長きにわたって犯罪者の性格や境遇に関心が注がれてきたのは、動機や性格、境遇に応じた刑罰と処遇を考量するためであり、その目的といえば社会のよき市民へと矯正することにあった。犯罪者への関心は社会的同化によって裏打ちされており、それこそが近代と呼ばれる時代における権力の作法であった。それがここ10年、被害者遺族の登場とともに犯罪者が危険な加害者と化すなかで、厳罰を旨としたセキュリティー社会が姿を現した。それにともなって、社会的同化から排除へと、犯罪をめぐる実践のモードも転換した。凶悪な殺人事件は減少しているにもかかわらず、この間、死刑判決が急増したのも証左の一つだ。
⇒column「アキバ通り魔事件」と犠牲者の相貌を獲得したロスジェネ