<陸山会事件>「虚偽」捜査報告書…背景に検察内部の「溝」
毎日新聞 5月22日(火)2時30分配信
小沢一郎・民主党元代表の資金管理団体「陸山会」を舞台にした政治資金規正法違反事件を巡り、元秘書の再聴取時に実際にはなかったやり取りが記載された「虚偽」の捜査報告書が作成された問題で、検察当局は月内にも内部調査の結果をまとめる。刑事告発された田代政弘検事(45)は故意の虚偽記載を否定し、当時の上司らも「虚偽とは知らなかった」と説明。刑事責任は問われずに決着する見通しだが、問題の背景には捜査方針を巡る検察組織内部の大きな溝があった。【山本将克、島田信幸、鈴木一生】
規正法違反事件で東京地検特捜部は10年2月、衆院議員の石川知裕被告(38)ら元秘書3人を起訴し、元代表を不起訴とした。だが、東京第5検察審査会は同年4月、元代表を「起訴相当(起訴すべきだ)」と議決。検察に再捜査を求めた。
複数の検察関係者によると、元代表の刑事処分を巡り、検察内部は当時、最高検検事(後に東京地検次席検事)や特捜部長ら「積極派」と、最高検幹部らの「消極派」に分かれていた。石川議員は逮捕・勾留中に「(虚偽記載した)収支報告書の内容を元代表に報告し了承を得た」と供述。積極派は「元代表の起訴は可能」と主張したが、消極派は「石川供述には迫真性がなく有罪立証には弱い」と後ろ向きだった。当時の幹部は「起訴相当の議決が出て積極派は『我が意を得た』と思ったはず」と振り返る。
この背景にあったのが、検察審が「起訴すべきだ」と2度議決すれば強制的に起訴されるという新制度を導入した09年5月施行の改正検察審査会法だ。1度目の議決を受けた再捜査は従来より議決を尊重する必要があり、最高検も同年春、各地検へ同様に通知した。
議決後の再捜査で積極派の幹部らは、田代検事に石川議員の供述を維持させるよう指示。10年5月17日、田代検事による約5時間の再聴取で石川議員は勾留中と同じ内容の供述調書に署名した。
ここで「ボタンのかけ違い」(検察関係者)が起きた。田代検事は「再聴取の後になって捜査報告書の作成を指示された」(内部調査への説明)という。指示通りの供述調書を取ったため証拠価値の低い報告書を作ることまで想定していなかったとみられ、メモも取っていなかった。ある幹部は「再聴取時、2人(石川議員と田代検事)の間では勾留中の取り調べ内容が『大前提』となっていた。それが(報告書に誤って)記載された可能性を否定できない」と指摘する。
一方、当時の佐久間達哉特捜部長(55)ら積極派は田代検事の報告書などを基に、検察審向けに再捜査状況をまとめた別の報告書を副部長名で作成させ、元代表の関与が疑われる箇所に下線を引いた。元代表側から「2度目の議決に影響を与えようとした」と指摘されていることに対し「議決を受け不起訴前提の再捜査はできない。下線は捜査結果を分かりやすく説明するため引いただけ」と主張しているとされる。
だが、検察には「検察一体の原則」がある。検察首脳の一人は「再捜査でも新しい証拠はなかった。検察一体で一度不起訴にした事件は、たとえ新制度の下でも不起訴維持の姿勢が妥当」と指摘。組織の意思から逸脱した積極派を厳しく内部処分する可能性も示唆した。
◇捜査報告書◇
警察官や検事が捜査の経過や結果を明らかにするために作成する公文書。内容は多岐にわたり、裏付け捜査の結果や取り調べ状況のまとめなど。主に捜査指揮の判断材料に使われ、内部文書として扱われることが多い。作成に法的根拠はなく、容疑者や参考人の署名・押印も不要。このため刑事裁判では被告側が同意した場合などを除き、原則的に証拠として使えない。
◇検察一体の原則◇
一人一人の検察官は容疑者の起訴、不起訴を決める権限を持ち(独任官庁)、政府や国会から独立して権限を行使することが保障されている。その一方で、個々の検察官が行き過ぎた事件処理をしないよう、検察庁法は上司の指揮監督も規定しており、この原則を指す。
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石川議員再聴取:担当検事「供述維持、幹部が指示」
毎日新聞 2012年05月11日 03時00分
小沢一郎・民主党元代表の政治資金規正法違反事件に絡み、元秘書で衆院議員の石川知裕被告(38)を10年5月に再聴取した際に「虚偽」の捜査報告書を作成したとされる田代政弘検事(45)が検察の内部調査に「(元代表の関与を認めた)石川議員の捜査段階の供述を維持させるよう一部幹部から指示された」と話していることが分かった。検察当局は指示の意図を確認するため、田代検事の当時の上司らから聞き取りを進めている模様だ。
