生け贄にされた特捜検事 大坪弘道容疑者「最高検が作り上げたストーリーに納得できない」徹底抗戦

2010-10-04 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア

現代ビジネス
ドキュメント「検察崩壊」 検事総長を守れ―「生け贄」にされた特捜検事 この期に及んで「組織の論理」悪いのは前田検事だけなのか
2010年10月04日(月)週刊現代 永田町ディープスロート

 新聞のスクープ記事が出てから、たった半日での逮捕劇。検察という組織は、これほど簡単に人を逮捕できるのか。前代未聞の不祥事によってずたずたにされたエリート軍団・検察庁があがいている。
気持ち悪いくらい早い逮捕
 大阪地検特捜部・前田恒彦検事(43歳)は、最後の最後まで、自分が「逮捕」されることなど想像さえしていなかった。
「ちょっと下で待っててくれ」
 前田検事は9月21日夕方、二人の同僚検事と夕食をともにする約束をし、大阪・中之島にある合同庁舎1階で待ち合わせていた。
 この日朝、朝日新聞が1面トップで〈検事、押収資料改ざんか〉と報じ、記事中では名前を挙げていなかったが前田検事に疑惑がかかっていることをスクープしていた。
「前田検事はまっすぐ帰宅するわけにもいかず、同僚と食事の約束をしたんですが、待てど暮らせど前田検事が降りてこない。不審に思った同僚が上の階に見に行くと、検事正室の前に数人の検事が立ち、入室できないように『ガード』していた。そこではじめて前田検事が"軟禁"状態に置かれたことがわかったそうです」(大阪地検関係者)
 証拠として押収したフロッピー・ディスク(FD)の記録を書き換えるという、前代未聞の暴挙に及んだ前田検事は、あっという間に「検事」から「被疑者」へと転落した。
「この日夜8時半ごろに、東京・霞が関の最高検で記者会見が開かれるという連絡が入った。その時点で、『21日中の逮捕だ』と分かったんです」(全国紙司法担当記者)
 大阪地検内で、前田検事に対する逮捕状が執行されたのは午後8時40分だった。
 最高検・伊藤鉄男次長検事は畳み掛けるように9時15分から記者会見をはじめ、事実関係を報告した。前田検事が「軟禁」状態に置かれてから、わずか2~3時間のうちにすべてが「決着」したのだ。
「今回の早々の逮捕は、明らかに検察の組織防衛です。私の事件がそうだったように、国民から次々に告発されて、内情が暴露され、検事総長の責任問題にまで発展することのないように、一挙に動いた」(元大阪高検公安部長・三井環氏)
 今回、前田検事のFD改竄事件捜査に投入された検事、事務官は合わせて9名。最高検検事が主任を務め東京地検検事らが加わった。
 23日には前田検事の上司だった大坪弘道・京都地検次席検事(前大阪地検特捜部長)と佐賀元明・神戸地検特別刑事部長(前大阪地検特捜部副部長)を東京に呼び出し、事情を聞いたほか、前田検事の上司、同僚らから一斉に任意で事情聴取する。
事件はまた作られる
 捜査は、データ改竄が前田検事一人の犯行だったのか、大坪前部長ら幹部による指示・追認などがあったかどうかが焦点となる。
 しかし、この捜査は一筋縄で行きそうにないのだ。
「いまのところ、前田検事が故意にデータを改竄したことを認めていないんです。『フロッピー・ディスクで遊んでいるうちに誤って書き換えてしまった』と供述している。もし前田検事が、このまま『故意でなかった』と公判でも言い続ければ、証拠隠滅罪の成立が難しくなってしまう」(大阪地検担当記者)
 最高検の捜査チームは、そうならないために総力を挙げて事件を「作り」にいくはずだ。
 結局のところ、データを捏造してまで郵便不正事件を成立させようとした前田検事と、同じ轍を踏むことになりかねないのである。
「検察という組織は、これまでに一度も検事総長が不祥事で引責辞任したことがない。そういう組織なんです。世間の常識より、身内の論理が優先する。それほどエリート意識が高い。
 今回いち早く前田検事の逮捕に踏み切り、捜査チームをスタートさせたのも、検察トップの検事総長を守るためです。前田検事を被疑者として手元に置き、情報管制することで、組織への影響を最小限にする」(ベテラン司法記者)
 仙谷由人・官房長官が「検察の存立基盤にかかわる事件」と発言しているように、政府・民主党からは検察に対する逆風が吹き始めた。今年6月に就任したばかりの大林宏・検事総長の引責という事態は、誇り高き検察という組織にとって「敗北と屈辱」を意味する。
「すでに政界からは、弁護士連合会会長の宇都宮健児氏を検事総長に、という『牽制球』も飛んでいます。そうなったら、検察崩壊です。組織最大の危機でしょう」(全国紙政治部記者)
 今回の事件の発端は、大阪の「新生企業」という会社が障害者団体向け郵便割引制度を悪用し、通常より大幅に安い値段でダイレクトメールを発送できると多数の会社に売り込みをかけたことだった。
