時効見直し 慎重論にも耳傾けて

2009-11-02 | 死刑/重刑/生命犯
中日新聞【社説】
時効見直し 慎重論にも耳傾けて
2009年11月2日
 時効制度は刑事司法の根幹にかかわる。法相はこの見直しを法制審議会に諮問した。凶悪事件で時効撤廃を望む被害者らの声がある一方で、反対論も根強い。広い視野で慎重な議論を重ねてほしい。
 法制審に諮問されたのは、殺人など凶悪・重大犯罪の公訴時効の見直しと、時効が進行中の事件の取り扱いなどについてである。
 諮問の背景には、まず事件に遭った犯罪被害者やその遺族らが、公訴時効の撤廃など見直しを求める声が高まっていることがある。DNA型鑑定の精度が向上するなど、科学的な捜査手法が進歩していることもある。
 法務省の勉強会が七月に最終報告書で時効廃止を打ち出したのも、そうした時代の変化を踏まえた結果だろう。
 確かに犯罪から一定の期間を経過すれば処罰されない時効は、被害者や遺族にとっては、犯人の「逃げ得」に映り、不条理感が強い制度であろう。時間がたっても処罰感情は薄れず、やりきれぬ思いが募るのは十分に理解できる。
 しかし、反対論が根強いことにも留意せねばならない。死刑にあたる罪の時効は二十五年だが、長期間経過すればするほど、証拠が散逸するばかりか、被告人のアリバイなどの立証は困難になる。自分の記憶さえ定かでないのだから、十分な防御活動が不可能となろう。
 二〇〇四年から〇七年までに時効が成立した殺人事件は百九十三件ある。もし、時効が撤廃されれば、警察は際限なく捜査を続けることになるが、限られた捜査員の中で可能だろうか。特定の事件について、重点捜査をするならば、それ自体に捜査側の恣意(しい)が入り、被害者間に不平等も生じよう。
 時効成立後に真犯人が名乗り出て、無実の人が再審無罪となったケースがある。時効がなければ、いまだに真犯人が判明しなかった可能性もぬぐえず、冤罪(えんざい)を晴らす道が狭められる心配もある。
 DNA型鑑定も万能ではない。警察がDNA型情報を管理・利用しており、保管の在り方にミスがあってはならないのは当然としても、鑑定結果を過大視するのは、危険ではないだろうか。
 日弁連などは、そのような観点から、時効の延長・廃止には反対している。時効を一つの区切りと考える犯罪被害者もいる。被害者らの救済には、精神的・経済的な支援を惜しんではなるまい。法制審では問題点を探り、白紙で検討する議論を求めたい。
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法相、時効見直しの方向性示さず諮問へ
2009年10月23日中日新聞 夕刊
 千葉景子法相は23日、殺人など凶悪・重大犯罪の公訴時効のあり方を見直す必要があるとして、法整備のための要綱を作成するよう、28日の法制審議会(法相の諮問機関)に諮問することを明らかにした。
 公訴時効の見直しをめぐっては、森英介前法相が設置した法務省の勉強会が7月、殺人罪など法定刑の重い罪については時効を廃止すべきだとする報告書をまとめている。
 一方、民主党は政策集で「検察官の請求で裁判所が公訴時効の中断を認める制度を検討する」としている。党内には一時中断などで対応し、完全な時効撤廃には慎重な意見がある。千葉法相は23日の記者会見で、「見直しは必要だが、廃止は決めていない」と述べ、前政権の報告書にはとらわれず、具体的な見直しの方向性は示さずに諮問する考えを示した。
 諮問事項は、公訴時効見直しの具体的なあり方や、刑が確定した後に中断した場合の時効の見直しの具体的なあり方など。時効が進行中の事件について見直し後に遡及(そきゅう)して適用できるかどうかも検討対象となるとみられる。
 法制審では、勉強会で検討対象となった(1)時効廃止(2)時効の期間延長(3)犯人のDNA情報で氏名不詳のまま起訴(4)検察官の請求で時効停止(延長)-なども、あらためて議論することになりそうだ。
 殺人など死刑に相当する罪の公訴時効は2005年施行の改正刑事訴訟法で、15年から25年に期間が大幅に延長されたが、被害者遺族らから、重大犯罪の公訴時効撤廃を求める声が出ている。
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〈来栖の独白〉
 私も、時効撤廃には強く反対したい。

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