明石歩道橋事故、日本初の強制起訴へ 「弁護士」が起訴 被害者参加制度と併せた司法制度改革の一環

2010-01-27 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴
【明石歩道橋事故】元副署長を日本初の強制起訴へ
産経ニュース2010.1.27 21:21
 兵庫県明石市で平成13年7月、花火大会の見物客11人が死亡した事故で、神戸第2検察審査会は27日、業務上過失致死傷容疑で書類送検され、嫌疑不十分で不起訴となった榊和晄(かずあき)・元明石署副署長(62)について4度目の「起訴相当」とする議決を出した。昨年5月施行の改正検察審査会法に基づき、今後、裁判所の指定弁護士が榊元副署長を強制的に起訴する。強制起訴は全国で初めてのケースとなる。
 審査会は、検察が判断の根拠とした事故当日の過失だけでなく、警備計画作成段階にまでさかのぼって過失を判断。「過去に行われたイベントなどから多数の見物客が歩道橋に集まることが予想できたにもかかわらず、計画で混雑防止の方策が策定されていない」と、事前の警備計画の不備を指摘した。
 また、当日の状況についても「現場を見ることができるビデオカメラの映像は鮮明でなく、混雑を伝える無線も聞いていない」などとする元副署長の主張を取り上げて、逆に「現場の状況が分からないことを自認しながら放置し、監視義務を怠った」と元副署長の注意義務違反を指摘した。
 神戸地検は、これまで元副署長については「当日の警備を(1、2審で有罪とされた)元地域官に委ねており、現場の危険性も認識していなかった」などとして4度とも不起訴処分としたが、審査会は「被疑者が有罪か無罪かという立場ではなく、市民感覚の視点から公開の裁判で事実関係および責任の所在を明らかにして、重大事故の再発防止を望む点に基本的立場を置く」と、検察との立場の違いを強調した。

【用語解説】明石市の花火大会事故
 平成13年7月21日夜、兵庫県明石市主催の花火大会で、会場と最寄り駅を結ぶ歩道橋上に見物客が殺到し、転倒した11人が死亡し、247人が重軽傷を負った。県警は業務上過失致死傷容疑で県警、市、警備会社の計12人を書類送検。神戸地検は明石署の元地域官ら5人を起訴し、市元幹部ら3人は有罪が確定した。元地域官ら2人は上告中。元署長(19年に死去)と元副署長は不起訴になったが、遺族が検察審査会に3度申し立て、審査会は元副署長について3度起訴相当と議決。地検はいずれも不起訴にした。
--------------------------------------------
【明石歩道橋事故】指定弁護士が検察官役、難しい公判か
産経ニュース2010.1.27 23:53
  検察審査会(検審)は、議決書を地裁に送付し、裁判所が「検察官役」になる弁護士を選任、この弁護士が起訴する。今回のケースでは、神戸地裁が兵庫県弁護士会に推薦を依頼することになり、弁護士会は「少なくとも3人が指定され、補充捜査の権限が十分行使できる態勢が必要」としている。
 指定弁護士は、検審の記録を引き継ぐとともに、必要と判断すれば被疑者の事情聴取なども行えるが、任意捜査が原則で、「速やかに」公訴を提起(起訴)し、検察官の役割を行う。指定弁護士の任期は判決が確定するまでとなる。
 これまで起訴独占主義を貫いてきた検察に代わって指定弁護士が公判に立つが、個別事件としてみた場合、有罪の立証が簡単ではない業務上過失致死傷罪をめぐる事件であることや、公訴時効の問題も含め、識者からは「難しい公判になるのでは」との声があがる。
 過失論に詳しい松宮孝明・立命館大法科大学院教授(刑法)は「検察官が起訴しなかった事例で、指定弁護士が新しい証拠をどう収集していくのかが注目される。しかし、検察や警察もどこまで協力するかわからず、苦労する部分が多いのではないか」と話す。
 また元副署長は業務上過失致死傷罪の公訴時効(7年)を過ぎており、検審は「(有罪とされ公判中の)元地域官の共犯と評価でき、公訴時効停止の要件を満たす」と判断したが、松宮教授は「過失犯の『共同正犯』を認めたケースはあるものの、こちらも難しい判断になる」とみている。
...........................