石川議員への再聴取は、東京第5検察審査会が元代表について最初の起訴相当議決(10年4月)をした後の再捜査時に行われた。複数の検察関係者は「通常こうした再聴取では相手に自由に話をしてもらう」と指摘する。
だが、関係者によると、田代検事は「石川議員の供述を維持させろという一部幹部からの指示があった。別の上司からは『(再聴取を)頑張れ』などと言われた」と内部調査で説明しているという。
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特集ワイド:「小沢元代表は推定有罪」の罪
毎日新聞 2012年04月27日 東京夕刊
資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡り、政治資金規正法違反(虚偽記載)で検察審査会の議決により強制起訴された民主党の小沢一郎元代表(69)に下された判決は無罪。剛腕、壊し屋などダーティーなイメージがある政界実力者なだけに、検察も、民主党も、そしてメディアも、「推定有罪」で小沢元代表を遇してはこなかったか。【瀬尾忠義】
■検察は
◇制度悪用の疑念ぬぐえず−−木谷明さん(元裁判官)
裁判の過程で、小沢元代表の元秘書の衆院議員、石川知裕被告への再聴取で、田代政弘検事が虚偽の捜査報告書を作成し、検察審査会に提出したことが明らかになっている。つまり検察は自らの手を汚さないで、検察審に元代表を強制起訴させたと見られても仕方がない事案だ。検察審は、検察が提出した捜査報告書をウソだとは思わない。もし、検察審が起訴議決すると検察側が見越していたとするならば悪質で、制度を悪用したと言える。無罪判決は当然のことだろう。
元代表に対する検察の対応は重大な人権侵害だ。検察は自らのストーリーに沿った事実とは違う調書を作成することに抵抗感がなくなっているように感じられる。地検の取り調べや強制起訴で、元代表は首相になるチャンスを失ったのかもしれず、政治生命を傷つけられたと言える。
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◆小沢一郎氏裁判/“はぐれ検事”前田恒彦・元検事の爆弾証言でハッキリした「検察審は解散が必要」 2011-12-21 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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◆小沢一郎氏裁判 第10回公判〈前〉/前田恒彦元検事「上司から『特捜部と小沢の全面戦争だ』と言われた」2011-12-16 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
証人「話すと5、6時間かかりますが、端的に言うと、検察の体面を保つことと、自身の保身のためです」
指定弁護士「主任検事として大きなプレッシャーを感じていたのですか」
証人「はい」
指定弁護士「本件でもそうですか」
証人「それは全然違います」「厚生労働省の事件では、大阪高検検事長が積極的で、単独犯ではあり得ないという雰囲気があった。一方で、本件では(ゼネコンからの)裏献金で小沢先生を立件しようと積極的なのは、東京地検特捜部特捜部長や■■主任検事(法廷では実名)など一部で、現場は厭戦(えんせん)ムードでした。東京高検検事長も立件に消極的と聞いていましたし、厚労省の事件とは比較になりませんでした」「大久保さんを取り調べましたが、『とても無理ですよね』と感じました。小沢先生を土曜日に取り調べて、当時の特捜部長だった佐久間(達哉)さんらが東京拘置所に陣中見舞いに来ました。そのとき、私と○○検事(法廷では実名)、△△検事(同)が向かい合って座っていました。佐久間さんは『雰囲気を教えてくれ』ということを言われました」「(前田元検事の上司だった)大阪地検の特捜部長であれば、怒鳴られて言えないけど、佐久間さんはそんなことはなかった。『大久保はどう?』と聞かれたので、『頑張ってみますけど難しいです』と暗に立件は無理と伝えました。他の検事も同じようなことを言っていたと思います。一部積極的な人もいたが、小沢先生まで行くことはないと思いました」
