石巻3人殺傷 上告棄却「実名報道に切り替えるべき新たな事情はない」中日・毎日新聞 2016/6/17

2016-06-17 | 少年 社会

 中日新聞 2016年6月17日 朝刊
石巻3人殺傷元少年、死刑確定へ 裁判員少年事件で初
 二〇一〇年二月、宮城県石巻市で発生した男女三人殺傷事件で、殺人罪などに問われ、一、二審で死刑判決を受けた犯行当時十八歳七カ月だった被告(24)の上告審判決で、最高裁第一小法廷(大谷直人裁判長)は十六日、「少年だったとはいえ深い犯罪性に根差した犯行で、二人の生命を奪った結果は誠に重大」として、被告の上告を棄却した。裁判員裁判で審理された少年事件で、初めて死刑判決が確定する。
 判決は裁判官五人の全員一致の意見。犯行時少年だった被告の死刑判決が確定するのは、山口県の光市母子殺害事件(一二年確定)以来。永山則夫・元死刑囚(一九九七年執行)の第一次上告審判決で最高裁が死刑を判断する際の「永山基準」を示した八三年以降では、犯行時少年の死刑確定は七人目となる。
 第一小法廷は、交際相手だった元少女を連れ戻すため邪魔する者を殺害した動機を「身勝手極まりなく、酌むべき余地はない」と指摘。「無抵抗の被害者を牛刀で突き刺すなどした冷酷、残忍な犯行で、一定の反省や謝罪の意思を表明しているが、死刑を是認せざるを得ない」と結論づけた。
 上告審で弁護側は「少年の未成熟さが背景にある衝動的な犯行で、計画性もなかった」などと主張し、死刑回避を求めていた。
 一審仙台地裁の裁判員裁判判決は「残虐さや被害結果が重大で、年齢はことさらに重視できない」として求刑通り死刑を言い渡し、二審仙台高裁も支持した。
 判決後に記者会見した被告弁護人の草場裕之弁護士は「少年の成育歴を全く考慮せず、誤った事実認定に基づき死刑を選択した。この事件で死刑になるのはおかしい」と批判した。
*判決妥当と考える
 <榊原一夫・最高検公判部長の話> 少年時の犯行とはいえ、社会に大きな衝撃を与えた凶悪な事件であり、本日の最高裁判決は妥当なものと考える。
*社会全体で議論必要
 【解説】宮城県石巻市の男女三人殺傷事件で、元少年の被告に対し、死刑を選択した十六日の最高裁判決は、犯行の悪質性や結果を重視し、少年であっても死刑を回避する決定的な事情ではないとの判断を示した。
 市民が審理に参加する裁判員裁判で初めて死刑が選択された少年事件だった。少年の保護育成を理念とする少年法は、十八歳未満を死刑とすることを禁じる。元少年は犯行時十八歳七カ月。一審の裁判員は極刑か更生の機会を与えるかを巡り、プロの裁判官でも悩む究極の判断を迫られた。
 裁判員裁判は、公判の開始前に争点や証拠を絞り込んだ上で行われる。市民が法廷に出された証拠で少年の更生の可能性を見極めることができるのか、という課題は、導入前から指摘されていた。「死刑か無期懲役かの選択は裁判官に判断してほしい」といった裁判員経験者の声もある。
 裁判員制度の導入から七年。今後も市民は法廷で凶悪な少年事件と向き合う。死刑制度の存廃も含め、少年の成育歴などについて法廷で専門家の意見を聞く場を設けるなど、少年事件の裁判員裁判の審理の進め方について、社会全体で議論を深める必要がある。
 (東京社会部・清水祐樹)
 <石巻男女3人殺傷事件> 宮城県石巻市で2010年2月10日朝、当時18歳7カ月だった被告が、18歳だった元交際相手の少女の実家に別の少年=犯行時17歳、殺人ほう助罪などで不定期刑が確定=とともに押し入り、少女の姉・南部美沙さん=当時(20)=と友人の大森実可子さん=同(18)=を刃渡り約18センチの牛刀で刺殺。姉の知人男性=同(20)=の胸を刺して重傷を負わせ、少女を無理やり車に乗せて連れ去った。
 <お断り> 本紙は、宮城県石巻市の男女三人殺傷事件の被告の元少年について、少年の健全育成を目的とする少年法の理念を尊重し、「報道は原則実名」の例外として匿名で報じてきました。今回の最高裁判決によって元少年の死刑が確定しても再審や恩赦の制度があり、元少年の更生の可能性が直ちに消えるわけではありません。少年法が求める配慮はなお必要と考え、これまで通り匿名で報道します。

 ◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です *強調(太字・着色)は来栖
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 〈来栖の独白〉
 木曽川長良川リンチ殺人事件判決報道のときもそうだった。普段は中日新聞の左向きぶりに立腹し、それでも連載小説に惹かれ「この連載が終わるまで購読」と自分を宥める日々だが、石巻の事件の報道に際し、中日新聞の匿名報道に心休まるのを感じる私がいる。
 一方、名古屋アベック殺人事件の主犯無期懲役受刑者K君の言葉も想い出されて、複雑な気持ちになる。K君は言う、「わたしのことを忘れないでほしい」と。「忘れないで」とは、その中に名前も入っているのではないか、と・・・。

 「むしろわたしは自分が死ぬということよりも、みんなの記憶の中から自分が消えてしまうんじゃないか、ということに対してのほうに抵抗があったように思います。たとえ私が死んだとしても、せめてわたしのことを忘れないでほしいという気持ちは強くもっていましたし、そのためにもうどうせ悪くされるのなら、たくさんの人の記憶に残るように思いきり悪のまま清く死んでいこうとしていたのだと思います。ほんとうになんて馬鹿な、と思うでしょうが、それまでのわたしは自分の命さえ大切にしていませんでしたし、そういう生き方しかしてこなかったのです」

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宮城・石巻の3人殺傷
 元少年、死刑確定へ 最高裁上告棄却 裁判員裁判で初
  毎日新聞2016年6月17日 東京朝刊
 宮城県石巻市で2010年2月、元交際相手の姉ら3人を殺傷したなどとして殺人罪などに問われた当時18歳の元少年(24)の上告審判決で、最高裁第1小法廷(大谷直人裁判長)は16日、死刑とした1、2審を支持し、元少年の上告を棄却した。裁判員裁判で少年事件に死刑が適用された唯一の事件で、小法廷は「事件当時18歳7カ月であり前科はないが、深い犯罪性に根ざした犯行で死刑を是認せざるを得ない」と述べた。市民らが少年だった被告に死刑を選択した判決が初めて確定する。
 1審・仙台地裁の裁判員裁判判決は、元少年が凶器を事前に準備していたことなどから「周到な計画を立てた」と認定、2審・仙台高裁も支持した。弁護側は上告審で「元交際相手の少女の姉に警察に通報されたことで頭が真っ白になった」と計画性を否定。未熟さや生い立ちも考慮して死刑を回避するよう求めた。
 小法廷は「邪魔する者は殺害も辞さないと思い定めた」と指摘。元少年の暴力から少女を守ろうとした姉や友人女性を次々に刺した行為を批判し「罪質、結果とも誠に重大。被害者に責められる点はなく、殺害行為は冷酷かつ残忍だ」とした。「謝罪の意思を表明したことなど、酌むべき事情を考慮しても刑事責任は極めて重大で、死刑を是認せざるを得ない」と結論付けた。更生可能性や生い立ちには直接言及しなかった。
 1、2審判決によると、元少年は元交際相手の少女(当時)を連れ戻そうと、後輩の元少年(殺人ほう助罪で有罪確定)と一緒に少女の実家に侵入。交際に反対していた少女の姉(当時20歳)と少女の友人女性(当時18歳)を牛刀で刺殺し、姉の友人男性に重傷を負わせた。【島田信幸】
*おことわり
 少年法理念尊重、匿名報道を継続
 毎日新聞は元少年の匿名報道を継続します。女性2人の尊い命が奪われた非道極まりない事件ですが、少年法の理念を尊重し匿名で報道するという原則を変更すべきでないと判断しました。
 少年法は少年の更生を目的としています。死刑確定でその可能性がなくなるとの見方もありますが、更生とは「反省・信仰などによって心持が根本的に変化すること」(広辞苑)をいい、元少年には今後も更生に向け事件を悔い、被害者・遺族に心から謝罪する姿勢が求められます。また今後、再審や恩赦が認められる可能性が全くないとは言い切れません。
 1994年の連続リンチ殺人事件と、99年の山口県光市・母子殺害事件で死刑が確定した元少年の最高裁判決についても匿名で報道しましたが、今回も実名報道に切り替えるべき新たな事情はないと判断しました。