【明石歩道橋事故】指定弁護士が「検察官役」、公判で有罪立証へ
産経ニュース2010.1.27 21:39
  神戸第2検察審査会が「起訴相当」と議決した兵庫県明石市の花火大会事故では、神戸地裁の指定弁護士が「検察官役」となり、業務上過失致死傷罪で当時の明石署副署長を起訴、公判では有罪を立証する側に回る。
 指定弁護士は、地裁の裁判官が兵庫県弁護士会に推薦を依頼。人数は法令の規定がないため、今回のような複雑な事案では複数が指定される可能性が高い。弁護士会は「少なくとも3人が指定され、補充捜査の権限が十分行使できる態勢が必要」としている。
 改正検察審査会法では、地裁は指定弁護士の上申に基づき人数を追加したり、不適切と判断すれば指定を取り消したりできるとしている。起訴する時期は「速やかに」と定めているが、具体的には示されていない。起訴後、地裁は指定弁護士を選んだ裁判官とは別の裁判官を事件の担当として割り振る。
...............................
被害者救済?感情に流される?「起訴議決」冷静な検証を
産経ニュース2010.1.27 21:05
 明石歩道橋事故をめぐり、元副署長を業務上過失致死傷罪で起訴すべきだとした神戸第2検察審査会(検審)の議決。改正検察審査会法に基づき導入された「起訴議決制度」で、弁護士が“検察官役”として、強制的に起訴する全国初めての例となった。
 そもそも、こうした検審の権限強化は、昨年5月にスタートした裁判員制度、また、一昨年の12月に導入された刑事裁判への「被害者参加制度」とあわせた司法制度改革の一環だった。従来、法曹関係者だけで進められてきた司法手続きに、国民の常識や視点を反映することで、司法をより身近にし、信頼を高めることが狙いだ。
 刑事事件で容疑者を裁判にかけるかどうかの起訴・不起訴の判断は検察官だけが独占してきた。ただ、被害者や遺族にとって、その判断はこれまで、必ずしも納得できるものではなく、「国民の常識とかけ離れている」と批判されることもしばしばだった。検審が“最後の砦(とりで)”だったが、議決に拘束力がなかったことで、結果的に泣き寝入りするしかなかったといえる。
 ただ、強制起訴は、無実の人を裁判にかけられるほどの強い権限を検審が持つという側面もある。結果の重大性や、その犯行の無残さから、起訴判断に冷静さが失われてしまう可能性もゼロではない。たとえば、業務上過失致死傷罪に問うには、事故を予測できたかどうかについて、緻密(ちみつ)な立証のもと、厳格に判断する必要がある。それだけに、神戸地検は4回にわたって不起訴と判断してきた。
 一般の健全な感覚を反映した被害者救済策として機能するか、司法が感情に流されることにならないか。今回の起訴議決で開かれる公判の行方に注目し、検証する必要がある。
----------------------------------------
【主張】検察審査会 厳正で公平な運用が肝要
産経ニュース2010.1.29 03:12
  神戸第2検察審査会は兵庫県明石市で平成13年7月、花火大会の見物客11人が死亡した歩道橋事故で業務上過失致死傷容疑で書類送検され、不起訴処分になった明石署元副署長について、起訴すべきだと議決した。2度目の起訴議決を経て全国初の「強制起訴」の措置がとられる。
 裁判員制度と同様に、国民の感覚を反映させる目的で昨年5月に発足した制度だが、実効的な運用にはまだ多くの課題がある。
 容疑者を起訴するかどうかの権限は、これまで検察官が独占してきた。検察審査会は、その強大な権限を監視する機関として昭和23年に始まった歴史ある制度だ。
 裁判員制度と同じく選挙人名簿からくじで選ばれた一般市民11人で構成され、任期6カ月、半数が3カ月ごとに改選される。「起訴相当」「不起訴不当」「不起訴相当」を議決するが、法的拘束力はなく、あくまで“参考意見”にとどまっていた。国民の検察審査会への関心は極めて低いというのが現状だった。
 このため、「議決に一定の法的拘束力を持たせる」との平成11年の司法制度改革審議会の提言をもとに、裁判員制度とともに検討されていた。
 裁判員制度のスタートにともない検察審査会法も改正され、同じ時期に施行された。改正検察審査会法では、起訴相当の議決が出た後、検察官が起訴しない場合は再審査され、8人以上が賛成すれば、強制起訴されるという強力な権限が与えられた。その権限を生かすも殺すも運用次第だ。
 強制起訴となれば、裁判所が検察官役に弁護士を選び、この弁護士が起訴状作成から、法廷での検察官業務を一手にこなす。このため、指定された弁護士の労力は大変なものと推察される。
 また起訴までには補充捜査などの必要が出てくるだろう。そのためにも、検察当局の全面的な協力が必要だ。また、地元弁護士会もバックアップ体制を敷き、指定弁護士を強力な布陣で支えなければならない。そうした点からも公判の成り行きを注視したい。
 検察審査会もこれだけの権限が付与されたことで、その責務は重大となった。これまで以上に厳正で慎重かつ公平な審査が欠かせまい。犯行の重大性や残忍さなどで感情的に流されるような議決では公正さを欠く。国民が納得する冷静な審査を求めたい。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。