 昨年2月、新生企業の二人の現・元役員が大阪地検特捜部に逮捕されると、この役員の供述や押収された資料から、ベスト電器、ウイルコ、博報堂エルグ、健康フォーラム、白山会、元気堂本舗など各社の幹部が一斉に逮捕された。
 この事件で逮捕され、実際に前田検事の取り調べを受けたA氏がその内情を明かす。
「逮捕される前々日の昨年4月14日、大阪地検から、『任意に事情を聴きたいので、大阪まで来てほしい』という連絡がありました。私のほうでリーガロイヤルホテルの会議室を取って、翌日、大阪まで出向いたんです」
 検察事務官を伴ってホテルに現れた前田検事は、「お忙しいところお呼びだてしてすみません」と低姿勢に挨拶した。がっしりとした体格だが、真面目そうな印象を持った。しかし、取り調べは一方的だった。
「Aさん、違法性を認識していたんじゃないですか。意図的にやっていたんじゃないですか」
 と2度、3度と繰り返して訊き、さらに、
「あなたたちより大物が後ろにいるんですよ」
 と話したという。A氏は、前田検事の真のターゲットが政治家や、名門企業幹部で、そのためにA氏らの供述を引き出したいという狙いが明らかだった。
 この日の事情聴取は1時間ほどで終わったが、翌16日朝に大阪地検に呼び出され、前日と同じやり取りが繰り返された。
「Aさん、違法性を認識しながらやっていたんじゃないですか」
「認識していません。まったくそんな認識はありませんでした」
 すると前田検事は突然両手を180度広げ、こう言ったという。
「国家権力に歯向かうんですか!」
 恫喝するような口調ではなかったが、迫力を感じさせた。A氏はその言葉に強烈なインパクトを受けた。
 そのままA氏は逮捕され21日間勾留された。その間、毎日約1時間ずつ前田検事の取り調べを受けた。訊かれることは常に同じだったが、ときおり「真の狙い」を覗かせることもあった。
「私の会社から地元政治家に献金しているかどうかとか、政治家との付き合いの有無なども訊かれました。『まだ報道されていない大手企業の関与も分かっているので、そこもやるから』と言っていました」(A氏)
どこかでヘタを打つ
 前田検事は、職務に忠実で優秀な検事として知られ、大阪地検内でも高く評価されていた。
 広島・呉市出身で、父は教師。地元の県立高校を卒業後、広島大学法学部に進学した。
「高校のときは、ワイルドな印象でしたね。身長170cmくらいで、ガッチリしていた。高校時代と比べると、いまは30kgくらい太ったように見えます。印象的だったのはやたらに大きく、しかも通る声だったこと。プロレスが好きで、名前が同じ前田日明と呼ばれたり、長州力の物真似をしていました」(高校時代の同級生)
 弓道部に所属し、高校1年のときから、「検事になりたい」と言っていた。真面目で頑張り屋という印象は共通しており、同級生のなかには、
「絶対にあんなことをするタイプではない。この事件には背後に黒幕がいて、彼も被害者なのでは?」
 と言う人もいた。
 広島大学に進学後も約1時間半かけて呉市の実家から通い、毎日重い法律書を持ち歩いていたという。
 前田検事の恩師、金澤文雄・広島大学名誉教授はこう話す。
「外見は『純朴な青年』という印象の男でした。私のゼミにいたのは大学3~4年の2年間ですが、勉強熱心で誠実。私が執筆した『刑法とモラル』という本を熱心に読んでくれていて、講義以外でもこの分厚い専門書を持ち歩いてくれていました。かなり読み込んでいてくれたと思います」
 フラリと金澤氏の研究室に顔を見せ、
「先生、この部分はどういうことなんでしょう」
 などと質問することが何度かあったという。ゼミでも成績はトップクラス。就職活動はせず、当初から司法試験狙いだった。
 合格したのは大学卒業から3年後の'93年。ほとんど予備校にも行かず、独学に近い形での難関突破だった。
「卒業後も毎年必ず年賀状をくれていましたし、異動のたびに連絡ハガキをくれていました。'06年3月、『東京地検特捜部に配属されました。ますます仕事に邁進したい』という手紙をくれました。そのときだったと思いますが、彼から電話があり、『東京地検で精いっぱいやりたい』というようなことを言っていました」(金澤名誉教授)
 前田検事は捜査能力を買われ、東京地検特捜部、'08年4月からは大阪地検特捜部に配属された。
「検事としての評価は、はっきり二分しています。(供述を引き出す)『割り屋』としての力を評価する人もいましたし、絵に描いたような特捜検事で、幹部の描いた事件の構図に合う供述を強引に取ろうとするところもあった。上司に提出する報告書の出来が素晴らしく、文章力が高いと評価されていた」(在阪全国紙社会部記者)
 一昨年の音楽プロデューサー・小室哲哉の巨額詐欺事件では小室の取り調べを担当している。
 しかし一部では前田検事の捜査手法を危ぶみ、
「あのやり方だとどっかでヘタを打つ」
 と漏らしていた同僚もいた。今年1月、小沢一郎民主党元幹事長の政治資金管理団体「陸山会」事件では応援検事として捜査に参加し、大久保隆規・公設第1秘書から容疑を認める供述を引き出し、調書に署名させたことでも、評価を上げた。