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◆小沢一郎氏裁判 第10回公判〈後〉前田恒彦元検事「私が裁判官なら小沢さん無罪」「検察、証拠隠しあった」2011-12-17 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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◆検察も頭を抱えるまさかの控訴 陸山会「茶番」裁判は笑止千万 『週刊朝日』 5/25号 2012-05-16 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
検察も頭を抱えるまさかの控訴 陸山会「茶番」裁判は笑止千万
週刊朝日2012/05/25号
民主党の小沢一郎元代表(69)の「無罪判決」を受けて検察官役の指定弁護士が下した判断は「控訴」だった。さしもの剛腕も、やっと終わったかに見えた裁判が一転して続くことにウンザリしたことだろう。本誌が再三、報じてきたように、この陸山会裁判に“正義”はない。不毛な茶番劇は、国民にとって何の利益ももたらさないのだ。
控訴の報を受けて、法務省や検察の内部からは、
「もう終わりにしてほしかった・・・」
との声が漏れたという。
それはそうだろう。裁判が続くことで、最も困るのは検察かもしれない。一審で問題になった捜査報告書の虚偽記載疑惑など、彼らが闇に葬り去りたい“不祥事”が蒸し返される。「もうやめてほしい」というのが本音なのだ。
ある検察幹部が語る。
「検察と聞いて『まさか』と思いました。もう、このまますんなりと小沢氏の無罪で終わってほしかった。『控訴はヤバイ』というのが正直な心境です。今回の判決では、無罪という結論以上に、我々があれほど捜査に力を入れた『水谷建設からの闇献金』疑惑が一蹴され、4億円は小沢氏の個人資産と認定されたのが痛い。検察としては、もうこれ以上、引きずられたくないという思いなんです。6月で退任する予定の笠間治雄検事総長も控訴を知って『本当なのか!?』と驚いていたそうですから」
検察上層部の間では、笠間検事総長の勇退を機に、もろもろの“懸案事項”にカタをつけ、心機一転、新体制につなげたいという思惑があるとも伝え聞く。しかし、小沢氏控訴となれば、目算が狂ってくる。
検察の最大のアキレス腱は、本誌が前号、前々号と2回にわたってスクープした検察の「極秘捜査報告書」の存在である。
検察審査会(以下、検審)が小沢氏に1度目の「起訴相当」議決を出した直後2010年4月末から5月中旬にかけて作成された計6通の報告書は、その後、検審に資料として提出され、同年9月の小沢氏の「強制起訴」議決に大きな影響を与えた。そこには、田代政弘検事(45)=当時、東京地検特捜部=による虚偽の報告書が含まれるだけでなく、「小沢起訴」に向けて、検察が組織ぐるみで検審の“誤導”を狙ったかのような内容が記されていたのだ。
「控訴審では、この捜査報告書の問題が取り上げられる可能性がある。そうなれば、また世間の批判を浴びるでしょう。検察内部では5月中にも、虚偽記載をした田代検事を不起訴もしくは起訴猶予処分としたうえで、人事上の行政処分で済ませようという流れができている。それなのに高裁で新たな認定がされれば、世論が沸騰する。検察としては絶対にふれられたくない問題なのです」(同前)
事実、本誌の報道以降、報告書をめぐって見過ごせない問題が浮上している。
当時の佐久間達哉特捜部長(55)が、この6通の報告書の一つ、斎藤隆博副部長の作成した報告書にアンダーラインを引いて強調したり、供述内容を書き加えるなど、大幅に加筆していた、と読売新聞(5月5日付朝刊)が報じた。
斎藤報告書の宛先は佐久間氏その人である。いったい誰に見せるために、自分宛の資料に入念に手を加えたのか。しかもこの斎藤報告書は、小沢氏を起訴するべしとした検審の「議決書」で、内容・論点ともに大幅に引用されているのだ。
先の検察幹部の不安は、決して杞憂ではない。
小沢氏の弁護側は一審で、検審による強制起訴自体が無効だとして公訴棄却を求めた。東京地裁は判決で、起訴自体の無効は認めなかったが、検察の捜査手法を厳しく非難した。弁護側が再度、棄却を主張すれば、これらの報告書の問題が浮上するのは目に見えている。佐久間、斎藤両氏ら当時の特捜幹部らを証人申請することもできるのである。
