ニチアスの羽島工場周辺住民がアスベストによる健康被害を訴えている問題

2008-10-27 | 社会

「ニチアス羽島」周辺の肺がん死亡率3倍 因果関係を初立証
 中日新聞 2008年10月27日 朝刊

 建材メーカー大手ニチアス(本社東京都港区)の羽島工場(岐阜県羽島市)で、周辺住民がアスベスト(石綿)による健康被害を訴えている問題で、住民の肺がん死亡率が同工場周辺では全国平均の約3倍にもなることが専門家の調査で分かった。調査結果は、2006年にできた石綿救済新法の認定基準に影響を与えそうだ。
 調査を行った大阪府立公衆衛生研究所の熊谷信二生活環境部長(55)は「石綿工場の周辺で肺がん発症が多いことの因果関係を初めて統計的に証明できた」としている。調査結果は、熊谷部長が26日、羽島市竹鼻町内で開かれた関係住民への説明会で公表した。
 石綿による工場周辺住民の健康被害は、各地で訴訟が起きるなど問題化。しかし、喫煙など多様な要因で発症する肺がんは石綿との因果関係の立証が難しいとされていた。
 調査は、工場周辺の半径約400メートル以内で11自治会の協力を得て577世帯にアンケートし、502世帯から生存者を含め1907人分のデータを収集。羽島工場が毒性の高い茶石綿の取り扱いをやめた翌年の1992年から2007年の間に死亡した住民の死因を調べた。
 工場周辺の気象データから、飛散していた石綿濃度を推定。最も濃度が高いとされた工場から南東に350メートル、北西に170メートル、幅300メートルの楕円(だえん)の範囲では、男性が全国平均の2・94倍、女性で同3・52倍(いずれも石綿を取り扱う仕事に従事していた人を除く)の肺がん死亡率が示された。
 女性についてはサンプル数が少なく因果関係の立証はできないとした。
 対象地域全体では男性1・46倍、女性1・17倍で、特に有意な差は認められなかった。肺がん死亡者の男性のほとんどは喫煙者だった。
 【石綿と肺がん】 石綿は肺がんの原因物質の1つ。石綿の吸引で肺がんによる死亡率が5倍程度高まるといわれている。石綿による健康被害を受けた人のうち、労災補償対象外の被害者とその遺族を救済するために2006年、石綿救済新法ができた。同法は中皮腫と石綿が原因の肺がんが対象だが、患者認定には、石綿に特徴的な症状や石綿を取り扱う仕事に従事していたなどの要件を満たす必要がありほぼ100パーセント石綿が原因の中皮腫より基準が厳しい。

 「ニチアス、関係認めて」 姿勢を住民批判
2008年10月27日 朝刊
 ニチアス羽島工場(岐阜県羽島市)の周辺住民の肺がんによる死亡リスクが全国平均の約3倍との調査結果が出た26日、工場近くに住む主婦(73)は「ニチアスには住民の病気と工場の因果関係を認めて、住民への説明を尽くしてほしい」と、口をつぐんだままの同社の姿勢を批判した。
 ニチアスのアスベスト(石綿)健康被害は2005年、大手機械メーカー、クボタ(大阪)の工場周辺で住民に健康被害が発覚したのを機に表面化。羽島工場周辺では確認されているだけで住民2人が中皮腫で死亡している。
 同工場では昨年9月、中皮腫で死亡した女性の遺族にニチアスが、救済金支払いと引き換えに死因や救済金交渉の存在などを口止めしていたことが発覚。被害実態が表に出づらい状況が続いており、住民団体は「被害隠しだ」と憤る。
 「病気の不安やニチアスとの交渉について相談に来ていた住民が、ある時からパッタリと『うちは石綿とは関係ない』と言い出すことが何例もある」。工場周辺で活動する「アスベストに関する地域住民の会」の林三統代表(72)は、同社の住民に対する「口止め攻勢」を苦々しい思いで見詰める。
 大阪府立公衆衛生研究所の熊谷信二生活環境部長が行った調査でも口止めが影響して、周辺の全自治会を網羅できなかった。こうした困難に直面しながらも、今回の調査は石綿と肺がんとの間に一定の因果関係を導き出すことに成功した。
 口止め発覚を契機にニチアス問題にかかわり、熊谷部長の調査のきっかけをつくった関西労働者安全センターの片岡明彦さん(49)は「ニチアスは本当に因果関係がないと思うなら、十分な調査が可能になるように口止め工作をやめるべきだ」と指摘した。


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