 ところが大久保被告はのちに公判でこの調書を全面否認し、前田検事の調べの強引さが一部でクローズアップされていた。
 この前田検事を、ことさら重用したのが大坪前特捜部長である。
「特捜部長にも色々なタイプがいるが、大坪さんほど取材しやすい人はいなかった。鳥取の山間部出身で、中大を卒業後検事になった人物。出世欲が強く、特捜部長のポスト狙いを隠さなかった。
 今回の郵便不正事件でも、当初は検事仲間から、『いい事件をやっていて、大阪の特捜はのりにのっている。事件運に恵まれている』と羨まれていた。当時、陸山会事件で四苦八苦していた東京地検特捜部からも、『大阪はいいなあ』という声が出たくらいです。当然、本人の耳にも入っている。勢いに乗って、イケイケだったと思いますね。
 大坪部長は確実に指示通りの調書を作る前田検事を信頼し、村木厚子・厚労省局長の立件では主任検事を任せた。現場の行動隊長です」(在阪全国紙社会部記者)
いつもやっていることだから
 今回、問題になった証拠のFDは、村木氏の部下・上村勉被告の自宅から発見された。特捜部の描いた筋立てでは、障害者用郵便割引制度の認可を受けるため、'04年6月上旬に違法な証明書発行の指示を受けた上村被告が文書を作成し、FDに保存したとなっていたが、実際にはFDの最終改変日は6月1日だった。
 時系列が前後してしまい、当初の筋書きと合わない。そこで前田検事は問題のFDを大阪・枚方の官舎内にある自宅に持ち帰り、昨年7月13日にFDの「プロパティ」(ファイルの属性などに関する情報記録)を専用のソフトで改変して、「6月8日」とした。
 しかし、なぜ前田検事がこんな基礎的な捏造に手を染めたのかは、ナゾだ。
 FD以外に、捜査の初期段階で作られた「捜査報告書」があり、そこにはっきりとデータの保存日が6月1日と書かれていた。FDのデータだけを捏造しても、この報告書がある限り矛盾は残ったままだ。主任検事が報告書に目を通していなかったとは考えにくい。
 また、前田検事は改変の数日後、このFDを郵送で上村被告の家族に戻している。「法廷に提出させて"時限爆弾"として使う狙いだった」という報道もあるが、弁護側がFDを証拠として提出しなければ意味がない。実際、法廷では捜査報告書のみが提出され、FDは証拠採用されていない。
「前田検事は、供述どおり本当に『遊び』で改変してしまった可能性もある。イラク戦争のときに兵士が捕虜を虐待して遊んだように、軽い気持ちで証拠に触っていたのかもしれない。
 むしろ、今年はじめにその件を報告されていたという検察の上司が、誰も問題にしなかったことのほうが重要です。なぜかといえば、いつもやっていることだから。そう考えると、検察という組織は、相当壊れている。病理は深いですよ」(作家・佐藤優氏)
 今回、前田検事のしたことはもちろん言語道断だが、前田検事ひとりを「生け贄」に、「個人の犯罪」としてフタをしてしまうことはあってはならない。
--------------------------------------------------
【検事逮捕】大坪容疑者「検事は辞めない」 否認中の接見、異例認可に列
産経ニュース2010.10.7 07:18
 「検事を辞めるつもりはない」。逮捕された前部長の大坪弘道容疑者は、大阪拘置所(大阪市都島区)で接見した弁護士にこう話し、意気軒高な姿を見せているという。前副部長の佐賀元明容疑者とともに、最高検に徹底抗戦する構えを示している。
 接見した弁護士によると、大坪容疑者は「最高検が作り上げたストーリーに納得できない」とも話し、「佐賀容疑者から『データ書き換えは過失だ』という報告を受け、その言い分を信じていた」と最高検の見立てとは正反対の論を展開している。
 弁護士は5日に、作家の司馬遼太郎の「街道をゆく」や詩人の相田みつをの著書を大坪容疑者に差し入れたといい、「いたって元気な様子だ」(弁護士)という。
 佐賀容疑者も強硬姿勢だ。拘置所には10人前後の弁護士が接見に訪れ、佐賀容疑者の様子を気遣っているという。佐賀容疑者が司法研修所の教官を務めていた際の教え子も支援に回る見通しという。
 大坪、佐賀両容疑者については、大阪地裁が最高検の接見禁止の請求を退けたため、弁護士以外でも接見が可能になった。
 否認中の容疑者への接見が認められるのは異例で、両容疑者が勾留(こうりゅう)されている大阪拘置所では6日早朝から、接見を求める報道陣が列を作った。
 弁護士以外の接見については1日1組の制限が付いている。
--------------------------------------------------
村木厚子さんの事件:前田検事をスケープゴートにして、国民の目を検察組織そのものから逸らすという計略2010-09-24 | 政治/検察/メディア/小沢一郎


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。