元検事の郷原信郎弁護士もこう指摘するのだ。
「一審で、捜査報告書にかかわって証人となったのは、田代検事だけ。その他の報告書は、控訴審で小沢氏側が攻める有効なポイントになり得る」
一方で、いざ控訴審になったところで、指定弁護士側が打てる手立ては限られている。控訴した9日の会見で指定弁護士は、
「一審判決には見過ごせない事実誤認があり、控訴審で充分修正が可能だと判断した」
と強弁したが、司法関係者の間では「控訴審で有罪になる可能性は低い」との見方が大勢だ。
指定弁護士は「補充捜査をして新証拠を出す可能性もある」としているが、一審で争点や証拠を絞り込む「公判前整理手続き」を経た控訴審で、新たな証拠を提出するには「やむを得ない事情」が必要になる。さらに最高裁は今年2月、「事実認定が経験則や論理法則からみてよほど不合理でない限り、一審を尊重すべきだ」との判断を示している。
「指定弁護士が新証拠を提出するのは難しいし、提出できたとしても、裁判所が採否を決める際のハードルは高い。一審と同じ証拠で審理をして、高裁が違った評価をしてくれたら、という“神頼み”の裁判になるのではないか」(郷原氏)
■新証拠がないと逆転は至難の業
そもそも一審の無罪判決を覆す自信が「100%あるわけではない」(指定弁護士)という状態で、無罪となった被告を控訴していいのかという問題がある。
検察審査会法には、控訴権に関する明文規定がない。一般の刑事裁判で検察が控訴・上告を検討する場合には、上級庁との協議を重ねて組織として結論を出す。しかし、検審による強制起訴の裁判では、たった3人の指定弁護士が密室の議論で控訴を決めてしまう。
よく考えてほしい。小沢氏は、東京地検特捜部による執拗な捜査の末、2度にわたって「不起訴」と判断された。それでも検審によって強制起訴され、その結果が「無罪判決」である。
しかも、今回の判決では、当初から検察が狙っていた「ゼネコンからの裏金」どころか、政治資金収支報告書の「期ズレ」問題ですら、小沢氏の「故意」を明確に否定している。
認定された元秘書石川知裕衆院議員らの虚偽記入についてさえ「単なる形式的、その場しのぎ的なもので、悪質な”隠蔽・偽装工作”ではなかったとしているのだ。
あれだけ宣伝された小沢氏の巨大疑獄事件は、いったいどこへいってしまったのか。いま問われているのは結局、収支報告書の“書き方”の問題にすぎない。
先の検察幹部はこう語る。
「一審判決をめぐって、『主文は無罪だが内容はグレー』などといわれるが、検察内ではむしろ『よく書けている』という評価だ。まだるっこしい書き方だが、あらゆる点についてキチンと判断している。新証拠が望めない以上、これをひっくり返すことは難しい」
世間で「悪党」のイメージが強い小沢氏だから、なしくずしで許されているが、今回の控訴は、日本の刑事訴訟制度の根幹を揺るがしかねない“事件”なのだ。
控訴審が始まるのは、早くても数ヶ月か半年程度先と見られている。まさに膨大な時間の無駄。そこに一つの意味を見だすとすれば、検察がひた隠す「真実」がさらに明らかになる可能性が生まれたことだけだ。
今西憲之氏+本誌取材班
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◆小沢一郎氏裁判 2審は秋にも開始 早ければ年内に「判決」言渡し 小川正持裁判長 2012-05-22 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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◆小沢抹殺で法務官僚が謀った「大司法省計画」/捜査資料流出の裏に、検察の暗闘 『サンデー毎日』5.27号 2012-05-16 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
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◆「東京地裁判決は小沢さん無罪をこのように説明している~判決批判する前に読んでほしい」日隅一雄① 2012-05-01 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア
◆「東京地裁判決は小沢さん無罪をこのように説明している~判決批判する前に読んでほしい」日隅一雄②