 ◎上記事は[毎日新聞]からの転載・引用です *強調(太字・着色)は来栖
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中日新聞 社説 2016年6月17日
元少年に死刑 厳粛に受け止めつつ
 犯行時十八歳の被告の死刑が確定する。宮城県石巻市で元交際相手の姉ら二人を殺害、一人に重傷を負わせた事件だった。最高裁の判断で、年齢は極刑回避の決定的事情にならない流れが浮き出た。
 <十八歳に満たない者に対しては、死刑をもって処断すべきときは、無期刑を科する
 少年法はそう定めている。被告は事件当時、十八歳七カ月だった。七カ月の差で死刑と無期刑が分かれる。この年齢の問題をどう考えるかが焦点の一つだった。未熟さなどが犯行の背景にある場合、死刑の選択には慎重であるべきだという考え方に基づく。
 被害者人数が二人の場合、名古屋アベック殺人(一九八八年)では、当時十九歳の少年は無期懲役だった。山口・光市母子殺害(九九年)では、当時十八歳の少年が受けた無期懲役判決を最高裁が破棄し、死刑が確定した経緯がある。
 今回の石巻の事件は、裁判員裁判で少年に初めて死刑が言い渡されたケースだった。一般市民らが下した重たい判断を高裁、最高裁が支持したことは厳粛に受け止めねばなるまい。
 二人殺害という結果の重大性を重くみた。二〇〇〇年に少年法が改正されるなど、少年犯罪に対しては厳罰化が進められてきた。そのことと本来、少年の保護育成をうたう少年法の理念をどう両立させるかは大きな課題である。
 とくに同法の適用年齢を十八歳未満に引き下げる案が浮かんでいる。選挙権年齢を十八歳以上としたのに合わせる狙いだ。慎重に考えるべき問題である。
 現在、少年事件はすべて家庭裁判所が調査をする定めだ。調査官による面接調査などがある。少年鑑別所において心理学、教育学、社会学など専門領域から鑑別調査も行われる。非行の原因を探り、背景を解明し、その少年にとって最適な処遇方法を考えるのだ。
 もし適用年齢が引き下げられると、少年被疑者の約40%がこの少年司法手続きから排除されてしまう。たんに刑事手続きによる処分だけで終わり、非行の原因や背景を突き止めることはなされない。大切な更生の処方箋は示されないことになってしまう。
 少年犯罪は生まれ育った不遇な環境などが深く結びついているケースが多い。そのため、性格の矯正や環境の調整を追求する。それが少年法の目的でもある。同法の問題は広い視野をもって、市民一人一人が考えたい。

 ◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です *強調(太字・着色)は来栖
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心に刺さった母の言葉「名古屋アベック殺人事件」獄中21年の元少年 
「木曽川長良川連続リンチ殺人事件」実名報道・・・
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