んではす向かいに居住。被告は数年前から、女性が自宅前の路地にバイクや植木鉢を置いているのを邪魔だと思っていた。注意をしても言い返され、女性を嫌っていた。
5月1日午前、被告が外出した際、自宅前の路上で被害者と出くわし、注意をすると、口論になった。被告はいったん自宅に戻り、持ち出したサバイバルナイフで、被害者の胸や背中などを何度も刺して殺害した。
検察側は「被告は口論で『ぶっ殺す』と言い、刺した後も被害者を追い掛けるなど、強い殺意に基づく執拗(しつよう)で残忍な犯行」と主張。弁護側は「口論で『やるならやってみろ』と言われ、突発的に刺した。死んでほしいとは思わなかった。殺意は弱い」と反論している。
=2009/08/04付 西日本新聞朝刊=
-------------------------